第142話

『Uho!?』


凍った液体の中、モンスターの声が響く。恐らく『凍る』事に巻き込まれたのだろう。


(⦅別にそれはいい…今はこのモンスターがまた溶岩から黒曜石を作るのを阻止しないとね…⦆)


オレはそう考えると、


バキバキバキバキ!!


「『ハッ!』」


全身に力を入れて周りの凍った液体を砕く。そしてそのまま普段とは違う、もはや別次元の速さで中央に走る。


「はや!?」


「…嘘でしょ…あれってまさか…?」


その行動に叶は驚いていて、一二三は何かに気づいたようだ。

そんな2人の声を聞きつつ、オレは走る速度そのままで自分から溶岩にダイブした。


バギバキバキバキバキ…


しかし普通なら溶岩に触る、もしくは近づいた時点で死ぬのが当たり前だが…今のオレなら問題無い。

何故なら溶岩がオレに触れた瞬間から溶岩が『溶けている状態のまま完全に凍った』からだ。


『Hoo!?』ズシンッズシンッ


モンスターもその光景を見て驚きながら後退りをしだす。無理もない、何故ならオレは熱エネルギーすらそのまま凍らせたのだから。


「な…何だありゃ!?」


「やっぱり…アレは私が見た瞬間に本能的に逃げ出した5匹のモンスターの1匹…いや、『一頭』と読んだ方が正しいかな?」


どうやら叶は初めて見るようだけど、一二三はこの姿のモデルを知っているみたいだ。

オレはその声を聞きつつに笑顔になりながらモンスターに振りむく。

今の俺の姿は髪は長髪にはなっているが、鮮やかな光沢のある『水色』になっていて、髪型も髪の毛の一部が凍って『ポニーテール』になっている。

それに頭にはヘラジカの様な黄色い角とおでこに『小判サイズの水色に発光している小さい角』が生えている。

更に言えば目は黄色になり、下半身からは水色の『馬の尻尾』の様な物まで生えていた。

そんな姿のオレはモンスターを視界に捕えるとそのまま笑顔になりながら言葉を言う。


「『人体総変異 タイプ《凍念麒麟》、凍るという『概念』自体を生き物にした様な最悪の幻獣さ。でも、お前と戦うならこれ以上ない最適解かもね』」


『UOO!?!?』ダッ


二重に重なる声でそう言うとモンスターは壁際まで移動していた。その際に気づいたのだが、右腕の小手が無くなっている。恐らくオレに攻撃をした際に凍ってしまって、その際に無理に力を入れたから凍った部分が砕けてしまったのだろう。


「…凍念麒麟?」


叶は聞き覚えの無い名前に頭を傾けていだが、モンスターにはそんな隙だらけの叶の姿があっても気にしている暇は無いのだろう。完全にオレから目線を離さないようにしている。


『Ho』ブンッブンッ


モンスターは壁に山の様に積まれている死体や骨などを次々とオレに向かって投げてくる。

しかし…


「『無意味だよ』」バキバキバキバキバキバキ…


『…Ha?』


オレに投げた物は全て触れた瞬間に触れた部分が凍り、そのまま砕けていく。故に投げられた物が当たる先の痛みはないし衝撃も物凄く弱い。

そんな姿をみてモンスターの露出している両目は見開いていて、目の前の光景を信じられないと言う感じでみていた。


「…やっぱり、あの能力は反則」ガチャガチャ


「よし、無事合流…んで、あれは何?どう言う事?」


視界にはいってはいないが、どうやら2人は合流したらしい。そして現状を理解している一二三に叶が質問していた。


「凍念麒麟…雪などの寒い深層にしか生息していない超激レアモンスターであり未だ誰も狩れていないから映像と奇跡的に生き残った人の証言でしかその力を知る事ができないモンスター。

あのモンスターに触れた物はすべて『凍る』。どれだけ熱かろうが元々凍っていようがエネルギーやガスなどでも関係ない、その全てをその状態で『原子レベル』で凍らせる。そして凍った物は触るだけで簡単に壊れてしまう、正に『凍る』と言う概念を生き物にした天災級のモンスターだよ。

私も一度だけ遭遇した事があるけど一目でやばいと感じたからスグにその場から逃げたんだ、だからその後にあのモンスターの事を調べて知った。本当にあの時逃げて正解だった。」


「いや、ヤバすぎでしょ…!?」


一二三の言葉に叶は驚愕の声を上げていた。

確かに一二三の言う通り、この姿のベースとなった凍念麒麟の能力は『凍る』と言う概念だ。

この状態の体に触れた物はオレの任意で全てが凍り、砕ける。武器はいらない、少し力を入れて触るか少し硬い物に触れるだけで凍った物は砕け散ってしまう。正に攻防一体型の能力だ、但し必ず凍らせる為には自分の体の何処で触れるか触らせる必要があるから近接戦闘が基本になってしまう、故に閃光玉や煙玉などの妨害があった場合は防がないとまともに食らってしまう事などの弱点もある。

だが、あのモンスターならその心配はない。故に戦える。


「『真司兄さんから貰い、渉が作り上げたこの力でお前を倒す!』」


オレはそう言うといつでもかけ出せる様に構えた。

真司兄さんが俺に誕生日プレゼントとして渡してくれたのは凍念麒麟の角だ。

兄さん曰く、ダンジョンに潜っていた際に凍念麒麟と遭遇したそうだ。

しかし麒麟は枯れた木に角を当てて何かをしていて兄さんに気が付いていなかった、だから兄さんはその場で息を潜めて様子を見る事にした。すると何回か木に角をぶつけていると不意に兄さんの目の前の地面に何かが突き刺さった、それが俺にプレゼントしてくれた角だ。

その後、麒麟は満足したのか何処かに走り去り、兄さんはしばらく動かずに周囲の安全を確かめてから角を回収したそうだ。

帰って来てからそれをプレゼントしてくれた兄さん曰く「おそらく偶然角の生え替わりの時に遭遇したんだと思う。本当に運が良かった」と言っていた。

そしてそれを兄さんの愛用していたジッポライターと一緒に渡して作ってもらったのがこの姿だ。

渉曰く「まあ、物として存在している外付けのスキルみたいなもんだ。5分しか変身できないから使うタイミングは慎重にな」と言っていた。

だからオレはコレを使うのは渋っていたのだが、渉が使えと言うなら使う。何故ならオレも今がそのタイミングだと思うから。


「『皆の為にも、必ず勝つ!』」


オレはそう言いながらモンスターを睨む。


『…』ズンッズンッ


モンスターも、壁際で足を動かしながらコチラを見ている。

恐らくオレがいつ動いてもいい様にしているのだろう、やはりこのモンスターは侮れない。

そしてオレ達が睨み合いをして数秒がたった…そんな時だ、




ズドドドドドドド…




「『!?』」


『Ho!?』


「な…何だ何だ!?」


「え…嘘…この匂いって…」




壊れたエイセンがある所から『白い火柱』が上がったのは。

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