第101話
「…取り敢えず、そう言う事だから優香さんは別に…って桜?」
俺は取り敢えず桜に俺と優香さんの関係はこうであると説明を入れようとした、しかし桜は俺の上からぴくりとも動かない。俺は心配になり背中に意識を集中した。そして聞こえてきたのは…
「…スー…スー…」
(…まさか、寝ていらっしゃるー!?)
微かに聞こえる桜の寝息だった。つまり桜はいつのまにか俺の上で寝てしまい、俺の話を聞いてはいないという事だ。
しかし、この状況は俺にとってチャンスだった。
(うし、今のうちに桜を起こさないように俺の上からどけよう。この際だ、俺は床にでも寝て桜にベッドを渡すか)
そう、桜を俺の上からどけるチャンスが来たのだ。
俺はそう思い立ったのでゆっくり動きながら桜を起こさないように動く。そして少しずつだが上に乗っている桜が移動し始めた…しかし、その時の俺は気がつかなかった。
「…え…、う…そ…」
自分がどれだけ疲れていたのかを。
そして俺は急に来た強烈な睡魔に襲われて意識を失うように眠ってしまったのだった。
〜〜 side 月神 桜 〜〜
「…スゥ…スゥ…」
「…やっぱり、疲れていたんだね」
オレはそう言いながら目を開ける、実は渉には悪いが寝たふりをさせてもらい、渉の反応を少し楽しんでいたのだ。
オレは渉を起こさないようにゆっくりと起き上がりベッドの縁に座る、そしてしばらくそのままの体勢で固まっていた。
そして少し時間が経って…
(オレ、めちゃくちゃ大胆な行動をしてしまった!)
顔を赤くしてしまった。
本来ならオレは渉を驚かせた後に少し会話をしてから部屋を出るつもりだった。
しかし、渉からまた女性の名前が出てきたのが気に食わなくてあんな大胆な行動をとってしまったのだ。
(どうしよう、オレ達付き合ってもないのにあんな恋人みたいな体勢でテレビ電話を…!)
オレは更に顔を赤くしながら手を顔に合わせて左右にゆっくり動かしながらそう思った。
正直やりすぎだと思った、もしかしたら通話相手の優香さんはオレと渉の関係を誤解しているかもしれない。
でも、オレは渉がスマホを見ながら女性の名前を言った時点で本能的に動いてしまった。彼を押し倒してその上に重なるように乗り、耳元で囁くように話したりまるで恋人同士のような感じでテレビ電話をしたりしてしまった。
(…ほんと、渉と一緒にいると調子を狂わされしまう…)
オレはそう思いながら何とか赤くなってしまった顔を冷ましてからうつ伏せで寝ている渉を見る。
(オレ、あの日に『私』と一緒に女性である事を捨てたはずなんだけれどな…)
オレは渉の寝顔を見ながらそう思ってしまった…が、
『流石は僕の桜たん!』
「!」
それと同時にアイツの顔が一瞬だが頭をよぎってしまった。そして一瞬だが決して忘れることができない顔を思い出してしまった為に赤かった顔は一気に青ざめてしまい全身が震えてしまった。
「…ごめん渉、また迷惑をかけてしまうよ…」
オレはそう呟くと震える体を無理矢理動かしてうつ伏せで寝てしまった渉を動かしてを横向きの体勢にした。
そして彼のまるで抱き枕のように彼の胸に顔を埋める形でベッドに入り、彼の腕を私の腰に、私の腕を彼の腰に回してお互いの体勢を固定した。
「…」
しばらくオレはその体勢で体の震えと謎の寒気を彼から感じる体温と存在感で抑え込んでいた。
「本当、やってくれたよ。あの男は」ボソッ
オレはそう愚痴ってしまう。
実は渉にも話していない事たが、オレは今回起きた縁談騒動であの男に軽いトラウマを植えつけられしまった。
医者が言うには数年はかかりますが時間が経てば大丈夫だとは言われたが、オレは今も寝る時などで不意にあの男の事を思い出してしまった場合はしばらく震えが止まらなくなってしまうようになってしまった。
(…でも、やはり本能にしたがって良かった。彼が1番落ち着かせてくれる…)
今までなら収まるまでその場で動けなくなってしまうが、今回は彼に抱きつく事でいつもよりも早く心が落ち着いていく感覚がする。
彼の体温や顔を押し付けている胸から香る彼の匂い、腰に腕を回した為に彼に包まれていると言う安心感がオレを落ち着かせてくれるのだと思う。
そして同時に、オレの心の中で捨てた筈の『私』がまた騒ぎ出したのを感じでしまい、若干恥ずかしさも出てきてしまった。
(本当、渉は不思議な人だよ。オレすら忘れかけていた『私』を引き出すんだからさ)
そう思いながらオレはゆっくりと顔を上げて渉の寝顔を下から見る。
彼と出会ってから一気に沢山の事が起きた。吸収合併されかけた会社を彼が救い、更に兄さんの思いを叶える為にダンジョン攻略の下準備や新しい装備を作ってもらったり、今だってたった1日でダンジョンの中層まで来る事が出来る乗り物や彼が本当は明かしたくはなかったであろうErrorスキルまで明かして衣食住を提供してもらっている。
正直感謝してもしきれない。
そしてオレは感謝の気持ちと同時にこう思ってしまうのだ。
(もし、オレがもっと早く渉と会っていたのならオレは『私』を捨てないでよかったのかな?)
あの日、オレが真司兄の夢の為に女性である『私』を捨てた日の出来事を。
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