第113話

東京スカイツリー展望デッキ内ダンジョンの深層は雪原を中心とした極寒地域で構成されている。

出てくるモンスターも基本的に熊や猪などの寒さに強いモンスターが多く、逆に鳥などの空を飛ぶタイプのモンスターがいない。

そしてこの深層の最大の特徴は…


「まったく、『見渡す限り雪しか見えないから方向感覚が狂うぜ』…渉達と来てマジで正解だな」


「…同感、中層の環境が南国っぽかったからてっきり深層も暖かい環境なんだと錯覚していた。

渉に防寒具を用意してもらえて本当に助かった」


叶と一二三の会話がが聞こえる。

そう、最大の特徴は『周りが基本平地の為余り地形の特徴がない、更に雪が積もる事で方向感覚と距離感が把握しにくい事』と『中層と違い極寒地域の為防寒具が必須な事』だ。

最初の特徴はまさに言葉の通り、基本平地が続く地形のうえ雪が毎日積もる為方向感覚と距離感が分からなくなる、しかも必ず夜には大雪がふるので朝と昼に移動した跡や意図的に残した印などは必ず雪で消える。その上雪は真っ白なので余計に方向感覚が狂うのだ。

そして次の特徴は正に深層最大の罠ともいえよう。

中層は基本的に南国に近い環境の為防寒具が必要ない。しかも中層で防寒になる物を調達ようとしても中層の大体のモンスターは体毛や毛皮が薄い、そして南国特有の暑さを凌ぐ為基本通気性がよく効率的に体の熱を冷ましやすい素材しか取れない。

故にこの深層に到着しようものなら殆どの人は極寒の寒さと凍傷で大変な事になる。

だからこそコレが深層最大の罠なのだ。


(やっぱ、事前に情報を手に入れるのは大事だな。こんな環境でバイクを走らせようもんから初日でオシャカにしそうだよ)


俺はそう思いながらエイセンを走らせる。

そう、エイセンを作った理由はこの階層の事を事前に知れたからこそ作ったとも言える。

バイクでは中層の裏ルートである海の中の石橋までならギリギリ走れると思う、しかし深層が雪原地帯なら絶対に深層はバイクでは走れない、何故なら雪でタイヤがスリップする羽目になるからだ。

バイクは基本雪の日はタイヤがスリップするから運転できない、コレは常識である。

だが、履帯で走る乗り物であれば話は変わってくる。履帯が横滑りしないようにキチンと履帯に処理を施せば速度は落ちるが確実に歩く速度以上の速さで移動できる。

そして更に深層の帰還用ポータルや禁層のポータルの位置までしっかりと書ている最高の地図と俺の『地図』と『鷹の目』のスキルがあれば最短距離で禁層まで無駄がなく深層を進んでいける。

本当に桜の兄さんである真司さんには感謝の言葉しかない。

そして俺が『地図』のスキルで覚えた今日の最終目的地である次の帰還用ポータルの場所を目指してしばらくの時間を走っていた…そんな時だ、


「…ッ!…叶、右側面の方から何かがくる音がする」


「…いや、後ろからも来てるぜ…数は7…いや8か?」


荷台にいる叶達がそう言った。

すると桜は無言ながらも急いで席から立ち上がり迎撃体制をとる。

そしてバックミラー越しに見た叶と桜はそれぞれ弓とスリングショットを構えて後ろを凝視していた。

そして叶達がモンスターの気配に気づいて臨戦体制を整えて直ぐに…


ズザザザザザ…


『何か大きな物が滑る音』が後ろから聞こえてきて、


ガリガリガリガリガリガリ…


今度は『何を大量に削る音』が右の側面方向から聞こえてきた。


ズザザザザザ…


『『『ココ…ココ…』』』


「…見えた、やっばり『ラムコッコ』だ。数は…9羽?おいおい、昨日より5羽も多いじゃねえか!?」


「アレは羽以外は骨も内臓も全て食べられる。正直アレの水炊きは最高だから全て狩りたい」


ガリガリガリガリ…


『ギャー!』


「こっちも見えた、『ラビット・ソー』だ!数は1匹!!」


「やった、期待していたモンスターだ。是が非でも狩る、あのウサギのカツは絶品だから!」


バックミラー越しに後ろから向かってきているモンスターを確認したら、後ろからは軽自動車くらいの大きさがある9羽の鶏みたいなモンスターが腹這いでまるでボブスレーのように滑りながらコチラに向かってきていた。

あの鶏は名前は『ラムコッコ』。鶏型モンスターでこのように滑りながら目標に突撃する習性がある突撃第一の命知らずなモンスターだ。そしてそのモンスター見ると叶は数が昨日襲ってきた数より多い事に愚痴をこぼし、一二三はこの前このモンスターで作った水炊きが美味しかったのか水炊きを食べたいと言い出していた。

そして桜も右の側面から横に回転しながら突撃してくる大型犬サイズの兎みたいなモンスターを見て警戒を強めた。

側面から来たモンスターの名前は『ラビット・ソー』と言い、このように丸鋸みたいに横に回転しながら獲物に突撃してくるモンスターだ。

しかもこの兎、全身の毛がまるでノコギリの刃の様に硬くて鋭いのでマジであの回転に当たると丸鋸の様に当たった部分から削り切られて死んでしまう結構好戦的なモンスターだ。そして一二三が今防寒のために着ているウサギの着ぐるみの主な材料でもある。

なお一二三はどうやらこのモンスターで作ったカツが気に入ったらしく、ラビット・ソーに警戒をしている桜を他所に本人は大興奮していた。


「桜達、頼むぞ!」


若干一二三に対して不安要素はあったが俺は3人に向かってそう言った。


「了解、頑張るね」


桜はそう言いながら二本の短槍を構えた。


「おう、今から牽制を始めるぜ」ビュッ


次に叶は俺の言葉に反応しながら矢を放つ。


「お前は私のご飯になれ!」ダッ


最後に一二三はそう言いながら走るエイセンからラビット・ソーに向かってジャンプして突撃していった…いや、一二三は何サラッと超危険な行為をやってるの?




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