第94話

ぐつぐつぐつ…



「うまし!」


「うお、小松菜ウマ!」


「コレは…いいね。後でレシピを教えて?」


「おう、了解」


ここは拠点の中庭、またそこにプラスチック製の折りたたみテーブルセットとガスコンロ出して俺達は今ビックブルの肉団子鍋を食べていた。

まあ、コレも簡単でビックブルの挽肉に刻んだネギと酒、塩にすりおろした生姜と片栗粉を入れてからこねて団子にする。

そして鍋に酒とみりん、醤油と塩を入れて出汁を作ったら大根やら小松菜などの材料を入れて煮て、ある程度火が通ったら肉団子を入れて灰汁を取りつつ煮れば完成する。肉団子の製作が面倒だがそれ以外は手軽だ。


「ウマウマ」パクパク…


「…いや、配信で知ってたけど食う量が半端ねぇ…後、食べている時の笑顔が眩しいぜ…」


「…因みに、あの唐揚げとポテトは何人分だったの?」


「俺が今回と今後の分の買い出しを合わせたから量的に一ヶ月分+α…多分四十五人分くらい?」


そしてその間に用意していた冷凍のポテトと唐揚げの山を鍋を食べながら凄まじい速度で食べる笑顔の一二三を見て、桜が疑問に思った事に俺はおおよそで答える。

今回俺は三人分の食料を二ヶ月分用意した時についでに今後の分も買い出ししたのだが、コイツのために買い出しした冷凍のポテトと唐揚げを全て出してしまった。揚げる際に使った油も3回以上変えたし、量的におそらく45人分だろうと予測できる。

そしてその様子を配信しているドローンのコメントもかなりの速度で流れている。特に一二三のドローンのコメントは『お肉の人に最大級の感謝を!』とか『お肉の人の料理で姫の笑顔キター!!』とかお祭り騒ぎだ。


「おごめゔぉがばり(お米おかわり)」モグモグ


「いや、米まで食うんかい」


そして唐揚げを食べながら紙の深皿を差し出されて白米を要求された。マジでコイツの食欲はすは凄まじすぎると思いながら俺は白米を準備するために動き出した。


(料理…か、『Gourmet・Hunter・World』辺りの料理がしっかりとシステムに組み込まれている狩ゲーの本がきたら料理のレシピとかでバフとか付くのかな?…あ、まだ生卵あるしオマケするか)


そう思いながら俺は白米の上に生卵を割り醤油と一緒に一二三に渡すのだった



〜〜 しばらくして 〜〜



ジャー…キュ



「うし、洗い物完了」


「おう、こっちもゴミの分別が終わったぜ」


あの後、ご飯6合が一二三の腹に収まって夕飯は終了した。

そして現在、俺は洗い物を終わらして叶は出たゴミの分別をしてくれた。

そして桜と一二三は向こうのソファーに座り、何かを話し合っていた。そして全ての配信用ドローンはソファーの近くの机の上で停止している,故に今は三人ともライブ配信をしていない。


「…取り敢えず叶は手を洗ってきてからこいよ」


「ほい了解」


俺はそう言うと一足先に桜達の元に向かった。


「よ、話し合いは終わったか?」


「ああ渉、ちょうど良かった。君に話があったんだ」


俺が声をかけると桜達は俺の方を向いて真剣な顔になりこちらを見てくる。


「…渉、私もダンジョンの攻略に参加してもいい?」


「…は?」


ちょい待ち、今このチャイナ娘はなんて言った?

ダンジョンの攻略に参加したいだって?


「…理由を聞いてもいい?何で参加するの?」


俺が混乱しながらそう言うと、一二三は無表情で俺に指を指してきた。


「理由は貴方」


「???」


やばい、更に意味がわからない。


「ごめん、オレが彼女の話を補足するよ。えっとね…」


そう言うと、桜は話し出した。

一二三は群馬出身で家族が米農家をやっていた、そして幼少期はよく食べる子ぐらいだったと思われていたらしい。しかし5歳を迎えると事態は急変、スキルのせいで食べても食べてもすぐにお腹が減るようになってしまったそうだ。

そして小学6年生の時には本人の意思でも空腹感のによって引き起こされる強烈な食欲の制御ができなくなり始めていたらしい


「コレは彼女の将来がまずい事になると感じた彼女の両親がスキルの事を研究している東京の親戚の元に彼女を送ったんだって」


「…」コクコク


いよいよ本格的に彼女の将来が心配になった両親は父方の親戚であり東京でスキルについて専門に研究しているギルドお抱えの研究者の元に彼女を連れて行き見てもらったそうだ。

そして見てもらった結果は残酷の一言、彼女のスキルである『暴食』のデメリットである空腹感が強くなり続ける事が判明したのだ。

故に研究者は一二三とその両親にダンジョンが近くにあるここ東京の私立中学に通い、ダンジョンのモンスターを食料として食べつつ『暴食』スキルのデメリットを抑制する方法を探す事を提案した。


「最初は私の両親も反対していたけど、私はこれ以上両親に迷惑をかけたくなかった」


そう言うと一二三は顔を下に向ける。

一二三の両親は最初こそ反対したが、最終的には一二三の意思で東京に行く事を決意したそうだ。

こうして、一二三はその研究者の人のマンションで居候して、東京の私立中学に通いながら自分のスキルの事について研究してもらう事にした。


「そして一二三が配信者になった理由は二つあるんだ」


そう言うと桜がその事について説明をしてくれる。

一つ目の理由は配信している所を自分の両親に見てもらいつつ、研究者の人の為の映像サンプルを撮る為。

二つ目は配信者になってお金を一杯稼いで、今まで迷惑をかけた両親に仕送りなどをする為だそうだ。

実際一二三はダンジョン配信者として大成功して映像サンプルも仕送りする為のお金も沢山手に入ったそうだ。

だがそんな日々を過ごしても一向にスキルの事について進展が無く、毎日のようにどんどん強くなる空腹感に怯えながらもいつか報われると信じて頑張っていたらしい。

そしてそんな日々を送っていたある日、とんでもない事が起きた。それは…


「渉、貴方はダンジョンを攻略してスキルを増やした。だから私もこのダンジョンを攻略してスキルを増やそうとしていたの」


そう言うと、一二三は顔を上げる。そして真剣な顔で俺を見てきた。

そう、俺が旧歌舞伎座ダンジョンを攻略しスキルを新たに増やした事を知り、彼女の空腹感に襲われる辛い日々を終わらせる希望ができたのだ。









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