第93話

〜〜 スカイツリー展望デッキ内ダンジョン 中層 19時 〜〜




「…うし、到着っと」


あれから日は暮れてダンジョン全体が月明かりに照らされその中をエイセンについているフロントライトを頼りに前に進む俺達。

そして運良くモンスターに出くわさないで目的地である砂浜にある岩に突き刺さった帰還用ポータルの周辺に到着した。

ここに到着する間に話し合いも終わったらしく、何とか暴れずに済んだが先程から桜に背中を摘まれていて若干痛い。バックミラー越しに姿を確認したが、何故か頬を膨らませて怒っている顔をしていた。


「…取り敢えず、桜は背中を摘むのをやめてくれ。降りられない」


「…わかった。でも、また後でやるから」


俺がそう言うと、桜は不満そうな声で摘むのをやめた。

そして体ごと後ろを振り向くと、相変わらず無表情の一二三とニヤニヤした顔の叶の2人がこちらの様子を見ていた。


「…いや、何見てるの2人とも」


「いやー、友達の青春を見るのは楽しいんだよ。ポップコーンとコーラが欲しくなりますな〜♪」


「…同意、もっとイチャコラしてどうぞ」


俺がそう言うと叶は笑顔になって少し笑いながらそう言い、一二三は無表情で叶を肯定しながら桜と俺を交互に見ていた。

いや、何楽しんでんだよこの2人は?


「…あ、配信の事を忘れてた」


そして桜は配信していた事を忘れていたのかドローンにセットされているスマホに映るコメントを見てそう言っていた。

俺もそのコメントを見てみると、『何だこの甘酢ぱいやり取り!?』とか『桜たんは僕のだぞ!』とか『何…この気持ち…お兄様とお姉様…か…』とか色々なコメントがあった。


「いや、コメントがかなりカオスな状況だな」


俺はコメントを見つつエイセンから降りる。そして俺は岩に歩いて近づいていく。


「…叶、あれは何をしようとしてるの?」


「そっか、一二三さ…



「一二三でいい」



オーライ、一二三は渉のあのスキルを知らないんだな」


「???」


そして後ろから叶と一二三のやり取りが聞こえだが俺は気にせず近づく、そしてある程度近いてから止まりその場で足踏みをして拠点を展開した。


「………(あんぐり)」


「お、ナイスリアクション」


「あ、夜は月が2つあるんだね。…綺麗だな…」


そして展開し終わりエイセンに戻ろうと振り向くと、一二三は無表情からビックリした顔になりながら口を開けていて叶はそれを見てサムズアップしていた。桜はどうやら拠点の夜しか見えない2つの月を見て感心していた。

俺は取り敢えず一二三に拠点の事をまた説明しなければならないのかと考えながら俺はエイセンに戻る為に歩きだした。



〜〜 拠点内  〜〜



「…チートだ」


「お前にだけは言われたくないわ!」


あの後俺達は拠点に入り、中庭にエイセンを止めて建物に入った。

そして建物の中はランタンが付いているから意外と明るい為、女性2人をソファーに座らせて

俺達男子は床で三機のドローンで撮影されながら俺の『Errorスキル』の話をした。

そして話が終わると開口一番にそう言われた。


「いや、チートと言われても仕方がないぜ。本当に認識を改めな」


俺が反論すると、隣にいた叶がそう言ってくる。

俺的には小一時間くらい問い詰めたいが夕飯や風呂、その後の話し合いの時間を考慮すると反論して時間を潰すのはダメだ。

そんな時間があるなら夕飯を作るべきだろう。


「…わかったよ。その事について後で考えるよ…それよりもだ」


俺はそう言うと桜と叶、そして一二三を見る。

…うん、三人とも力は強そうだ。コレならアレがいける。


「すまん、三人に頼みたいことがある。夕飯の手伝いをたのみたいんだかいいか?」


「ご飯!」ガタッ


「反応早!?」


「別にオレはいいけど、何をするの?」


俺の言葉にそれぞれの反応をしてくる三人を確認した後、俺はアイランドキッチンからカッパ橋道具街で買った手回し式のミートミンサーとステンレス製の大きめのボールとアルミトレーを数枚、後ビニール製の手袋の箱を持ってくる。


「まず叶、俺は今から(食料管理)の部屋からビックブルの肉をあらかた持ってくるからこのミートミンサーでひき肉にしてくれ」


「おう、コレ一回やって見たかったんだよな♪」


俺が指示を出すと叶は楽しそうに笑っていた。


「一二三は叶がひき肉にした肉をボールに移して今から用意する奴を入れてからかなりこねて混ぜてくれ」


「ご了解


一二三にも指示をだしたら不思議と二重に聞こえだが気のせいだと信じたい。


「最後に桜、一二三がこねた奴を団子みたいな型にしてくれ。できるか?」


「問題ないよ、料理は一通りできるから」


最後に桜へ指示を出したらいい返事が返ってきた。

まあ、一二三以外は大丈夫だろう、一二三以外は。


「んじゃ頼む。

後、俺が肉を持ってくるまでに台所で手洗いと置いてあるアルコール消毒液で消毒してから手袋をつけてくれよな」


俺がそう言うと一番に一二三が反応して残像を残す速度で台所へ移動、次に桜、叶の順番で台所で手を洗っていた。


(さて、準備するのは大根に小松菜…あ、ついでに一二三用に大量の冷凍ポテトと唐揚げを揚げるか)


俺はその光景を見ながら(食料管理)の扉に入るべく歩いていく、そして今から作るものを想像しながら取り出す食材を考えていたのだった。

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