第107話 修正版

「落ち着きなさい桜さんや、別に俺の好み全開で作った訳じゃない。一二三の要望でああなっただけだから。だから目のハイライトを戻してくれ、マジで怖いから!」


「…本当?」


「うん、ホントホント」


「…わかった」 


そう話すと、桜は目に光を戻してゆっくりと俺から離れる。

まあ、流石に予想外だよな。ライダースーツ+猫耳パーカーの装備とか誰が予想できるんだか。


(まあ、ニーナ自体が取り敢えず殴って確かめる主義のキャラだし…)


ニーナ・シュバリエルは『テラフォーマー』にて主人公を乗せた開拓船団の総帥の3人の子供の末っ子で、かなりのドーナツ狂のうえ脳筋思考キャラだ。

初見のモンスターは取り敢えず殴って反応を見る、新しい物は取り敢えず殴って耐久度を確かめる、壊れた機械には取り敢えず殴れば直ると言いながらトドメをさすなど脳筋思考が止まらないキャラで、ドーナツ一個のためなら拠点に迫ってくるモンスターの大群を一人で殲滅して拠点を防衛するわ、彼女のドーナツを食べるのを邪魔したりドーナツ自体を盗んだりした生命体はことごとく挽肉にする程のドーナツ狂いの10歳の少女なのだ。

しかしそれ以外の事ならごく普通の10歳の少女でありそのギャップに萌えを感じた人が多数いて常に人気ランキング3位をキープしているキャラでもある。


「でも、渡された武器がコレとか私でも予想外だった」


「正直すまんかった。それしか思いつかなかった」


そして桜が離れた後に一二三がそう言いながら渡した武器を持っていたので、正直に謝った。


「いや、『指なしタイプの鉄板付きグローブ』までは予測していた。でも『数本の苦無とスモークグレネード』を渡されたのは予想外だった」


そう言いながら一二三は右手に苦無、左手にギルドの購買でも販売されているスモークグレネードを持ってそう言った。


「ああ、苦無は多種多様に使えるから用意したのとスモークグレネードは一時離脱とかに使うためだな」


「意外と簡単な理由で草」


俺が一二三に渡した道具の説明をする。実は苦無は『Monster Hand Live』の消費アイテムで、本来の使い方は苦無は爆弾の起爆などに投げるアイテムだ。

しかし、この世界はゲームではない。

ゆえに苦無は投げる以外にもナイフみたいに使えたり穴なども掘れる他多種多様の使い方ができる万能アイテムになる。

スモークグレネードもギルドの購買で買うこともできるから入手が簡単で、一二三が一時離脱したい時に使ったりと意外と使える所はあると思い用意したのだ。

あと…


「一二三、その指なしグローブだがな『戦闘中でも鉄板の上に簡単に着脱できる鉤爪とスリングショットのオプションパーツ』があるんだがパチンコ玉とか作った方がいい?」


「…訂正する。この指なしグローブも規格外だった」


俺はそう言いながら着替える時に渡すのを忘れていて俺の隣に置いていた、グローブの手の甲の鉄板に簡単に着脱できるオプションパーツを両手に持ってそう言う。

一二三に渡した指なし鉄板付きグローブはニーナの専用武器であり全戦闘対応型ギミック武器『ニーナ専用超多目的戦闘用グローブ』と言って普段は殴るなどに使える指なしグローブだが、手の甲についている鉄板に着脱が簡単なアタッチメントを付けられて、どんな相手でもまともに戦える超特殊な武器だ。

例えば鉄板に鉤爪やカタールみたいに刃物を装備すれば斬撃で相手が切れ、空を飛んでいる敵だったり距離のある敵にはスリングショットやフックショットなどで撃ち落としたり逆に近くに行ったりできるかなり万能武器だ。

そして今回俺はスリングショットと鉤爪のオプションしか作らなかったが、武器の元となったゲーム内でニーナはこのオプションに加え電動ノコギリやチェーンソーを装備してモンスターを切り刻んだり、ドリルやピストンマシンを装備してトンネルを掘って路を整備したり、ロボットアームや釘打ち機で仮拠点を作ったりとかなりやりたい放題していた。

しかし、材料の問題や俺の技術不足が重なってコレくらいしか作れなかった。本当に申し訳ないと思う。


「…んじゃ、パチンコ玉をお願いしてもいい?」


「了解、専用ケースを含めて準備する」


一二三はそう言いながら俺に近づいてきたので、俺はそう言うと両手に持ったオプションパーツを一二三に差し出す。そして一二三はそれを受け取ると早速オプションパーツをグローブの鉄板に付けてどんな感じか確かめ始める。

俺はその光景を眺めていると、未だフリーズして動かない叶が目に入った。


「いや、叶よ。いい加減に戻ってこい」


「…は!?」


俺が呆れながらそう言うと叶は少し反応が遅れたが体をびくつかせていきなり動き出した。


「…渉、少しいいか?」


「おう、別にいいけど…今煮ているカレーはどうするの?」


叶がそう言いながら手招きをして俺を誘ってきた。しかし、俺はさっきからカレーを作っていたので少し離れるくらいならいいがこれ以上離れるのはカレーを焦がしてしまうと思ってしまった。

しかし、


「なら、オレが見ているから二人で話してきなよ」


「…すまん,助かる」


どうやら桜が俺の代わりにカレーを見ていてくれるらしくアイランドキッチンに立ってそう言ってくれた。

そして俺はその言葉に甘えて叶と一緒に教会から中庭に出る。


「…んで、どうしたの叶?」


「…」


そして少し歩いてから叶が止まったので俺も止まりそう言うと、叶は無言のまま俺の方を振り向いた。しかし、顔は下を向いたまま何かぶつぶつ言っている。


「……し…だか」


「いや、本当にどうした?」


俺がそう言った瞬間、叶は顔を上げた。


「どうしよう…一二三の事は前から可愛いなと思っていたのに、今の一二三は服装も相まって俺の好みにドストライクすぎてまともに顔も見れないんだが!?」


「…まじで?」


そう言った叶の顔は真っ赤になっていていつものふざけた雰囲気は皆無だった。

どうやら今の一二三は叶の好みにドストライクだったらしい。

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