第132話
「…狩り…ゲー?」
「な…何それ?そんなゲーム聞いた事ないよ?」
「それにダンジョンに挑んでゲームを作るのが夢?意味が分からない」
俺の発言に三人ともそれぞれ違う反応をする。
「…と言うか渉、お前プログラム作れるの?」
そして叶がそう聞いてきた。
「いや、作れない。専門分野が違う、俺ができるのはパソコンを一から組み立てて初期設定をするレベルまでだ。流石に一からプログラムは俺にも作れないよ」
「いや、プログラム作れないんかい」
俺の返答に叶がツッコミを入れてくる。
まあプログラムを一からキチンと勉強すれば多少はできるかもしれないが、流石にゲームを作る事はできないだろう。
何せ俺の『職人』のジョブは物を作ったり修理したりするのには補正がかかる。つまり実際に触っていじれる物は作れるのだがプログラムはいわば文章と数字を並べてたり組み合わせたりしてで作る資料の束みたいな物だ。流石に俺のジョブの補正外、つまりプログラムに関しては自力で覚えるしか無い。
「…まあ、話を聞けって。キチンと理由を話すからさ…」
俺がそう叶に言うと叶は口を閉じるくれる。俺はそれを見てから話を続けた。
「…昔、とある会社が狩りをテーマにしたゲームを作ろうとしていた。
しかし、そのゲームのデモムービーを見てしまったスタンピードを経験した人達がムービーに映るモンスター見ただけでスタンピードの時の恐怖…つまりPTSDを発症してしまう事件が起きたんだ。そのせいでゲームは無期限開発中止、その後ももめにもめて最後には大規模な裁判沙汰になったんだよ。
その後、ゲーム業界ではこの裁判が原因で狩りをするゲーム自体が作られる事は無くなってしまったんだよ…それにな」
俺は昔調べた事を簡単にして説明しつつ話を続ける。
「狩り…つまりモンスターを倒して装備を作ったりお金を稼いだりする…そんな事はダンジョンがあるこの世では当たり前の光景だ。そんな当たり前をゲームにしても面白いのかと言われたら微妙な所だ。
そんな博打みたいなゲームを何故俺がつくろうとしているのか?何故作ろうとしているのにプログラムの勉強ではなくダンジョンを攻略しているのか?…答えは簡単だ。俺が狩りが好きだから、理由はそれだけでいい」
俺はそう言うとまた一息入れて話を続ける。
「俺は昔からモンスターを狩る行為に魅せられた。
あのお互いの生存をかけた命のやり取りに心が踊った。
事前に行動パターンを理解して罠などを準備する事で狩りをしやすくする行動に感銘を受けた。
モンスターを狩り、そのモンスターの全てを使って自分の武器や防具を作り他のモンスターを倒す事に魂が痺れた。
だから俺は狩りが好きだ、狂う程にな。
そして狩りが好きなのは何も俺だけでは無い、アングラの方だし他のジャンルのゲームよりもクオリティやグラフィックも低いが狩りをするゲームは少ないが確かにある。
つまり、ゲームでも狩りをしたい人は少なからずいるんだよ……だからこそ、俺は作りたいと思ったんだ」
俺はそう言うと空を見上げる。
「ゲームを作る際のモンスターや世界観などの資料が足りないかもしれない?…なら、俺がダンジョンに潜って全ての資料を集めるよ。
武器や防具のデザイン案やモーションのデータが無いかもしれない?…なら、俺が作る物を参考にしたり俺自身で全モーションのデータを取ればいいよ。
そもそも、俺がプログラムが作れないならゲームが作れないだろう?…なら、俺がダンジョンに潜り、開発資金を稼いでプログラマーなどの必要な人を雇い、必要な設備や道具を用意するよ。
仮にゲームを無事に作れても過去に起きた事件みたいにまた裁判沙汰になるだけだ?…なら、俺自身がダンジョンを踏破するなりして世界の狩りに対する意識を変えて、そうならない様にするよ。
俺は俺以外の…狩りが好き、若くは狩りに興味がある人達の為に絶対に狩ゲーを作りたいんだ」
俺はそう言うとまたドローンに向き直る。
「…以上、この2つが俺が危険なダンジョンに入ってモンスターと戦ってでも叶えたい二つの夢だ。
この2つの夢があるから俺はダンジョンで戦って傷ついても決して折れないし諦めない、俺の全てをかけてでも叶えたい…俺の中では最高の夢だからな。
だから俺は夢を叶えたい奴がいればできるだけ応援したり手伝ったりするんだよ、夢を叶える辛さは知っているからね」
俺はそう言うとドローンに向かって真剣な顔をする。
この世界には狩りゲーは無い、だが少ないかもしれないが色んな人達がそう言ったゲームをやりたいと言う声があるのも事実だ。
前世で俺は狩りゲーをやり尽くしている、だからこそこの世界の人達にもあの楽しさを知ってほしい。
これは狩りゲーを知らない世界で唯一狩りゲーを知っている俺だけにしかできない事なのだから。
「…渉、意味が分からないって言ってゴメン。渉はキチンと考えて夢を追っていたんだね」
「一二三…」
少しの沈黙の後、一二三が俺に向かってそう言ってくれた。
「…たくよ、水臭えな。そんな夢があるなら友達として全力で協力させてくれってんだよ」
「叶…」
次に叶が頭をかきながら俺にそう言ってくれた。
「渉」
「桜…」
「渉、ドローンのコメントを見て?」
最後に桜が俺にドローンのコメントを見る様に言ってきた。俺は桜の言った通りに叶のドローンのコメントを見て…
「!?」
腰が抜けそうになる位びっくりした。
『俺、そんなゲームを見た事も無い!是非やっみたい!!』
『僕は体が弱くてダンジョンにいけません、ですがモンスターを狩る事に本当に興味があります!是非作って下さい!!』
『私はとある国の退役軍人でな、除隊理由はスタンピードで片足を無くしたからだ。しかし私はまだモンスターを狩りたいと思っている。だから、ぜひそのゲームのテスターをやらせて欲しい!』
など様々なコメントが流れているが一貫して俺のゲームを作る夢を否定するコメントは見えない、全てが是非そんなゲームをしてみたいという感じのコメントだった。
「こ…こんなにも…皆が狩りをしたがってたのか…!?」
俺は予想外の事態に言葉がつまりかけていたが何とか声を絞り出して言った。
正直に言うと、俺のこの夢はスタンピードの被害者の事を考えてないとか言われて否定されるもんだとばかり思っていたのに、まさかの真逆の反応が来てしまったからどう反応すればいいか分からなかった。
そんな事をしていると、俺の隣に桜が現れた。
「渉、君の夢は誰も否定しないよ。リスナーの皆も君の作る装備やゲームを絶対に欲しいと思っている。
だから、ここにいる私達『狩友』の皆でその夢を一緒に叶えよう?
だって君はオレに言ってくれたよね、『夢は叶えるためにあるんだぜ?』ってさ」
桜の言葉にいつのまにか近づいて来ていた一二三と叶が頷いて肯定していた。
「…ありがとう…本当に、ありがとう…」
そして、俺はそんな皆を見て思わず涙を流してしまった。
その後、ひとしきり泣いた後に俺は心に誓った。俺の知る名作達のオマージュも余りしない、この世界で感じて、調べて、体験した全てを盛り込んだオリジナルの狩りゲーを絶対に作る事を。
そして、とうとう運命の14時になり俺達『狩友』はリスナー達に一言、『行ってきます』と言ってエイセンに乗り込んだのだった。
…ジジッ…ジジジッ…
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