第144話

最初に動いたのは桜だった。


「『まず、渉が言っていた事を確認しないと…ね!』」


桜はモンスターの右肩の近くに向かって両手に持った苦無の内の一本を投げた。すると…


ジュッ


ズドドドドドドド!!


「『へ?』」


苦無の持ち手の一部から『着火』、その後は着火した部分から後方が切り離されてそのまま『ロケット』の様に直進する。

そして、


ガキンッ


ズドーンッ!


『Hoo!?』


右肩に命中し、そのまま『爆発』。モンスターも悲鳴を上げる。


「『燃料型稼働機構武器 〈花散〉。例えるならパンツァーファウストの苦無版だな、使い捨ての液体燃料型の対モンスター用爆裂式苦無。かなりの威力だな、巻き込まれたらひとたまりもなさそうだ』」


「『いや、何さらっとヤバいもの作ってるのさ!?』」


俺がそう言いながら走ると、桜はその場で止まりながら俺にツッコミを入れた。

あの武器はアルトが使う使い捨ての武器で、アレと今俺が持っている忍者刀を専用武器にしているキャラクターなのだ。

そして花散の威力は本物で、現に当たった肩の辺りにあった黒曜石の鎧を木っ端微塵に吹き飛ばしている。

しかし剥き出しの皮膚は無事な為、鎧しか破壊できなかったのだろう。元ネタの作品では苦無一本で鉄の鎧を着た巨人型ミュータントの片腕を肩から爆発で吹き飛ばした位の威力があったのだが…俺が再現した奴は威力が低い。作り方が甘かったのか…それとも火薬代わりに多めに入れた自家製液体燃料がいけなかったのか…


「『こりゃ、想定よりも威力が無いな。改良しないとダメだなっと!』」


「相変わらずの狂気の発想だな渉」


しかし、今はこれでいい。鎧を破壊してくれれば忍者刀で攻撃できる。

俺はそのまま鎧が壊れた右肩に向かって飛び、叶はまだ鎧が残っている左肩に向かって飛んだ。


「『お前の腕は危なすぎる、だから…切り落とす!』」


「切り捨てると言ったが、気が変わった。だから左腕で勘弁してやるよ!」ジャキッ


叶はそう言いながら白く燃える刀を構え、俺は逆手持ちしている刀の『鵐目』を左手で軽く叩く。


ブーーーーンッ


すると刀身全体が高速で『振動』する。


「『オラッ!』」


「チェスト!」


ズドンッ


『Uhooo!?』


ブシャー


俺は右肩へ凄まじい切れ味で何度も切りかかり、叶は白く燃える刀の一太刀で左肩を切る。すると俺達の攻撃によりモンスターの両腕は肩から切り離され、大量の出血と共に地面に落ちた。


「『電池型稼働機構武器 〈鈴虫〉、簡単に言えば忍者刀型の高周波ブレードだ。コレならジョブの補正がない俺でも片腕の両断くらいならできるんだよ』」


俺は着地してからそうを言うとそのまま走って離脱する。

鈴虫もまたアルトの専用武器だ。因みにゲーム内では高周波ブレードは別に存在するが、振りが早く、持ち運びや見た目もいいこの武器は人気がある。

そう、この苦無と忍者刀こそがゲーム内で『渡り鳥』と言われているアルトの専用武器である。


「相変わらずの変態技術、もはやドン引きの域に達してるね」


両腕を切った俺と叶が離れると、今度は一二三が骨の大蛇を上り、そこからモンスターの兜目掛けてそう言いながら走り出す。


「ぶっつけ本番だけど、取り敢えずガントレットを装備している右手にだけ多くカロリーを消費するイメージで殴ろう。大丈夫、私ならできる…多分」


そう言うと一二三の右腕から更に煙が出てくる。服と武器の関係上手首の隙間から出ているのは分かるが、ガントレットを装備している為まるでガントレットの隙間から排熱しているみたいに見えてしまう。


「多分成功、さすが私!」


『Hoga!?』


一二三はそれでもお構いなしに右手で思いっきり兜を殴る。その威力にガントレットに付いていた棘が兜に食い込み、大量のヒビと共にめり込んだ。

モンスターもまた両腕を切られた事に暴れていたが、その一撃を喰らい別の悲鳴を上げる。

だが、一二三の攻撃はこれで終わらない。一二三は更にガントレットの取っ手を出す。


「お前には兜はいらない、だから壊す!」


ドガガガガガガガガガ…


『…!?…!?』


そしてランマーを起動、高速で殴られたモンスターは声にならない悲鳴を上げる。

更に殴った時にできたヒビがどんどん増え、遂には左側の下顎から左の角までの鎧を破壊した。


「「「『桜!』」」」


俺達が一斉に叫び、一二三がモンスターからまた離れた。


「『ありがとう、皆!』」


桜はその場でクラウチングのポーズをとり、構える。


「『兄さん、オレに…』」


そのまま桜はスキルを使い、三人に分身する。最初に力の確認をしてもらった際に確かめた事だが、桜が分身を使うと純粋に凍念麒麟の力を分身にも使わせる事ができるのでマジで強い。触っただけでアウトの存在が三人に増えるのはモンスターにとって絶望しかないのだから。


「「「『いや、『私』に力を貸して!』」」」


そして、桜はそのまま走り出した。その速度はかなり速い、元となっているモンスターの身体能力も足されているとはいえかなりの速度だ。そう考えると分身の2人だろう桜達は先に先行して骨の大蛇をジャンプしながら登り、砕けていない残りの兜に体当たりをする。


バキバキバキバキバキバキ…


触った瞬間から凍り砕けていく兜、数秒後にはブレて消えた分身と共に兜は完全に壊れてモンスターのゴリラ顔が露出した。


「『私の目的、狩友全員の約束…そして、』」


最後に残った桜もまた骨の大蛇をジャンプで登り、ゴリラ顔の目の前にそう言いながら現れた。


「『真司兄さんの悲願、今こそ私が叶える!』」


そう叫ぶと桜はゴリラ顔に思いっきり右手の拳を突き立てた。


バキバキバキバキ…


ゴリラは何も反応するまもなく頭部全体が凍り、そして…


「『終局フィナーレだ、最後くらい綺麗に散るといい』」


殴っていない左手で指を鳴らすとそのまま頭部は砕け散り、動かなくなる。

俺はそれを見て骨の大蛇を操作して、モンスターを床におろす。

モンスターは動く気配は無い、頭部は砕けた断面は凍っているが両肩から未だ出血している。たとえ生きていたとしても血が足らなくなり結局死ぬのは間違いないだろう。


「『…』」


「…」


「…」


「『…』」


俺達はそれを見ると皆が向かい会う様に集まる、そして全員が左腕を握り…


「「「『「『狩猟…成功だ!』」』」」」


前に突き出し、全員の拳が叫び声と同時に当たる。

その瞬間、地面が輝き始めていつもの浮遊感が俺達を包み込んだ。


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