第141話
〜〜 side 月神 桜 〜〜
「う…そ…だろ…?」
「…渉…」
渉の投げられた場所にエイセンが投げ込まれたのを見た叶と一二三はそれぞれ放心状態になっていた。
投げ込まれたエイセンは前輪が歪み、履帯も一部壊れている。間違いなくもう動きそうにないし、あの壊れ方なら間違いなく投げられた先にいたであろう渉はもう助からないだろう。
そしてその一連の流れを作ったモンスターは、
『Uho、Uho、Uhoho♪』ズシンッズシンッ
その場で小刻みにステップを踏んで全身で渉を殺した事に対しての喜びを表現していた。
「…んなろうが、よくも大事な友達を…渉を…テメェだけは絶対に切り捨てる!!」
「…グアアアアアアァアア!」
叶は目に殺意と涙を流しながら般若の様な顔になり刀を構え、一二三は泣きながらもまるで自分を奮い立たせる様にその場で吠えながら震えていた。
「…一二三、渉が託した物を準備して、叶は私がいた所にあるケースの回収をお願い」
しかし、オレは冷静になって渉の言った事をするべく一歩前に出てそう2人に言う。
「…桜、すまないがそれは出来ない。アイツは俺の友達を…友達を…!」
「この世に生まれて来た事を後悔させる、渉の仇を討つ!」
オレの言っだ言葉に対して、後ろの2人から返ってきた返事には怒りと殺意を感じた。あの2人は渉が死んだ事に見た目以上に怒りを覚えたのだろう。
だが、オレには渉に託された事がある。意地でもそれはしなければならない。
「…2人とも、リーダー権限だよ…2人は…渉の思いを無駄にするつもり?」
「「…!」」
オレが顔を横に向けると2人の表情は少し元に戻った。
何故ならオレもまた顔が怒りの表情が張り付き、目からは涙が、唇から血が流れているからだ。
「…わかった、でも桜は今何も武器を持ってない。どうするの?」
一二三はそう聞いてくる、確かにオレの武器だった2本の短槍はあのモンスターの攻撃を防ぐ為に盾にした、だからもう両方曲がってしまってもう武器として使えないだろう。
故に俺は右手でアイテムポーチの中から渉から作ってもらった『ある物』を取り出す。
「大丈夫、だって…」
そして俺は取り出した物の蓋を開け、叶達に見せる。
「これがあるからね」
シュッ
ジャキッ
「「!?」」
叶達は目を見開いた。何故なら俺の手には桜の花びらが彫られた一回り大きい『ジッポライター』があり、本来火が出るところからは赤い氷柱の様な針が出ていたのだから。
〜〜 回想 7月 30日 カラオケ店内 〜〜
「全く、俺に次兄の遺品である愛用の『特注のジッポライター』と誕生日プレゼントとしてもらった『深層のモンスターの角』を渡された時はめちゃくちゃ焦ったぞ。
俺も装置を作るのは失敗も含めてまだ数回しかないから作るのにメチャクチャ緊張したわ」
「ごめんね、でもどうしても真司兄さんの貰った物を使った武器を作って欲しかったんだ…でも、まさかこんなにもヤバい物を作るとは思わなかったよ」
オレは渉に頭を撫でられながらそう言う。
「まあな、俺もライターだけならまだ他の奴を作ろうと考えたんだがな…まさか角から完璧な細胞が発見されるとは思わなくてな、ならアレがいいと思って」
「やり過ぎだよ、正直言って体の負担が酷い。渉がいなかったらその場で気を失うと思うな」
オレは渉の手の感触を確かめながらそう言う。あの状態の後の副作用は相当酷い、渉はよくあんな物を作ろうと考えたもんだと思ったよ。
「まあな…俺のスキルとジョブは全部が制作と採取系ばかりだ。だからモンスターにはどうしても力負けしてしまうのさ。だから例え時間制限があり、かつ副作用が酷くても使うしか選択肢は無いんだよ。じゃないと結局は死ぬだけだからな…」
「渉…」
撫でる手を止めて部屋の天井を見る渉、その顔はどこか懐かしい物を思い出した様な表情をしていた。
「ま、桜にもいつかは分かるさ。自分の力だけでは絶対に勝てない相手でも。絶対に勝ちたいと思ってしまう気持ちがさ」
そう言うと渉はまた頭を撫で始めたのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「2人とも、行って。巻き込まれたら責任は取れないよ」
「「!?」」
手の中にある物を呆然と見る2人にそう言うと2人は察してくれたのか急いでそれぞれの向かう場所に走り出した。
『Uho?』
モンスターも、オレが何をしようとしているのかが理解できないのかこちらを見て首を傾げていた。
「渉、やっとわかったよ。あの時の言葉の意味が」
そう言うとオレは手首に針を近づける。
「オレはあのモンスターに勝ちたい、真司兄さんの為とかじゃ無い。今生きる2人の為、渉の為、そして自分の為にも必ず勝ちたいと心から思える…だから使うね…」
そして針が少し皮膚に刺さり、血が出る。
「人体…総変異!!」グサッ
そして俺はそのまま針を奥に押し込み、そう叫んだ。
すると手首の傷から赤黒いゼリー状の液体が溢れ出て、そしてその液体はオレの全体を包み込んだ。
シュワシュワシュワ…
『Ho!?』ダッ
オレが気泡で前が見えなくなる寸前、モンスターがこちらに向かって走ってきていた。
しかしもう遅い、オレの全身に熱が回り切ったその瞬間、
バキバキバキバキバキバキ…
『Hoa!?』
オレを包む液体が瞬く間に『凍った』。
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