第108話
〜〜 中層 22時47分 〜〜
ギュラギュラギュラギュラ…
「…叶、大丈夫?さっきから顔が赤いよ?」
「大丈夫、問題ないで候」
「いや、問題だらけだよ」
荷台にいる二人の甘酸っぱい会話を聞きながら俺は目的地に向けてエイセンを走らせていた。
あの後、柄にもなくその場でめちゃくちゃ荒ぶった叶を取り押さえる形でなだめてなんとか落ち着かせた。
どうやら叶は前々から一二三の事は配信とかでみていて可愛い子と認識していたらしいのだが、俺が渡した装備の内の猫耳パーカーを着た一二三を生で見た瞬間、まるで雷が落ちたみたいな衝撃を感じてまともに一二三を見ることができなくなってしまったんだそうだ。
(…まさか、一二三の事を叶が好きになるとはね…)
正直俺は前の人生を含めて女性経験は皆無だ、その気持ちに適切なアドバイスをすることはできない。
しかし、何とかなだめて桜の所に戻ると何故か一二三が猫耳パーカーを脱いでライダースーツのみの姿で配信していた、そしてその姿を見た叶は鼻血を出しながらその場でうずくまってしまった。
んで、その後配信中だったこともあり一悶着あったが何とか叶は復活。
そして何とか皆でカレーを食べた後また桜達3人は一二三の新しい装備の慣らしがてら食料調達へ行き、俺はエイセンの塩害処理などをして時間を潰した。
その後は問題もなく無事に追加の食料をゲットしてから夕飯を食べ終わり、いよいよ深層に行くべく3人とも配信をしながら今、俺達はとある場所に向かって移動していた。
「…うし、着いた。ノートで覚えた地図だと目的地は此処だな」
「うん、『海岸に不自然に鳥の石像が置かれた石柱』があるから間違いないね」
そして俺は今から命懸けで海を走って渡る裏ルートの入り口がある場所に到着した。
そこはまず海岸に不自然に海の方を向いている鳥の石像が置かれた石柱が突き刺さる様にそこにあった。
「…そういえば、食料調達の時に思ってたんだけと、この辺は特に遺跡みたいな跡地がいっぱいあったんだ。そうだよね叶?」
「うぉっ…おう、そう言われて確かにこの辺はそんな感じだった気がする。…視聴者の皆もそんな感じのコメントをしてるから間違いないな」
俺はその場でいつでも走り出せる様にエンジンを温めつつそう話している叶達をバックミラー越しに何をしているのかを確認した。
今、叶達はどうやら追尾させていたお互いのドローンで流れているコメントを見ながらこの近辺の地形について話していた。
まあ、俺もこの近辺は実際には見ていないが地図だとこの近辺には人口に作られた建物の残骸が多くありまるで『王宮の跡地』の様だとノートには書かれているから遺跡の残骸が多いのは間違いないだろう。
「二人とも、話はそこまでだよ。そろそろ50分になる。情報通りなら『潮が引き始める』タイミングだ、気を引き締めてね」
俺がそう考えながら二人を鏡越しに見ていると桜が振り返りながらそう言った。
「…了解、準備する」 ガチャッ
「…わかった、今日の大一番だな」 スッ
叶達はそんな桜の言葉に真剣な顔になり、一二三はスリングショットを準備して叶は弓を準備した。
そう、裏ルートを使うには1日に1回しかない潮が引くタイミングを狙うしかない。
その潮が引くタイミングは毎日同じ時間で、潮の引き始めるタイミングが22時50分だ。
そして22時53分頃になると…
「…見えてきたな、『海に沈んでいた巨大な石橋』!」
「それに『遺跡の天辺の装飾』も見えてきた。真司兄さんの情報は本当にすごいね」
この場所の海の中から2車線くらいの幅がある所々海藻やフジツボ、サンゴなどがついてはいるがそれでも装飾が彫られているのが分かるくらい立派な石橋が見えてくる、そして更に遺跡の一部の装飾も見えてきた。
そう、これが裏ルートで『潮が引くタイミングでしか使えない海に沈んでいた石橋を使ってポータルのある島に渡る』と言う完全にイカれたルートだ。
俺は石橋が見えてきたタイミングでエイセンのエンジンを一気に蒸す。
「皆、準備はいいな?」
俺がそう言うと俺の背中を桜が軽く叩く。
「「「勿論!」」」
「…なら行くぞ!」
ギュラギュラギュラギュラ…
そして、叩かれた後に皆からの返事が聞こえたのを確認してから俺はエイセンを動かして海から現れた石橋の方に向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ザザ〜ン…
ギュラギュラギュラギュラ…
「うぁ…本当に海を走ってるし…」
「…最初は、『海に沈んでいる石橋の上を走る』なんて言われたから心配していたけど、まさか『その石橋の下に石造の巨大な都市』が一緒に沈んでいるとか予想外だった」
海から出てきた石橋を渡り始めて数分後、後ろから叶達の会話が聞こえてきた。
裏ルートの全容は簡単で、実はこの階層の地図を見て初めて気がつくのだが、下の階層に行くポータルがある島と俺達がさっきまでいた場所は一直線にあり、その一直線を繋げる石橋が海の中にかけられているのだ。
その石橋の長さは約65kmもあるかなり長い石橋で、その石橋の下には何かしらの建物が立っているのだ。その光景からノートには『かつて此処には国があったのではないか?そして何かが原因で海に沈んだのではないのか?』とか書いあった。
まあ、そこら辺は別に今考えるべきではない為別にいいが、問題はこの石橋だ。
桜の兄さんも最初はこの橋を渡ろうと考えていた、しかしこの橋には問題があった。
まず、この橋は海藻や貝殻などの歩行に邪魔な物がかなり生えている、しかも完全に潮が引いた状態でも海の中に15cmくらい沈んだままなので海水のせいでかなり走りにくくなっている。
そして潮が引いた状態でいられる時間は決まって夜23時から約2時間、その状態で約65Kmある直線の石橋をモンスターの強襲を警戒しながら走って島に渡るだ。何か手段を持った人じゃないと絶対に無謀な賭けになる。
そんな情報が書いてあったからこそ俺はエイセンに塩害処理と浸水処理を今日中にできたし一直線に進むだけなら俺も速度を気にしつつ少しは周囲を警戒できる。本当にこの情報をくれたノートは偉大だと感じるよ。
「……ん?……ッ!?渉、10時の方向、海の中から何かくる!」
俺がそう考えていたその時、桜がそう叫ぶ。
どうやら、早くも海のモンスターに見つかったようだ。
そして桜が叫んでからすぐに10時の方向から水柱が上がり、その水柱の中から『人のような影』が一つ見えてきた。
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