第124話

〜〜 22時 〜〜



「…んま、コレが俺の配信を始めた理由の真実だな」

 

「…いや、弟さん聖人すぎ」


「本当、優しい弟さんだったんだね」


番組が終了した後、全員一旦俺の部屋から出て叶達は送らしていたこのダンジョンでの最後の深層での配信を始めた。

無論配信のネタはさっき見た特番の内容の深掘りがメインではあるが叶達も出していい情報を選別して配信している、瞬時に出してもいい情報を選別できるのはやはり配信になれているからなのだろう。

そして俺は叶達の配信中の会話を中庭に続く扉を開けつつ開けた扉の端に移動しで見ていた。

そうしてしばらく見ていると不意に俺のスマホが振動する。

俺は急いでスマホを取り出し画面を見て電話である事を確認してから中庭に出た。

そのまま中庭の中央まで歩き、スマホを操作して電話にでる。


「…父さん、呼び出してごめんね」


《いや、大丈夫だ。回復薬βの成分を調整していた際に面白い事がわかってな、今資料作成をしていた所だった》


電話に出たのは父さんだ。

実は渡辺さんとの会話の後、改めて特番を皆で見ている最中に父さんに大体この時間帯に電話しようとメールを送っていた。

話す内容はもちろん…


「…父さん、特番…見た?」


《…ああ、見た。

ギルドから事の詳細を聞いた時は流石に犯人に殺意が湧いたね、『風香』の事をネタにするのは私にとって最大級の侮辱だからな》


母さん…『佐藤 風香』についてだ。

父さんは母さんを愛している。再婚の話をされたら即答で断っているし、そして同じくらいに母さんを守れなかった事を今でも後悔している。

その為母さんをネタにするのは父さんにとって最大級の地雷であり触れたら『筋トレ』のスキルを持つ父さんがストレス解消のために鍛えに鍛えた筋肉でガチギレしながら襲いかかってくるレベルだ。

そんなに今でも母さんの事を思っている父さんが今回の特番の件で大変な事になってないかどうか心配だったのだが、どうやら心配しすぎだったようだ。


《お陰で殴って机を研究機材ごと粉々に粉砕してから座っていたパイプ椅子を14回も折りたたんでしまったよ。あの時は流石に拳が血まみれでね、まさか自分で作った回復薬を自分で使う事になるとは予想外だったな、ハッハッハッ》


訂正、もう遅かったみたいだ。


《いやはや、あの時は社長に無理言って常備していてもらったスタンガンで気絶させてもらわなかったらもっと被害が出ていたと思う。やっぱり前もって準備をしてもらうのは大切だね》


「いや、スタンガンを常備ってもはや危険人物の扱いに近いんだよ」


俺はそう言うと、父さんは電話越しに「確かに!」と言って笑い始めた。

そしてひとしきりの話を父さんとした後に俺は本題を話し始めた。


「…んで、父さんに聞きたい事がある。どうしてテレビ局が母さんの事をどうやって知っていたのか…分かる?」


俺がそう父さんに言うと父さんは数秒黙ってから答え始めた。


《…ああ、知っている。テレビ局の人が映像の確認の為に来てくれた時に例のシーンでキレてしまって気がついたらコブラツイストをかけて問い詰めていたからな》


「いや、コブラツイストはやりすぎだよ父さん」


取り敢えず顔も知らないテレビ局の人に心の中で合唱しながら父さんの次の言葉を待った。


《どうやら母さんの情報はある人からの情報提供があったから知ったらしいんだよ》


「いや、だれだよその人?」


そして俺は次の父さんの言葉に…


《ああ…













『佐々木 翔太』だ》


今までで生きた中で1番の殺意が沸いた。


『うお、何だ!?』


『純粋な殺意、誰!?』


『もしかして渉!?』


その殺気を感知したのか建物の中にいた三人が反応してしまった、しかし俺はそんな事を気にしている余裕は今は無かった。


「…あの野郎、正気か?いつまでこんな事をするんだよ…あいつにとって母さんは『自分が気に入らないから捨てた元許嫁』だろうが!?」


《渉、怒るのは分かるが落ち着け。アイツの嫌がらせは今に始まった事じゃ無い》


俺は叫ぶ様にそう言い、父さんは俺を落ち着く様になだめた。

『佐々木 翔太』、父さんの幼馴染で父さんの地元の地主の一人息子で…そして母さんの元婚約者だ。

コイツは天性のクズだ、この男は母さんが優しいのをいい事に母さんの目の前でも関係なく女を取っ替え引っ替えはべらせて楽しんでいたり、父さんに暇つぶしで嫌がらせをする真性のクズだ。

しかも地元の地主の一人息子だから甘やかして育てられたし地主の親には金と地元のあらゆるコネがある、故にある程度の事はもみ消していた。

そして1番許せないのはその地主に深い繋がりがある母さんの両親が母さんをその男の許嫁にした事だ。

そのせいで母さんは昔から苦労しかしてこなかったし、父さんがいなかったらメンタルがやられていたと良く父さんに言っていたそうだ。

そんな好き放題やっていた男も成人して正式に母さんを嫁に取る話になった時に事件は起きた。

あの男は他の女を嫁にするから母さんは家政婦兼愛人になれと言い出したのだ。

理由は簡単、他の女の方がジョブとスキルがいいから。つまりあの男は何年も結婚する前から婚約者だからと頑張っていた母親よりもジョブとスキルのみ見て選んだ女と結婚する事を選んだのだ。

これに父さんは生まれて初めて激怒、その後何やかんやあって最終的には父さんの両親と母さんの4人で地元を離れて結婚する形で全て終わったのだ。

それなのにアイツは今でも偶に父さんに変な嫌がらせをしてくる。それが今回の母さんの件はだったと言う事だ。


《アイツの事は近々私が直々にけりをつける。そうしないとアイツの家にほぼ洗脳状態の風香の両親ともまともに話せないからな。

だから渉は気にするな、渉は渉で今やらなきゃいけない事を全力でしなさい。

もう時間だから電話を切るぞ…後、家にお前の好きな飲むヨーグルトを買っておいたから必ず飲みに帰ってきなさい。

それじゃ》


そう言うと父さんは電話を切った。


「…父さん…」


俺はスマホを耳に当てたまま空を見上げる。

そして俺は父さんの思いが報われる事を空に浮かぶ二つの月に願うだった。



〜〜 23時 〜〜



「…お願い、渉。オレとこのまま一緒に寝て?」


そう言うと桜は俺の部屋のベッドの上で俺の枕を抱き枕の様に抱きしめながらそう言った。

…いや、何だこれ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る