第115話

〜〜 8月10日 東京スカイツリー展望デッキ内ダンジョン 深層  拠点内 夜 20時 〜〜



「…今日はごめんなさい、久しぶりに本気で食欲に負けた。反省する。」


「大丈夫、その暴走は一二三のスキルのせいだって皆知ってるから。例え暴走しても今日みたいにオレ達3人でフォローするだけだよ」


「うん、ありがとう桜」


一二三と一緒にソファーに座っている桜はそう言いながら風呂上がりで人参の着ぐるみパジャマを着た一二三の頭を撫でる。

現在俺達は無事に今日の目的地に到着して、夕飯を食べて風呂に入ってから一度壊れた像がある場所で配信をしながら雑談していた。


「…んで渉よ。今日で深層に入ってから6日目だけどさ、後何日くらいで禁層につける感じなんだ?」


俺と一緒に床に座っていた叶そう言いながら俺を見る。


「…ぶっちゃけ、後一週間くらいかな?ノートには書かれたルートなら深層から禁層まで約2万100kmくらいなんだが、それは危険なモンスターの生息地を避けたりやラムコッコみたいに雪の上を素早く移動できるモンスター達が迂回するしかない障害物が沢山ある場所を優先的に選んで深層を進んでいくからそれだけの移動距離になるだけだ。

俺達にはエイセンと言う雪の上でも素早く走れる乗り物がある、そのルートで迂回するべきポイントが移動可能になるから大幅にショートカットできる、その分の移動距離を簡単に計算すると約1万3000kmくらいだと思うからトラブルがない限り後一週間くらいで到着できると思う」


「なるほど、桜の兄さんの地図と渉の乗り物に感謝だな」


叶はそう言いながら頷く。

真司さんのノートに書かれたルートは基本深層のモンスターをなるべく回避する様にかなり複雑かつ細かく移動するルートになっている。

しかし、俺にはエイセンがある。移動速度は雪の上を歩くよりも断然速いしモンスターに出会ってもエイセンより素早く移動できるモンスター以外なら確実に振り切れる、故に本来迂回しなければならない場所をゴリ押しで通れるから全体的にかなりショートカットしている。

だが、この深層は必ず夜になると大雪が降る。

故に雪がやむ朝から雪が降る夜までに移動できる最大距離はエイセンを持ってしても限られてしまう。故に一日に余裕を持ってこの階層の帰還用ポータルから次のキャンプ地とする帰還用ポータルまで計画的に移動する必要がある、そうしないとただでさえ夜なので、視界も悪くなるに月明かりは雪雲で遮られて光源はほぼ無いに等しくなる、そして大雪で体温と方向感覚が奪われた続けるおまけ付きそんな中を移動するのは無謀だ。

だからこそ無理なく計画的にこの階層は移動しなければならない、だからこそそこから計算して後一週間かかると叶に言ったのだ。


「…なら、その分の食料の備蓄は大丈夫?、後武器の修理とかに使う素材とかも大丈夫なのか?」


「…正直、武器とかの修理に使う素材は中層で褌と交換した船の碇とかの鉄などで作られている物を溶かして使えば問題はない。

しかし、食料が心許ない。

このまま進んでも一週間は必ず持つと断言はできる、しかし禁層の情報が一切無い以上一二三には禁層に挑む時にできるだけ沢山食事をしてもらってスキル内にカロリーを貯蓄してもらいたい…故に現状の食料だと心許ないのが本音だな…後、わがまま言えば野菜が欲しい」


「…野菜は…無理だな…」


俺と会話していた叶はそのまま天井を見上げた。

今日の狩りでも思ったがこの中で1番戦闘能力が高いのは一二三だ。だが前にも言ったが一二三の力は彼女の摂取したカロリーと直結している、つまり燃料切れが起きたら一気に戦力が落ちてしまうのだ。

そして現状このダンジョンの最下層である禁層の情報は皆無に等しいほど無い、つまり完全に禁層にいるであろうモンスターが優位な状況だ。

だからそこ一二三には禁層に挑む際に時間の許す限り限界まで食事をしてもらいスキル内にカロリーを貯めておいて欲しい。そうしないといざって時に一二三の燃料切れが起きたら誰かが死ぬ、もしくは全滅も考えられるからだ。

そして今所持している中で足りないのは野菜だ。肉や果実などはダンジョンで手に入るが野菜だけはダンジョンでは手に入らない…いや、ジャガイモとかの芋系なら手に入るがトマトとか白菜とかは手に入らない。

だからこそ野菜が欲しい、栄養が偏ってしまうから。


「…野菜はしょうがないよ。

この階層、肉になるモンスター以外は雪が積もった木以外の植物を見ていないからね、野菜どころか果実やキノコも期待できそうにないと思う」


「…うん、私も桜の話を肯定する。後もっと頭を撫でて、結構気持ちいい。癖になりそう」


俺達の会話を聞いていたのか俺と叶の話に桜と一二三が参加してくる、しかし一二三は桜が頭を撫でるのを止めると何故か撫でていた手を掴んで自分の頭の上にその手を置いた。


「はいはい、わかったよ」


「〜♪」


一二三のその行動に優しい顔になりながらまた頭を撫で始める桜、そして撫でられ始めると一二三は目を細めて撫でられる感覚を楽しんでいた。


(…いや犬かよ)


俺はその一連を見て一二三が犬みたいに見えてしまった。


「〜♪…あ、思い出した。今日の叶の戦い方はダメ、あれだと心臓と一緒切れた内臓の中の物が、本来食べられるお肉にかかって食べられなくなる。私みたいに心臓だけ的確に狙うべきだと思う」


「いや、手刀でモンスターの肋骨の隙間を狙って心臓だけ攻撃して破裂させる芸当は一二三くらいしかできないからな!?」


「まあまあ、2人とも落ち着いて」


俺がそう考えているといきなり一二三が思い出した様に叶が狩ったモンスターのダメ出しをして、叶はそれに反論した。

そして一二三の頭を撫でながら2人に落ち着く様に言う桜が言った。

俺は危険なダンジョンの中とは思えない光景を見て口角を上げながら笑いを押し殺し、そんな俺達全員を3人のドローンがそれぞれのチャンネルで配信していた。

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