第116話
〜〜 8月17日 東京スカイツリー展望デッキ内ダンジョン 深層 16時 〜〜
その湖は完全に水面が凍り、例え熊やサイが来ても割れずにそのまま歩いて進めるくらい厚く固い氷ができている。
そしてその湖の中心部に複数の島があり、その中に俺達の最終目的地である禁層に行く為のポータルが存在している。
そして今、俺達4人はその場所に到着した。
「…着いた…」
「…うん…着いたよ、真司兄さん…」
「…今日はシチューの気分…」
「…やばい、そう言われたら味の濃いビーフシチューが食いたくなってきた…」
エイセンのエンジンが止まらない様に噴かしながら俺達はそれぞれの反応をしていた。
俺は何日もかけてようやく最終目的地に到着した事を言葉にして噛み締め、桜は今は亡き次兄の名を口にして到着した事を喜んでいた…だが、荷台にいる2人はどうやら腹が減ったのか今日の夕飯について話していた。
「取り敢えず、かなり早いが今日はもう拠点に戻るぞ。夕飯とか風呂とか今後の話とかしなきゃいけないし」
「…わかった。皆、今から一旦配信を切るね。またしばらくしたら配信を再開するから良かったらまた見に来てくれると嬉しいかな?」
「そうだな、俺も一旦配信を切るからまた見に来てくれよ。良かったらチャンネル登録と高評価よろしく!」
「…2人と同文。では諸君、サラダバー…間違えた。サラバダー」
3人は俺の言葉を聞いてそれぞれのドローンに配信を一旦切る事を宣言した。
3人のドローンから流れているコメントも『到着おめ!』とか『禁層配信確定キター!!』とか様々なコメントがかなり速い速度で流れていてスパチャもかなりの数が飛んでいる。
そんな中でも3人は宣言した通り配信を切り、自分達それぞれのドローンを回収した。
「…渉、全部のドローンを回収し終わったよ」
「了解。皆、配信お疲れ様」
俺は桜の言葉にそう言うと、エイセンのエンジンをつけっぱなしで運転席から離れる。
そして拠点を出すためにポータルに近づくのだった。
〜〜 しばらくして 〜〜
「…え…ちょい待ち。今なんて言った?『禁層に挑むのを1日と半日待ってくれだって』??」パクッ
「…驚いた。あれだけ食料の消費を気にしていた渉が、食料を消費して1日と半日も時間をくれと言うとは思わなかった…あ、おかわり」スッ
「…何か問題でもあったの?体調が悪くなったとか?…んっ…ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした…いや、確かに問題があったから相談したんだけど、別に体調が悪いとかの話じゃ無いから桜は心配しなくても大丈夫だよ…ほい、おかわり大盛りな」
ヒョイ
拠点に戻ってから数時間後、俺は夕飯であるビーフシチューを皆で食べなら昨日から考えていた事を相談した。
「…なら、渉は何でそう言ったの?」パクパクッ
俺が渡したおかわりを渡してからスグに食べ始めながら一二三がそう言う。
「ああ、理由は簡単だ。このままだと俺達は禁層で簡単に死ぬから死なないために皆の装備を強化したいんだよ」
「「「!?」」」
俺が理由を言うと、3人の顔が真剣な顔になる。
「…続けるぞ。叶、今着ている装備だが俺が作った防寒着以外は何処で手に入れた?素材は分かるか??」
そう俺が言うと叶はビーフシチューの皿にスプーンを置き、俺を見る。
「…いや、俺の装備は数ある防具メーカーの中から手に入りやすい物を選んで購入した奴だ。確か甲冑の布地にヴェロルの皮を使っていたと防具を買った時の保証書に書かれていたはずだ」
「…なるほど、ありがとう」
そう叶が言うと俺はその場でお礼を言った。
「叶以外の装備は俺が作ったから材料まで分かる。
桜と一二三の装備は中層のモンスターの素材だけを使って作っている。
そして俺の装備は主に浅層のモンスターの素材を使い、部分的に中層の素材を使っているんだ。
そして俺の作った装備は自信を持って深層にも通用すると自信を持って言えるくらいの自信がある」
俺がそう言いながら三人をしっかり見る。
「だが、禁層はそんなに甘く無い。
俺が旧歌舞伎を攻略した装備は深層のモンスターの素材だけを使い製作した物だ、はっきり言ってあの装備と同等の耐久性が無いとマジで簡単に死ぬ。実際に俺が身をもって体験した事だから断言してもいい」
俺ら更に話を続ける。
「桜と一二三の装備は中層の素材のみで作られているからそのまま深層で手に入った素材で修繕&強化すれば大丈夫だ。
だが、俺と叶は違う。浅層の素材だとどんなに頑張っても求められる耐久性には届かない。
故に叶と俺は新しい装備を作るしかない。
幸い装備の製作や強化に必要な深層の素材はこの13日で全て集まった、後は叶と俺の装備を作るのと桜達の装備を強化するだけだ。その作業に今日の夜から始めても一日と半日はどうしてもかかってしまう。
だから皆に相談したんだよ」
俺が話終わると三人は顔が渋くなり俯いた。
多分彼らはこのままの装備で禁層に挑むつもりだったんだろう。
しかし、それはただの慢心だ。俺が身を持って体験したが禁層用の装備を作らないと攻撃が掠っただけでも重症、もしくは致命傷になりかねない。
俺はモンスターの攻撃で内臓に折れた骨は刺さりはしたが防具は無事だった、つまりあの時の装備くらいの物じゃないと更に酷い状態になっていたという事だ。
故に食料を消費してでも装備に割ける時間が欲しいのだ。
…まあ、俺の装備の件は最初は旧歌舞伎座ダンジョンの時のやつを使うつもりだったのが、俺の思いつきで新しい装備を作る事にしたから自業自得なのだが…
「…渉、現段階で食料の備蓄は後何日持つの?」
俺がそう考えていると桜がそう聞いてくる。
「…最大で2日と半日、それを過ぎると禁層攻略の際一二三に自分の力をフルに使ってもらえる最低ラインを超えると思う」
俺がこう答えると桜はまた黙った、そして次に叶が顔を上げた。
「…お前が必要な事だと言うのであれば仕方がない、でも作ってくれる物は『防御性能が高くて動きやすい装備』で頼む。俺の『置楯』のスキルに影響するからな」
叶がそう言うと一二三と桜はその言葉に頷いた。どうやら俺の提案に全員賛成してくれたみたいだ。
「…すまない、みん、
《〜♪》
…電話?」
俺が皆にお礼を言おうとしたその時、ズボンに入れていたスマホが音を鳴らして振動し始めた。
そして俺は急いでスマホを取り出して画面に映る電話をしてきた人の名前を見る、そこにはこう表示されていた。
『ダンジョンギルド本部 専門担当者』
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