第138話

〜〜 東京スカイツリー展望デッキ内ダンジョン 禁層 14時55分 side 佐藤 渉 〜〜



『Hoo…』


「4人がかりで戦って、しかも血まみれなのにまだ戦う意思があるとは…見た目以上にタフだなこのモンスター…」


俺達が戦闘を開始してから大体40分くらいだろうか?…まあ、その位の時間が経過した。

現在の状況は俺達は何とか息は上がって来て入るがほぼ無傷、但しチョッパーの電池が切れてしまった事と一二三が貯めていたカロリーがら残り半分くらいしか無いと言っていたのが気になるくらいだ。

対してモンスターは拳と頭部、足の甲辺り以外の鉱石が剥がされ、血まみれの体毛が目立つ痛々しい姿になっていた。しかし、戦闘の意思はあるのか今はその場で動かないで息を整えている。


「…と言うか、結局あの鉱石って何なんだろうな?」


俺の隣で刀を中段に構えながらモンスターを警戒しつつそう呟いた。


「ああ、あの鉱石な。『黒曜石』だったよ、実際に鉱石を砕いた時の細かい破片をこの目で見たから間違いない」ガチャガチャ


「黒曜石って…アレか、確か縄文時代に使われていたって石だよな?」


「ああ、溶岩が冷えて固まると稀にできる鉱石な。別名で『天然ガラス』とも呼ばれている、あれマジで断面を研げば肉とか切れるから当時の狩猟道具とかにも使われていたんだよ…と」ガチャガチャ…ガチャン


俺はモンスターが息を整えるためにお互い睨み合いをしているのを利用して叶がモンスターを警戒してくれている後ろでチョッパーの電池を交換しながらそう話した。

実際に俺も近くで見るまでは分からなかったが、偶に他のダンジョンに流れている川へモンスターの返り血を洗い落としに行く際に小さい黒曜石が転がっているのを何となく見ていた為何とか鉱石の正体に気がついたのだ。


「ゼェ…なら、殴り壊しやすかったのも…ゼェ…納得できる…ゼェ…」


「「一二三、無理して喋らないで。息を整えるのに集中して」」


そして、そんな会話を少し離れた位置にいる2人に分身した桜とその後ろで龍人化はしているものの身体中から出ていた煙が消え、代わりに顔面汗だくになって片膝をついている一二三が反応した。


「桜、一二三の状態は?」


「「もう少しかかりそう、何せ本人曰く初めて30分以上連続でカロリーを消費する力を使ったみたいだからね。スキルの反動がある事自体、本人も知らなかったみたいだし」」


「…そうか」


「ゼェ…ゼェ…」と桜の後ろで息を整えようとしている一二三を見て俺は顔が渋くなる。

実は『暴食』のカロリーを消費して自身を一時的に強化する力には一二三も知らなかったデメリットがあったのだ。

連続で使い続けた時間か、消費したカロリーが原因かは分からない。ただ一二三がモンスターとの睨み合いが始まっですぐに「貯蓄しているカロリーの節約をする」と言い、身体中から出ていた煙が止まった。しかし、その直後に一二三の表情が驚いた時の顔になるとその場で片膝を付き顔面から汗を流して呼吸が荒くなったのだ。


(一二三のあの状態の原因は不明…だが、唯一わかっている事はある。

それは一二三が貯蓄しているカロリーが残り半分しかない事だ。そしてあの状態を見るに…最低でも後30分以内にケリをつけないと一二三がヤバいな…)


俺はそう考えた。一二三は確かに強い、だが今の現状を考えるとあまりこの狩りが長引くとまず先に一二三が戦闘不能になってしまう可能性が高い。

ならばそれを仮定すると4人であのモンスターと戦える時間は大体30分くらいだ、それ以上は一二三が持たない。そうなると火力不足で最悪の場合は全滅も考えられる。


「皆、すまんが今から…」


俺が皆に今考えた事を話そうとした…次の瞬間、


『Gaa!』ダッ


「「「「!?」」」」


いきなりモンスターが俺達に向かって突撃して来たのだ。


「渉!」ダッ


「わかってる!」ダッ


俺と叶は急いでモンスターの突撃する直線ルートから走って離れた。


「一二三!」ガシッ


「ごめんね、桜」


桜もまた分身に一二三を立ち上がらせて、そして本体の方は更に一二三の体の下にまわり込んでお姫様抱っこで一二三を抱えた。そのまま本体の方の桜は走って避けたが、分身の方はそのまま走ってくるモンスターに轢かれ、ブレて消えた。

更に…


『Haa!!』ダダダダ…


「え?止まらない!?」


「まさか…逃げる気か?」


何とモンスターはそのままの勢いで走り去り、俺達の後方に向かって進んで言ったのだ。

その行動に桜は驚きの声をあげ、叶はモンスターが逃走したのかと言い出した。

しかし、そんな事を俺達が言っている間もモンスターは中央に目掛けて突撃していく。

そんな中、俺は急いで思考を回らした。


(おかしい、確かにこのモンスターは頭がいいから自分が不利な状況なら逃げる選択肢をとるのも納得できる。だが、この場所に入って来た段階で出口は自分の『黒曜石』で通りにくくした筈だ、自分で作ったそれを崩してまで逃げる?何故?…それにこのまま走り続けると中央にある『溶岩』に突っ込む事に…溶岩?)


俺は自分で考えていると不意にモンスターの進行上にある溶岩がある場所が目に入り、頭に何かが引っかかった。


「溶岩…黒曜石……まさか!?」


俺は自分が言った言葉を思い出しながら呟く、するとある一つの答えに行き着いた。


「ヤバい、叶は構えろ!桜も一二三を降ろせ、スグに動ける体勢になれ!!」


「うぉ!どうしたんだ渉!?」


俺が急に叫ぶと全員が俺をみた、しかし俺は自分が考えてしまった事実に驚愕しつつ叫ぶ様に言う。


「あのモンスターは逃げるために走っているんじゃない!、アイツの目的は…」


俺がそう言いかけると、走っていたモンスターはいきなりその場でジャンプをした。

そしてジャンプして空中にいるモンスターそのまま…


「中央にある溶岩だ!」


『Uho』ザブーン


中央の溶岩にダイブした。まるでプールに飛び込む子供の様に。

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