第129話

〜〜 side 佐藤 渉 〜〜


いや、何だこの状況?


「…」ボー


「本当に大丈夫なのか一二三?さっきから顔がブレて見えるんだが??」


「…『ブンッ』気のせ『ブンッ』いだ『ブンッ』『ブンッ』よ、し『ブンッ』んぱい『ブンッ』『ブンッ』しすぎだよ『ブンッ』『ブンッ』『ブンッ』『ブンッ』」


「いや、誤魔化せてないぞ!?めちゃくちゃ高速で振りすぎて顔が二つに見えるって!?」


桜は俺を見てボーとしてるし一二三はめちゃくちゃ首を高速で振ってるから残像で顔が二つになってるし、そんな一二三の状態を新装備を着た叶がオロオロしながら漫才していた。


「…取り敢えず手短に桜から正気にさせるか…」


俺は頭に片腕を当ててそう言うと桜に近づいていく。

残り30分、叶達のが配信を始める予定時間が10分前の13時50分だから時間が惜しいと思ったからだ。



〜〜 5分後 〜〜



「すまん渉、助かった。俺だけだとバグった一二三を止められなかったわ」


「本当にありがとう。後、今の装備すっご似合ってるよ」


「不覚、私とした事がまたやらかしちゃった。こうなったら叶と今後もコラボして耐性をつけるしかない」


一二三の発言に「マジで!?」と叫ぶ叶、俺は何とか三人を正気に戻す事に成功した。

まあ、一二三はどうしてかまだ混乱しているみたいだが後15分もあるからその間に治るだろうと思いつつまたあたふたし出した叶を見る。


「…良さそうだな、叶の動きの邪魔にもなってないし、何より似合ってる。やっぱり『カダム装備』と『狂骨刀 打ち直し』を渡して正解だったな」


「うぇ?…お、おう。ありがとうな渉」


俺の言葉に叶は不思議そうな顔をして答えた。

叶の装備は『Monster Hand Live』に出てくる『神風鳥 カダムラム』と言われる突撃重視で攻撃してくる体色が紫色のダチョウ型モンスターから作れる装備である『ガタム装備一式』だ。

元々ゲームの中盤で作成できる装備であるガダム装備は装備すれば素早さ補正や走った時のスタミナ減少のスキルが発動するのだが、ここは現実なのでそんなスキルは発動しない。

しかし装備のデザイン的に見れば和装かつ動きやすさ重視の装備で、防御力も俺が深層の素材を使えばゲームより防御力が上になる。故に叶の要望にも完全に合うとは考えてはいだが実際に着ている所をみると本当に似合っている。正直ここまで似合っていると作った側である俺は非常に嬉しい。

それに武器だって見た目こそ変わってないが『狂骨刀 浅打ち』から次の段階である『狂骨刀 打ち直し』に進化しているから更に切れ味が上がっている。見た目は変わらないのに火力が上がっているのは狩りゲーあるあるだから他の人から見れば叶が使っている刀にしか見えないが残念だ。


「と言うか、お前の装備は何だよ?めちゃくちゃ大人っぽい装備じゃん。しかも髪型をワックスを使ってオールバックにしてるし縁無しの伊達メガネをかけてる、めちゃくちゃオシャレだな」


「うん、似合ってるよね」


叶がそう俺の装備について言うと桜も装備について褒めてくれた。


「ありがと、似合っているか心配だったが心配しすぎだったみたいだな」


俺はそう言うと笑顔になる。

俺の装備は『people's redemption 〜罪を狩る者達〜』のDLC『渡り鳥の目指す場所』に出てくるキャラクターでありゲーム内にて『渡り鳥』の二つ名をもち、世界中各支部を気分で渡り歩くミュータント狩りのスペシャリストである『アルト(24歳 男性)』のキャラクター固有装備、『渡り鳥の正装』だ。

『渡り鳥』と呼ばれるアルトはゲーム内では各支部から常に依頼を同時に複数件受けていて、常に依頼の為にミュータントを狩り続ける社畜みたいな生活をしている。

しかし、依頼を完了した際の報酬の中から自分に最低限必要なの金額だけをもらって残りは食料や生活用品などを買ってはその地域の孤児院に寄付するなど優しい一面も持つキャラクターなのだ。

そんなキャラクターの装備がこの装備であり俺のお気に入りのキャラクターである。


「…あれ?お前そういえば武器とか装備してなくね?」


「ああ、今回の武器はデカいから先にエイセンに積んどいたんだよ」


俺は叶の言葉にエイセンを指差して答える。

DLC『渡り鳥の目指す場所』にも新しい武器などがあるがこのDLCには目玉となる画期的なシステムがある。

無論アルトはそのシステムを完璧に使う為、そのシステムを再現したのを先にエイセンに積んでおいたのだ。

その為エイセンの荷台が少し狭くなってはいるが叶と一二三が乗る分には問題ない広さはある。


「へぇ…どんな武器か気になるな…」


「まあ、一言で言えば『今の俺の全力』…かな?」


「何それ、超見たい。ちょっと見てくる」ダッ


「「「一二三、ダメだよ?」」」ガシっ


叶がエイセンの荷台にある布がかけられた四角い物を指差して尋ねて来たので俺がそう答えると一二三は興味がわいたのか見ると言って駆け出そうとした…が、その行動を予測していたのか桜が三人に分身して一二三の肩を掴んで全力で止めていた。


「…と言うかお前ら配信はいいのか?今13時46分だぞ?」


「「「あ、忘れてた」」」


そんな光景を見た俺はふとスマホで時間を確認した後にそう言うと全員が全く同じセリフを言ってその場で固まった。

いや、忘れるなよ。

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