第126話
〜〜 8月20日 11時 荒神中学校 side 無 〜〜
「はい、焼肉バーガーとコーラのセットです」
「特製焼きそばお待ち!」
「アルコール類の販売と持ち込みは禁止です、よってこの4Lの大五郎は没収します!」
ここは渉と叶が在籍している荒神中学校。普段なら夏休みである今は数人の先生とか用事がある生徒以外は学校にはいない筈だった。
しかし、今日の中学校は全然違う。
学校の校庭には何件も屋台が設定され様々な食べ物が売られ、ギルドから派遣された警備員が巡回や持ち物をチェックしたり、校内も本来ならいる筈のない様々な年代の人がそれぞれ割り振られた教室や体育館で大いに賑わっている。
そう、今この中学校は『狩友』が今日禁層を攻略する為に一部の場所以外を闘技放送を見る為の会場として一般解放したのだ。
学校の体育館はもちろん、各種教室などにギルドが用意したテレビなどの備品が持ち込まれており今日集まった人達は『狩友』が禁層に挑むのを今か今かと楽しみながら待っていた。
そんな中、一般開放どころか普段も解放されていない学校の屋上に2人の男性…校長と教頭がいた。
「いやはや、まさかここまでの騒ぎになるとは予想外でしたよ校長先生」
教頭がそう言うと、校長は教頭の顔を見る。
「そうですね。私がまだ学生の時なんて深層に到達しただけで全国の一面を飾った物ですが、今の子はほんと凄いですね…故に」
校長はそう言って真剣な顔になる。
「故に我々がキチンと今の子を見守りつつ悪い道に進まないように指導しなければなりません。
それこそ我々勉学を教える者の勤めですからね」
校長はそう言い終わると笑顔になる。そしてその笑顔を見た教頭は…
「校長先生…
口の周りをお好み焼きソースで汚しながら言われても威厳がないですよ?」
「そう言う君も歯にめちゃくちゃ青のりが付いているぞ?」
「おっと、それは不味いな。歯磨きをしないと」
校長と教頭はそう話終わるとお互い笑い出した。そして彼からの足元にはお好み焼きが入っていた入れ物と焼きそばが入っていた入れ物が置かれていた。
〜〜 同時刻 月神製薬 会議室 side 無 〜〜
「…資料を読んだ。よく見つけ、試作品を作ってくれたね佐藤くん。本当に素晴らしいよ」
「うむ、流石はあの子の親だ。まさか回復薬βをベースとして『数回に分けて打てば骨密度を完全に元に戻す薬』と『狂犬病の特効薬』を作るとは」
「社長、会長、お褒めいただきありがとうございます。しかしどちらもまだ試作段階ですのでやはり治験は必要ですのでそこはアメリカ辺りに協力を願い出るしかありませんね」
月神製薬の会議室の一つに三人の男性が会話をしていた。
1人はもちろん渉の親である佐藤雄二、もう2人のうちの1人は桜の兄であり社長の月神正だ。
最後の1人は…
「なぁに、コレを知ればむしろアメリカ側から治験の嘆願が来るだろうさ。何せあの国は狂犬病患者に悩んでいるからな」
和服を来てカラカラと笑う初老の男性、この人こそ月神製薬の会長にして桜の父親、『月神 源次郎』だ。因みに初老と言っても身長は約2mある。しかも本人曰く『製薬会社の会長なら常に健康的でいて社員の見本になって当然』を地で生きると豪語しているくらいの健康志向が強い人だ。
「佐藤くん、確か君も我々と同じくソラマチひろばの会場に招待されていたよね?
どうだろう、そこで各国の大統領達に直接頼んでみては?」
「社長、流石にそれはヤバい気が…」
「大丈夫だろ、国にも利益はあるし日本の首相も来るって話だから会話のネタにでもしてもらおうや」
「会長、会話のネタでは収まりそうにないレベルの薬ですよ?流石に慎重になるべきです」
三人はそんな事を話しながらどんどん話を詰めていった…のだが、
「…そぉいや、まだ『あの件』を聞いてなかったな。佐藤、考えてくれたか?」
「はい、その件は…」
そう源次郎が言って全体の話が話が切り替わる。
雄二は答える様にゆっくりと来ていた白衣を脱ぎ、そして…
「答えはNOだ!!」ビリッ!
