第139話

「…は?」


「畜生、予想的中かよ!」


モンスターの突然の奇行に叶は目が点になってしまったが、俺は想像していた事が正解だった為に文句を大声で言った。


「…渉、何であのモンスター…自殺したの?」


叶は俺に向かってそう言ってくる。確かに一般的に生き物が溶岩に落ちたら普通は死ぬ、故に叶もそう思ったのか自殺と言ったのだろう…だが、俺は知っている。黒曜石と溶岩、そして前世の狩りゲーの知識で理解したのだ。


「叶、構えろ。アイツは死んでない、自分を『強く』する為に溶岩に入ったんだ」


「…いや、それはさすがッ!?」


俺が叶にそう言うと叶は俺に何かを言おうとた…のだが、その言葉の途中で中央の溶岩の辺りから強い殺気が放たれた。

その殺気を感じた叶は驚愕の顔をしながらまた刀を構えた。桜の方をみても2人とも顔はビックリしていたがキチンと戦闘体勢を取っている。

俺はそれを見てから、叶の隣に行き武器を構えた。


「嘘だろ?…溶岩に入ったんだぞ…」


「叶、この禁層みたいに火山地帯がメインの階層を持つダンジョンは日本にも幾つかあるんだよ。

そしてその階層のモンスターの一部に『溶岩の中で生きているモンスター』がいるんだ。

つまり溶岩で死なないモンスターもいるんだよ、だからあのモンスターがそうであっても不思議じゃない」


俺は叶の呟きに答えて、更に会話を続ける。


「そして、アイツは黒曜石を『全身』に纏ってた。だから最初俺はあのモンスターは鉱石を自分で生成できる能力があるもんだと思っていた…けと、それは間違いだった…」


俺がここまで言うと、中央の溶岩が徐々に膨れ上がる。


「あのモンスターの特徴は、『溶岩の中でも生きられる体』と『溶岩から黒曜石を生成できる力』だ!」


俺がそう言い切った瞬間、膨れ上がった所が弾け飛び何かがゆっくりと姿を表す。


『Goo…』


「ふ…『フルプレートアーマー』!?」


「…訂正する、黒曜石を生成する力じゃなかった。『黒曜石を生み出し、自由自在に好きな形にできる力』だった」


溶岩の中からゆっくりと出て来たのは声は間違いなくさっきまで戦っていたモンスターの物だったが今は全然姿が違う。

何とモンスターが全身を守る様に黒曜石でできているであろうフルプレートアーマーを着けてきたのだ。しかも鎧の頭には羊の角のような角が装飾品としてついていて威圧感も凄まじい。

そんな姿を見た叶は驚愕し、俺は自分が予想していた力よりももっとやばい力だったので逆に冷静になり、間違いを訂正していた。


「いや、モンスターが武装してくるのは予想できんわ」


「旧歌舞伎座の禁層攻略の時も途中から骨でケンタウロスもどきになったんだ、だからあのモンスターが武装してくるのも不思議じゃないん…だかな…」


『…』ズドン、ズドン…


俺達がそう話している最中でもモンスターは溶岩から歩いて出てくる。

先程までとは違う明らかに重い足音が響き、奴は溶岩から出て来た。

そして…


『GaaaaAaa!!!!』バキバキ


今までの怒りを表現するかの如く、大声で吠えた。

その際に鎧の頭の一部が砕け、そこから血管が浮き出た黄色い目が両目とも確認できた。


(チィッ…やっぱり怒り状態になったか…と言う事はこれからは禁層のモンスターは基本怒り状態を持っているのを前提にしなくちゃダメだな…)


俺は渋い顔になりながらそう考えた。

怒り状態がこのモンスターにもあり、前回のあのモンスターにもあった。つまり今後攻略予定のダンジョンの禁層にいるモンスターも怒り状態になる事前提で考えなければならない。

やはり禁層は地獄だ、明らかに深層よりも危険性が桁違いに跳ね上がりすぎている。


『Hoo!』ダッ


そして、モンスターは吠えた後スグに叶と俺に向かって突撃して来た。


「『置楯』!」


そんな姿を見た叶は急いでスキルを発動、目の前に置楯を出現させ、叶はその後ろで武器を構えた。

俺はそれを見た瞬間、突撃した。


「それはダメだ叶!!」ドンッ


「ちょ!?」


叶の方に。

そのまま叶の腰にタックルをかまし、叶ごと横にズレる俺達。そして次の瞬間、


『Uhooo!!』ドガンッ!


叶の出した置楯にぶつかったモンスター、しかしモンスターはそのままの勢いで置楯を粉砕した。

その後は粉砕した場所に前のめりで倒れ込み、俺達の方に顔を向けたまま血走った黄色い目でじっとコチラを見てくる。


「うそ…だろ…!?」


「チィッ、やっぱりあの時の骨と同じか!本来割れやすい筈の黒曜石を叶の置楯以上の強度にしつつ、全身に鎧として付けるとかもはや意思のある砲弾じゃねぇか!?」


叶は自分の置楯が粉砕された事に非常に驚いていた。

俺も確証があった訳では無い、しかし以前戦ったあのモンスターは怒り状態になって纏った骨が異常に硬く、人体総変異でようやく砕けたのを体験したからこそ万が一の事を考えて叶を助ける事にしたのだ。

実際その予想は当たり、見事に叶の置楯は砕けているのにモンスターの鎧は一切傷がついていない様に見える。


ガンガンガンガン…


「嘘でしょ?硬すぎる…!?」ガンガン…


カンッ…カンッ…


「「こっちもダメ、鞭にして叩いたり槍で突いても傷一つ付かない!」」


更に言えばいつの間にかこちらに近づいてきてモンスターに攻撃をし出した桜や一二三だが、それぞれ攻撃が通らない事を甲高い音を鳴らしながら叫んでいた。

そんな攻撃を受けている最中でもモンスターは我関せずと言わんばかりに俺と叶を見てくる、まるで品定めを行っているみたいで何故か背筋が寒くなってきた。

だが、同時に俺の中でこのモンスターを狩りたいと言う気持ちが溢れてくる。

そして俺はその場で大きく息を吸う。


「スーッ…全員、関節部を狙え!いくら硬いフルプレートアーマーでもそこは必ず動く為に柔らかくしなければならない場所だ、だから攻撃が通るはず!」


「「「!」」」


俺がそう叫ぶと桜と一二三が同時に右足の膝の裏を攻撃する。


ズジャッ


『Gua!?』


すると攻撃が通ったのか攻撃した場所は傷がつき、少しだが血が噴き出た。

これにはモンスターもたまらず起き上がる、俺はそれを見ながら叶に声をかけた。


「叶、この世に死なない生き物はいない。何処かに必ず弱点がある、だから絶望するな、前を向け、必ず皆でアイツを狩るんだろ?」


「…ああ、そうだな…よし、やってやるよ!」


置楯が破壊された事に叶は心が折れかかっていたんだと思う、だから俺は叶に発破を掛けて勇気づけた。だからだろうか、叶はまた立ち上がり武器を構え直す。そしてモンスターに向かって走り出した。


「叶はこれでよし…後は」


俺はそう言いながら武器を構える。


「アルトの専用武器…『3番と4番のコンテナ』を使うタイミング…それを見極めないと…」


そう呟くと、俺もモンスターに向かって走り出した。

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