第121話

〜〜 8月19日 15時 〜〜


《…と言う感じですね、皆さんキチンとご理解いただけましたか?》


「俺は大丈夫、そこまで緊張していないから」


「いや、渉はいいとして俺はダメだわ。配信と違うから緊張しっぱなしだ」


「…悔しいけど、私も緊張してきた」


「大丈夫だよ、困ったらオレがフォローするから」


あの日から2日が経過した。俺は予定通り叶と俺の新しい装備の製作と一二三や桜の装備の強化をした。

そして時間もあるからついでに全員の武器の強化とエイセンの最終調整も徹夜して今日の昼になるまでに全て終わらしてしまった。

その後は皆と昼飯を食べた後、洗い物は叶と桜がしてくれると言ってくれたので俺は仮眠を取っていた…んだが、2時間ほど寝ていたら急にまた渡辺さんから連絡がきたのだ。

そして今度は一二三のドローンを借りてまた皆で渡辺さんとお話をしたのだ。

結論を言うなら渡辺さん…いや、ギルドからの直々の依頼を俺達は受ける事になり、俺達は先ほどまで渡辺さんから説明を受けていたのだった。


《すみません、本来ならダンジョンに実際にいる渉様達の貴重な時間を我々の依頼に割いてもらうのはご迷惑になる事は重々承知しておりました。しかし…》


「大丈夫だって、俺達もこの階層の夜でモンスターを狩れとかなら断ってた。しかしそんな面白そうな事なら話は別だからな」


渡辺さんが画面越しに謝ってきたが、俺はワザと話を遮るように話を言う。


「…んだな、これくらいなら配信時間を2時間遅らせるだけでいいから別に苦じゃないな」


「…よし、今時間変更の旨をSNSに上げた」


「こっちも配信の開始時間の変更の旨を上げたよ」


《…皆様、本日にありがとうございます》


そして叶達も各々のやる事を済ましている光景を見て、画面越しでまた渡辺さんが頭をさげたのだった。




〜〜 17時 〜〜



「…ついに来た、ようやく…この時が!!」


「…何か、一二三の後ろが燃えて見えるのは俺だけ?」


「…いや、オレにも見えるよ」


渡辺さんとの通話の後、俺は更に1時間の仮眠を取り16時に少し早めの夕食の準備をしだした。

そして現在、一二三は何故か後ろに炎が見える幻覚が発生している位に無意識に食欲を解放して夕食はまだなのかと催促するような感じになっていた。


「…まあ、無理もないか…今日が解禁日だしな…」


そんな一二三を俺は建物の中にあるアイランドキッチンで鍋の様子を見ながら片手間で確認していた。

実は今日の夕食から一二三がようやく普通の食料を食べる事ができる、つまり今日は食料の解禁日なのだ。

そして一二三は今日の昼までマジで顔が渋くなりながらも頑張って食べれないし不味いモンスターを食べつつけていた。

多少俺が何とか火を入れて塩胡椒等で味を整えていたからまだ食べられたと本人は言っていたが、この様子を見る限りやはりかなりの無茶をしていたみたいだ。


「…よし、完成だ」


俺がそう考えていると、目の前の鍋がいい匂いを放ち始める。俺はそれを鼻で感じると急いで火を止めて蓋をし、皆が待つ外に鍋を持って向かった。


「お待たせ、できたぜ。一二三…いや、明日俺達が禁層で戦う為に食べる最高の夕食が」


「うぉ!?何だこの匂い、匂いだけでお腹が空いてきたぞ!」


「この匂いは…渉、かなり思い切ったね。オレでも今まで生きてきて一度しか食べたことのない料理を作るなんて…」


「…」ダラダラ


俺が鍋を持っていくと叶は匂いだけで驚きの声を上げ、桜はその匂いで俺が何を作ったのかを理解して戦慄していた。

そして1番重症の一二三は口を閉じてはいるが口角のから涎が溢れ出ている、どうやら食欲が強すぎて鍋の匂いに集中しまくっているみたいだ。溢れ出ている涎を拭くそぶりも見せない。

そんな三人の反応を見て俺は笑顔になる。


「大変だったんだぜ?何とか捌いてからレシピを検索して作ったんだ。味は保証するが高級な店と比べないでくれよ?後、鍋の汁は残しておいてくれると助かる。明日の朝食はその汁とお米で雑炊するから」