自分の『筋トレ』のスキルで鍛えた筋肉を動かして来ていたシャツを弾け飛ばす。そこには体全体は細いがとてつもなく威圧感がある筋肉をさらけ出した雄二がいた。
「ほぉ…理由を聞いてもいいか?」
しかし、源次郎さんは平然とそう言った。
「死んだ嫁は許婚のせいで大変苦労しました、ですから『渉を桜様の許嫁にする』件は断ります!
あの子が桜様を自分から選んだのなら話は別ですが、許嫁に苦労した我々夫婦の子である渉を嫁と同じく許嫁にするのは死んだ嫁に対して言い訳ができない!!」ビシッ
そう言うと雄二は臨戦体勢をとった。その光景を見た源次郎は笑顔になる。
「…なるほどな、死んだ嫁の為でもあり息子の為でもある…か」
そう言うと、源次郎はゆっくりと笑顔を崩していき…
「だがな…
俺も自分の可愛い娘の為にも、この件は引けないんだよなぁ!」パンッ
いきなり目を見開いた瞬間そう叫ぶと全身の筋肉が膨張、和服の上半身を弾け飛ばした。
そして現れるは傷だらけなのにも関わらずもはや鎧としか例えられないくらいの存在感を放つ筋肉。
そう、源次郎もまた『筋トレ』のスキルを持っていたのだ、そして桜の『筋トレ』は源次郎から遺伝したスキルなのだ。
「俺達家族全員はよぉ、桜に『女性である事を捨てろ』とは言ったが本当は普通の女性みたい恋愛したり結婚したりしてほいんだよぉ。
けれど桜も誰に似たのか頑固でな、一途に言った事を守りやがったんだわぁ。
お陰でアイツは今まで男との浮ついた話は皆無、本人の前では見せない様にしていたが母ちゃんも自分が言っだからこうなったと後悔しまくって若干やつれたんだわぁ」
そう言うと源次郎は顔を伏せる。
「そんな時にあのクソどもが余計な事をしてくれたお陰で桜が軽いトラウマを受けるレベルで傷ついちまったのさぁ。正直に言うと本人のいない時に医者からもしかしたらこのまま男性恐怖症になる可能性があると言われたんだわぁ。それに今回の事件で桜はもう女性としての幸せを完全に諦めちまうんじゃないのかと家族全員が気が気でなかったんだわぁ。
でもな…」
そう言うと源次郎は顔を上げた、その表情はとても優しい顔をしていた。
「お前さんの息子さんが上手い事やってくれたみたいでなぁ、桜は無事男性恐怖症にはならなかったんだわぁ。
それに桜がおまえさんの息子の話をするときなんて本当にいい顔で話すもんだからこっちまでうれしくなっちまったんだわぁ。
そして、今回の桜の配信を実際にこの目で見て確信したんだわ。桜を任せられるのはこの男しかいない、桜の全てを受け止めた上でそれでも寄り添ってくれるこの男こそ桜の婿に相応しいってなぁ…だからよぉ」
源次郎は優しい顔から真面目な顔になり、臨戦体勢を取っている雄二に応えるかの様にこちらも構えた。
「あの子の為にもお前さんの息子さんに今のうちに唾をつけにゃいかんのよ。お前の息子さんは間違いなく今後色んな女性に言い寄られる、それを見て桜がまた傷つくかもしれない。なら今のうちに唾をつけて『コイツァ桜のもんだ』って状態にしてやるのが親である俺の役目なんだわぁ。
だからお前さんが肉体で語ろうと言うならば俺もそれに応えよう。俺にも自分の娘の為に引けない意地があるんだからなぁ!」
そう言うと思いっきり殺意を出す源次郎、しかし雄二もまた負けじと同じくらいの殺気を出して立ち向かう。
「お前さん、息子の為なら死ねるかぁ?」
そして源次郎が有事に対してこう言うと雄二は、
「ふっ…
本望!!!」ダッ
己の拳と共に叫びながら源次郎に殴りかかる事で答えた。そうして始まる親同士の譲れない思いを載せた某世紀末がごとき殴り合い。
「…あ、母さん…うん、また父さんが煽ってね…いや、めちゃくちゃ激戦してるよ、しかも相手は例の子の親でさ…」
そんな戦闘を横目に会議室の机の下に避難した社長の正は自分の母親に電話して状況を報告していた。
その後桜の母親が会議室に突撃をして『分身』のスキルにて雄二達に奇襲をかけて制圧、2人に正座をさせてその場で説教を始めるのだった。
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