第95話 修正版
例え話をしよう。
ある人二つのスキルを持っていた。
一つ目は常に体温が高くなるが代わりに身体能力が高くなるスキル、二つ目は常に体温が低くなるがその代わりに病気になりにくくなるスキルだ。
そしてこの体温に作用する二つのスキルを持っていると何が起こる?
正解は常に体温が平熱になり、身体能力が高くなり病気になりにくくなる。
実際にフランスには自分の体重が軽くなる代わりに触った物を浮遊できるスキルと自分の体重が重くなる代わりに触った物を重くするスキルを持っている人が今も生きている。
そしてその人はこの二つのスキルを所持している為、自分の体重が変化しないにも関わらず、触った物を浮遊させたり逆に重くしたりできる。
つまりマイナス要素があるスキル同士を持つと稀にそのマイナス要素がぶつかり、最終的にお互いのマイナス要素が打ち消し合う事になるという事だ。
つまり…
「一二三は『暴食』のスキルのデメリットに対して打ち消せるであろうスキル、もしくはそれを抑制できるを手に入れたい。だからダンジョンを一緒に攻略したいのか」
「…」コクコク
俺の言葉に一二三は真顔で頷いた。
「話を聞くに、一二三のスキルの事を研究していた人も現状コレしか手がないって判断したらしいよ」
そして桜は更に補足してくれる。
研究者もいくら彼女を調べてもそのマイナス要素をどうにかできるキッカケすら手に入らなかったそうだ。
しかし、俺がダンジョンを攻略してスキルを新たに手に入れた。
そしてそれを知った研究者は一二三に自分が知る空腹感に作用するスキルをリストにして彼女に渡したのだ。
「『食絶』『少食』『美食』『光合成』…どれでもいい、私の知らないスキルでもいい。私の空腹感を抑えられるスキルが欲しい、コレが私の『夢』であり『願い』なの」
「…一二三」
それを言う彼女の顔は真剣そのものだ、本当に覚悟を決めているのだろう。
「私は普通にご飯を食べたい。皆と同じ量で一緒にご飯を食べたい、皆と楽しみながらご飯を食べたい、もう誰も私の食欲のせいで迷惑をかける所は見たくない」
「…」
俺は黙ってその言葉を聞く、すると…
「…渉、俺からも一二三がパーティーに参加するのをお願いしてもいいか?」
いつのまにか叶が俺の後ろにいて、話しかけてきた。
「叶」
「あのよ、彼女の口からあんな言葉を聞いたんだ。俺は一二三の件を断るのはゴメンだね、コレでお前が彼女の覚悟に答えないのならば例え友達でも俺はお前を一生軽蔑する」
俺が体ごと後ろを向くと、叶が腕組みして仁王立ちをしながらそう言い出した。
「…叶」
「おう、一二三は気にするな。もし断られても別のダンジョンを攻略する時は必ず手伝うからよ」
「…」
そして更に後ろにいる一二三に叶がそう言った。
…ああ、コイツらは本当に……最高だな。ならば俺が言う言葉は一つしかない。
「…オーライ、俺も丁度パーティの火力不足をどう補うか考えていたんだ。むしろこちらからお願いしたいね」
「!?…あ、ありがとう!」
「ふふ、良かったね一二三」
「…はは、やっぱお前は最高だわ」
俺がそう言うと、一二三達はそれぞれ違うが嬉しそうな反応をした。
だからこそ、俺は一二三に言わなければならない事が三つある。
「一二三、三つ聞きたい事があるんだがいいか?」
「いいよ、何でも聞いて?」
俺が一二三に向き直って真剣な顔でそう言うと、一二三は無表情だが目は真剣な目で俺を見てくる。
「まず一つ目、例え俺達と来てダンジョンを攻略しても望んだスキルが手に入るか分からない。それでもいい?」
「うん、承知の上」
俺が新たにジョブやスキルを手に入れた時に思ったが、多分新たに手に入る物は完全にランダムだと思う。何故なら俺と父さんの家系で誰も『料理人』のジョブの人や『鷹の目』のスキルを持った人は誰もいないからだ。
それでもいいのかと一二三に聞いたが、一二三は速攻で答えた。
「OK、なら二つ目だ。一二三、明日から自分が食べるモンスターを狩ってきてはくれないか?
今日の食事量から計算すると後3日位しか食料が持たない。予定では約2週間くらいで禁層のポータル前に到着する事を考えても流石に無理がある」
「OK、それは超大事。全力で狩ってくる、後その時に出た食べれない素材はお礼として渉にあげる」
俺の言葉に真顔になって頷く一二三、実際マジで一二三が加わるとなると食料が後3日位しか持たない、節約しても5日が限界だろう。故に一二三には自分の食料を現地調達してもらう必要がある。
(…まあ、栄養素とか偏りがないように俺も気をつけて料理するか。まだ冷凍のミックスベジダブルとかの冷凍野菜とか冷凍の海鮮やフルーツもあるからな…最悪の状況を想定したサプリメントもあるし…)
正直、田中さんから料理を教わっていて本当に良かった。俺を含めた四人の栄養素まで計算した料理を作れるようになったからマジで田中さんには感謝している。
「…そして三つ目だ。…一二三、すまんが俺の見立てだと今着ているチャイナドレスはコスプレ用の服に見えるがそうなのか?服の生地が薄い感じがして明らかに防具としては見えないんだが?」
「…?…そうだよ、秋葉原の中古コスプレコーナーに置いてあった奴を買って着てるよ?」
俺の問いに、さも当然のように答える一二三、そして俺はその言葉に頭に片手を当てて上を向いた。
「いや、何さも当然のように答えてるの?ダンジョンに防御力皆無のコスプレ衣装とか死にたいの?」
流石の俺でも頭が痛くなってくる。おそらく装備を確認したギルドの職員も同じ事を言ったはずだ。
確かにチャイナドレスは配信映えするかもしれないが流石にダンジョンでコスプレ衣装に命を預けるのは気が狂っているとしか思えない。
「…え、ダメなの?だってチャイナドレスは『戦闘服』なんだよ?」
そして俺がそう考えていると、一二三は不思議な事を言い出した。
「…『戦闘服』?」
俺は急いで一二三に向き直る。
すると一二三はいつもの無表情で…
「だって昔、お父さんとお母さんの部屋のベッドの下にコレがあって、それをお母さんに聞いたら『コレは夜にお父さんとベッドで戦う為の戦闘服よ!』ってサムズアップしながら言ってた。
だからこれは女性が戦う為の戦闘服なんで……ん?何で三人とも頭を抱えて下を向いてるの?」
とんでもない爆弾発言をかましてきやがった。
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