第127話

〜〜 ソラマチひろば特設会場 13時 side 佐藤 雄二 〜〜




「《…素晴らしい、この薬が量産できれば我が国の狂犬病患者を救うだけではない、我が国にある一部のダンジョンの攻略するリスクを大幅に下げられる!》」


「効果は自信を持って保証できます。しかし、それはまだ治験もしていない試作品です。

それに薬の登録もしていないので販売もできません。ですので…」


「《分かっている、そこは日本の医療機関と我が国の医療機関で計画を立てる。そしてこの薬の量産が決まり次第我が国が全面的に支援する事を約束させてもらう。よろしいですね『真田総理』》?」


「はい、『アーノルド大統領』。我が国としても骨粗鬆症を治療する薬と合わせて量産させてもらいますね。ですからまずは…」


そう向かいあって話しているアメリカ大統領である『アーノルド大統領』と日本の総理大臣である『真田邦彦総理大臣』の2人と2人が持っている資料と試作品を見て私はほっと胸を撫で下ろした。

あの会長との男の喧嘩お話しをしていたら会長の奥様に制圧されて、しばらく説教を受けた後に作った薬の試作品と薬の効果を纏めた資料を準備して正装に着替えてから会社を出た。そして会場に入る前にギルドから各国の言語の通訳機能が搭載されたマイク内臓型骨伝導イアホンを渡されてそれを付けて会場入りした。

ここはソラマチひろばに設置された特別会場、現在この場には世界有数のVIP達が集まって会食しながら渉達が禁層を攻略するのを待っている。本来なら一般市民である私がこの場にいるのは不自然極まりないが、渉の父親であるからと招待状をもらいこの場に来ている。

もちろん桜お嬢様のご両親もこちらに来ている…が、叶くんのご両親はどうやら荒神中学校の会場の方にいるみたいだ、後一二三さんのご両親も一二三さんが通っている私立中学校の会場の方に行っているそうだ。


(…取り敢えず、この2人の会話の内容から考えて私の真の目的は達成できそうだな…)


私は2人の会話を盗み聞きしながらウェイトレスさんからノンアルコールの飲み物をもらい喉を潤した。

アメリカは今国民の約20%が狂犬病に犯されている、理由は様々だが主に原因となっているのが『狂犬病に発症しているモンスター』があげられる。

アメリカのダンジョンでは一部の職員のミスやマフィアの関与、自殺目的で職員に賄賂を渡してダンジョンに入るなど様々な理由で狂犬病患者がダンジョンに入れてしまった事があるのだが、そのせいでそのダンジョンの浅層のモンスターがその人を殺し捕食、狂犬病を発症し数日後には浅層のモンスターの殆どが狂犬病になってしまった。

こうなると本当に地獄だ、まず一般人は狂犬病のリスクがあるからダンジョンには入らない為その分モンスターの素材が手に入らない。

次にダンジョンに人が入らないからスタンピードが起こってしまう、しかもダンジョンから出てくるモンスターは狂犬病ウイルス持ち。そんなモンスターが一般自民を襲ってしまえば死ぬか生きても狂犬病になるしかない。

最後の理由は、そんなスタンピードを起こさせない為にも受刑者や軍人などを定期的に狂犬病ウイルスが蔓延しているダンジョンに送り込む必要があるから定期的に発病者が増えてしまうからだ。

そしてそんな地獄の様なダンジョンはアメリカだけで43ヶ所もある、ゆえに政府としても狂犬病は悩みの種なのだ。

故に私はそこに目をつけた。渉から回復薬βのレシピを預かって作った段階で材料と他の薬品を追加すれば狂犬病の特効薬になると勘づいたからだ。

故にこの約2ヶ月で回復薬βの成分を徹底的に解析、そして遂に試作品が完成した。その過程で偶然骨密度を元に戻す薬を作れる事に気がついてそちらも試作品を作った。

それも全て私の真の目的の為だ、その目的の為に急いでこれらを研究して作ったのだ。その理由とは簡単、


(渉、私は無事お前の足を引っ張るお荷物にはならなさそうだぞ)


渉の為だ。

渉は本当にすごい、人類で初めてダンジョンを踏破したしスキルやジョブも新たに増やした。ダンジョンで動く乗り物を作ったり回復薬βの様な常識破りの物まで作ってしまう。

しかし、そんなに目立ってしまっては必ず目をつけられてしまう。

渉だけなら何とかなるかもしれないが、もし私が人質に取られる事態になってしまったら渉は犯人の言う事を聞いてしまうかもしれない。

だからこそ、私は考えた。渉の枷にならない方法を、渉が今の様に誰にも縛られずに自由に生活できる方法を考えていた。

そして渉が回復薬αの件を会社で発表したその日の夜に私は今まで考えていた事の答えを見つけた。


(『渉には及ばないが、私もそれなりに有名人になる事で犯人が私に対して誘拐や暗殺などの犯罪行為を行った場合のリスクを高めればいい』…我ながら単純な答えだがこれが1番なんだよな…)


私はそう思いながら空になったグラスを見る。

そう、私自身が有名になってそういった事をさせにくくすればいいと思い立ったのだ。

実に簡単で単純な理由、正直私自身も単純すぎて本当に大丈夫か心配になるレベルの考えだった。

しかし、コレなら私が渉の回復薬をベースに改良した薬を出すだけで会社にも利益があるし何より私が努力すればいいだけで有名になれる最適解でもあるとも考えた。

故に私は頑張った、全ては渉の自由の為に。


(狂犬病の薬がアメリカで実績を上げれば少なくともアメリカの中では私は有名人になれる。

その実績とネームバリューを使って他の国の問題を解決できる薬を作り、治験を要請して量産までできれば会社の利益や株は上がるし私も目的を果たせる。

後は私の努力でどれだけ解決できる薬を見つけられるかが問題だが…やるしかない。

あの子の為なら私の残りの人生を全て賭ける、そう風香の葬儀の後にお墓の前で風香に誓ったんだからな)


そう自分の覚悟を改めて思い出しながら私はグラスを机の上に置いた。

そして会場に設定されているデジタル時計を見る。


「…13時40分、渉達が動き出すまで後20分…」


そう言うと私は周りを見て会長を探す、会長の近くにいけば他の国の偉い人との会話もスムーズにできると考えたからだ。


「渉、私も頑張るから渉も頑張ってくれ」


そう呟きながら私は視界に入った会長の所に歩いて向かう。

そうして私は会長と一緒に他の方々とお話をしていったのだった。


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