俺はそう言うと鍋を置き、蓋を外した。


「お待たせ、今日の夕飯は『超スッポンのまる鍋』だ。無論お代わり自由で白米も沢山あるぞ。

ついでに残りのきゅうりを浅漬けにしたから良かったら食べてくれよな」

 

俺がそう言うと三人は鍋をめちゃくちゃ凝視していた。

一二三が狩った超スッポンは特殊で本来捨てるべきであるモンスターの血も食べられる。しかも食用可能部位は骨以外全て食べられる、更にゴールデンレトリバー並の大きさがあるにも関わらずこの一匹で普通のスッポン15匹分の旨みと栄養素、滋養強壮の成分が全ての食用可能な所にこれでもかと詰め込まれている。

まさに明日の大勝負にピッタリな食料だ。

因みにこれを地上で食べようもんならまず高級な店でしか食べれない上値段は時価が基本だ。しかも支払う場合は最低でも約500万は覚悟しなければならないほどの超高級食材だ。マジで解体の時や調理の時に手の震えが止まらなかったのはいい経験だった。

そんな事を考えていると三人は無言だが一斉に俺に向かって深皿を突き出した。

そんな行動に俺は笑いを堪えつつ鍋を取り分けて、その後に皆の分の白米を準備するのだった。



〜〜 19時 (寝室)の渉の部屋〜〜



「完全に満足なり、明日死んでもいい」


「縁起でもないこと言うな」ビシッ


俺はベッドの上でそんな事を言った人参の着ぐるみパジャマを着た一二三に対してツッコミと一緒に軽くチョップをかました。

あの夕食はかなりの好評で、特に一二三だけでも超スッポンの在庫の3分の2を平らげてしまったほどの満足な夕飯になったらしい。

その後は残った汁をキチンと保存してから皆で洗い物をして、全員風呂に入ってからお昼にギルドに頼まれた依頼をこなすべく(寝室)の扉の中で俺に割り振られている部屋に全員集まったのだ。

ベッドに座る様にしているのは桜と一二三、そして俺と叶はベッドの前の床に座り込んでテレビに流れているCMを見ていた。

そして何故皆が俺の部屋に集まったのか?その理由は…


「てかさ、渉の部屋にだけ『テレビ』があるのは差別じゃね?」


「そんな事を言うなよ叶。このテレビは昔父さんに誕生日プレゼントとして貰った物だ。つまり私物なんだよ、私物で持ち込んだやつ以外はお前の割り振られてた部屋と同じだから」


俺の部屋にだけテレビがあるからだ。もちろんこのテレビはその昔父さんから誕生日プレゼントとして貰ったあのバッテリー内蔵の14インチあるポータブルTVだ。ただ最近はバッテリーの調子が悪くなってきたので仕方がなく充電コードを差しっぱなしにして普通のテレビとして使っているのだ。

そしてテレビもキチンと映るのはこの15日で確認済みだ、つまり問題なく地上の放送が見れると言う事だ。

しかし俺はこの17日間はまともにテレビを見ていなかったから外がどうなっていたのかを知らなかった、だからこそErrorスキルの件とかをまともに知らなかったのだが…そこは今後意識して解決するつもりだ。


「…2人とも静かに。もうすぐ始まるよ」


俺と叶が話していると、ベッドに座っていた桜が中断する様に言ってくる。

そして俺達が中断した直後にCMがあけて、何かしらの生放送が始まった。


《『狩友』とは何か?我々の先にいる人とは?》



遂に明日東京スカイツリーのダンジョンの禁層の攻略が始まります。

故にこの番組はその攻略に挑む4人のパーティ、通称『狩友』について徹底的に生放送で解説していこうとら思います。

司会進行役はこの私、『犬飼 誠』が務めさせてもらいます。

では早速ゲストを紹介させて…』


「…始まったね、オレ達の特番」


「ああ」


生放送が始まると一二三が俺に話しかけてくる。つまり、俺達がテレビを見ていたのはこの特番を一緒に見るために集まった…訳ではない。


「気を引き締めろよ、俺達この番組の後半に『サプライズゲスト』として呼ばれるんだからな」


「…やべぇ、初めて配信を始めた時より緊張してきた」


「私、いよいよ地上波デビュー。家族に自慢できる」


「はは、その調子でいつも通りの自分を出そうね一二三」


俺は番組が始まったのを確認すると、皆にそう言った。

そう、これが俺達が集まった理由だ。つまりギルドが依頼をしてきたのは『生放送のサプライズゲストとして全員参加してほしい』と言うものだったのだ。

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