第92話

『ガアアア!?』


「…」モグモグ


「すげ、本物の『暴食龍姫』だ!」


「一二三の奴、何してんだよ…」


「…え、もしかして知り合い?」


暴れるモンスターだが、関係なく尻尾から文字通り踊り食いをしている『暴食龍姫』こと『城ケ崎 一二三』がそこにいて、叶は文字通り目を輝かせて喜び、俺は頭を抱えて一二三の行動に混乱し、桜は俺の発言に目の光を無くして俺を見てくる。

俺達がそれぞれの反応をしていると…


『ガッ!』


ブチッ


「あ」


モンスターが突然尻尾を切り離した。そしてその拍子に彼女は尻尾から手を放してしまい空中に投げ出される。


「…やべ、『置楯』!」


その状況に叶が急いで落下地点に移動して目の前に『置楯』を発動、それを背にして落ちてくる彼女を受け止めた。


「…あぶな!?」


「…え、だれ?」


叶が冷や汗をかいて彼女をお姫様抱っこの姿で受け止めてそう言い、一二三は今の状況が理解できないという感じだった。


『ガアアア!』


そして、そんな二人にむかって尻尾を切り離したモンスターが突撃していく。そんな光景に俺と桜が同時に動いた。


「足!」


「「了解!」」


俺がそう言うと桜が2体に分身して二人とも両手で短槍を構える。そして…


「「そい」」


ジャラララララテ…


『!?』


2人の桜が持っていた短槍が『何故か伸びて蛇のようにモンスターの両足の健の部分に絡みついた』。

更に叶は口角を上げて…


「「はい!」」


ジャラララ…


『ガア!?』


ブシャーッ


そのまま叶は槍を引く、すると『まるで削り取るように巻き付いていた部分の肉が削がれ血が噴き出した』。

そして前に倒れるモンスターの光景を見た俺はそのモンスターの首に向かって走り出す。


「オラ!」


ドンッ!


『ガ…』


そしてある程度距離を詰めると俺は武器の稼働機構であるパイルバンカーを相手の首に打ち込む。


「すまん、終わりだ」


ズドガーンッ!


そしてまた取っ手を捻じり、近距離砲撃にてまた首をはじけ飛ばして頭と胴体を分断してその命を刈り取った。


「…おい、半端ないよお前ら…」


「…あ、渉だ」


そしてその光景を見ていた叶は口をあんぐりと開けてそういい、いまだお姫様抱っこされている一二三は俺を指さしてそう言った。


「…話し合いだな、こりゃ」


俺はそういいながらモンスターを見る。正直説明が面倒だが話さなきゃいけない。桜の武器の事も、一二三の事も。そうじゃないと…


「「…」」ジ~


ハイライトが消えた目で見てくる桜の無言の圧に俺が耐えられない。

俺はそう思うと、そのまま叶達の方に向かって歩き出した。




~~ 数十分後 ~~




ギュラギュラギュラ…


「…つまり、その武器は渉が作った『蛇腹が仕込まれていて鞭にも使える短槍』でOK?」


「合ってるよ。しかもオレの任意で巻き取る時に仕込み刃を出して巻き取る勢いで相手の肉を削り取るオマケつきだ」


「いや、それは正直やり過ぎ。私でも見たことない位の変態武器」モグモグ…


俺達は取り敢えずモンスターの死体は俺が管理すると言い、拠点にしまった。その際に一二三が何か言いたげだったからその場で尻尾をエイセンに積んであった肉焼き器で焼いてあげて今、全員エイセンに乗り中層の陸地の外周である砂浜を移動している。

そして、荷台にいる叶と焼いた尻尾を齧っている一二三が後部座席にいる桜に武器の事を聞いていた。その会話を三人の撮影ドローンも撮影していたみたいで偶にバックミラーに映る誰かのドローンのコメントも大盛り上がりだ。

先程、一二三が撮影許可を求めていたので許可したがようやく意味がわかった。


(まあ、蛇腹によるギミックが『影の双牙』の真髄なんだよな…)


桜の為に作った武器は『テラフォーマー』に出てくるギミック武器『影の双牙』だ。

コイツは蛇腹による近中対応の武器で槍と鞭のハイブリットみたいな武器だ。

『影の双牙』は蛇腹の機構で短槍でありながら普通の槍よりも長い距離を攻撃でき、まるで影みたいに柔軟に動く。更に蛇腹のおかげで鞭と同じ使い方もできて、蛇腹に細かく仕込んであり所有者の任意で出せる刃が短槍の姿に戻る際に攻撃した対象を削り取るのだ。

コレを作る際に必要だったのは『最高峰の刃物』と『蛇腹の機構の完全再現』だった。

前者はかっぱ橋道具街で何本かの高級刺身包丁を買う事でクリアーした、そして後者は俺が前に田中さん達から買って前回の歌舞伎座で使えなかったあのサバイバルナイフ型の蛇腹剣が役に立った。

お蔭で桜の要求に120%応えた武器ができたのだが、武器をお試ししてくれたあの時に何故かやり過ぎと言われてしまった。正直遺憾だった。


「…それで、オレの武器の話はこれくらいで言いとして、たしか…『暴食龍姫』さん?」


「ングッ…、一二三でいいよ」


「わかった、では一二三さん。貴方に聞きたい事があるんだ」


桜の問いに、一二三は尻尾を全部食べてから返事をした。俺はおそらく何が目的でこの中層にいるのか聞くのだろうと思っていた。

しかし桜は…


「渉とは結構仲が良いようだけど、どういう関係?」


「ブッ!?」


見当違いのとんでもない爆弾発言をしていた、そして俺は運転中にも関わらす吹き出してしまった。


「ああ、渉は私の『お肉の人』だよ?」


「ブホッ!?」


そして一二三はさらっとそう答えて、隣にいるであろう叶が吹き出す音が聞こえた。


「お…お肉の…人?」


流石の回答に桜も声で分かるくらいに困惑気味だ。無理もない、いきなりお肉の人と言われても意味が分からないだろう。


「うん、私と渉の馴れ初めはね…」


そして一二三が俺の馴れ初めを話し始め、桜は困惑気味になりながらもその話を聞き、叶は爆笑しながら桜に一二三の話の補足をしていた。


(…ま、自己紹介とか色々と省けていいが、頼むから運転に支障が出ない程度で話してくれよ…暴れられたら対処できないぞ…)


俺は冷や汗をかき、そう思いながら砂浜をエイセンで移動していった。

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