第99話

〈話ヲ聞イテマスカ?〉


『ギュイイイイィイイィイイィイイ…』


「…へえ、美人だね…」


「…」


怖い、逃げ出したい。誰だこの部屋の温度を下げた奴は、この拠点内は常に適温が保たれているはずだろ?なのに何故こんなに寒気がするんだ?

いや、それよりも…


「ゆ…優香さんや…俺はいつ貴方のお兄ちゃんになったんだ?」


そう俺と優香さんは血が繋がっていない、そして親戚でもないし家が近所とか昔ながらの顔見知りとかでもない。

何処にも『お兄ちゃん』と言われる要素はないはずだ。


〈酷イデスネ、血ヲ吐イタ口二人工呼吸ヲシタ時点デ血ハ繋ガッタンデスヨ、オ兄チャン?〉


いや、何その超論理。


〈ソレヨリモ…何デ女性ト電話二出タンデスカ?ソノ人ハ確カ配信デ一緒二パーティヲ組ンデイタ人デスヨネ?〉


『ギュイィンッギュイィンッギュイィンッ…』


「…思い出した。確か彼女は君の事を調べていた際に出てきた、正月の号外新聞で君に人工呼吸していた女性か…」


そして画面越しで対面する二人、どうやらお互い少しだが知っているようだった。


「自己紹介しないとね、オレは月神 桜。今回彼と一緒にダンジョンを潜っているほどの仲だよ」


桜はそう言うと俺の首にスマホを持っていない手を回して体を固定してきた。


〈…私ハ大神 優香デス。渉サンノ妹デ一生オ兄チャンヲオ世話シテ全ノ悪意カラ守ル者デス〉


『ギュイィンッ…』


そして優香さんも画面越しに突っ込み所の多い自己紹介をして持っている電動インパクトレンチを一回まわした。


〈…〉


「…」


そしてお互いにらみ合う二人、その光景を全身固定されて逃げたいのに逃げれない俺。

ハッキリ言おう、地獄だ。


(おいおい、なんだこの地獄は!?『オハナシ』所じゃないんだが?しかも優香さん言葉的に俺を監禁しようとしていない?ヤバくない??)


この地獄の状況に頭をフル回転してどう切り抜けるか考える。そもそも優香さんがあの依頼の後にこうなったのは俺が初めて迷惑系配信者に狩りを邪魔された事を話した時以来だ。たしかあの話をした時も電動インパクトレンチを回す音と何かを組み立てる音が聞こえていたが、その時は気にしなかった。

しかし、今はその事が頭に引っかかって思うように考えがまとまらない。


〈…どうしよう、多分いい人なのに認めたくない…〉


「…え?」


俺がそう言う事を考えていたら優香さんが何か言いだした。

そして俺が思い当たる事がある為それを聞く。


「…優香さん、もしかして『見えているの』?」


〈…はい、最近モニター越しでも見る事ができるようになりました〉


「…え、何が?」


俺の質問に優香さんが少し話にくそうな声でそう言い、桜は何の話か分からなそうなセリフを言い出した。

これは…桜にも言わなくてはならないな。


「桜、実は優香さんも俺と同じくErrorスキルを持っているんだよ。しかも相手の考えている事が分かるタイプのな」


「…へ?」


俺がそう言うと、桜は力のない声を出した。そして俺は優香さんにお願いして一緒にに桜に優香さんのErrorスキルについて話し出した。



~~~~~~



「…つまり、彼女…優香さんのErrorスキルは右目で相手の心の内の考えを光景として映し、そして左目で右目で見た光景を彼女へ確実に理解させるスキルって事?」


〈はい、このスキルは伊達メガネをかける、もしくは目線を合わせないようにするしか発動を封じる手段がありません。因みに最近スキルの力が強くなったのか裸眼ならモニター越しでも相手を見るだけで力が発動するようになりました〉


「そして優香さんはこのスキルのせいでかなり人間不信で、信用できる人は家族か俺みたいな数少ない友人以外いない。だから今回の配信で優香さんが俺を心配して電話をかけてきたってわけ」


〈いえ、お兄ちゃんは家族ですよ?〉


「だまらっしゃい」


取り敢えず今までの優香さんの出会いから説明して最後にそれっぽい言い訳で桜に説明する…が、お兄ちゃん発言は否定させてもらおう。


「…確かに、君が何処で自分のスキルがErrorスキルなのかを知ったのかは謎だったけど、話を聞くにErrorスキルの事を彼女に聞いたなら筋は通る。なるほど、そう言う事か…」


そう言うと、オレの頭の上でうんうん言い出す桜…というかこの子はいつまでこうしているんだ?

正直意識しないようにしているだけで精神が持っていかれそうなんだが?


〈…取り敢えず、お話したら落ち着いたので私が何故電話をしたか話し始めてもいいですか?〉


「うん、いいよ。オレも聞いて大丈夫?」


〈はい、大丈夫ですよ。貴方は信用できそうですし〉


「いや、なら早くどいてくれ桜。流石に体勢的に息がしずらい」


「…」


「無視かよ」


俺がそう言うが、桜は一向に俺の上から移動しようとはしなかった。そして気が付かなかったが見事に目のハイライトが戻った優香さんが、何故俺に電話をしてきたのかを説明してくれた。


〈…実は、今日の貴方達の配信でErrorスキルの存在が確定してしまった事で日本はその話でもちきり、ニュースやネットはErrorスキルの事で一色になりました。

そして全世界にもかなりの影響があったらしく、世界中の有名な研究者さん達や各国の機関が日本に集まって渉さんの体、もしくはDNAを研究させろってダンジョンギルド本部などに直談判している状況になってますよ。正直言ってかなりヤバい状況です〉


「「…まじか…」」


そして優香さんの言葉に俺と桜の声が重なった。

どうやら、オレの行動は予想を遥かに超える騒動を巻き起こしたみたいだ。





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