第89話
~~side 佐藤 渉 ~~
ギュラギュラギュラギュラ…
「おい、渉」
「どうした、叶?」
俺が作った乗り物に2人を乗せてひたすら爆走していると荷台に乗っていた叶が声をかけてきた。
「俺のリスナーが『コレはケッテンクラートですか!?』とか聞いてるんだが、そうなのか?」
「基本構造はそれで間違いないが、かなり中身は違うぞ。
後、これの名前はケッテンクラートじゃない。この乗り物の名前は『エイセン・KB』、正式名称はドイツ語で『Eisen kriecht auf dem Boden《地を這う鉄》』と言うんだがそれをかなり略してそう名付けた」
「何故にドイツ語?しかも略しすぎだろ」
「別に良いんじゃない、オレは結構楽しいよ!」
俺が用意した乗り物の名前に何故かツッコミを入れる叶だが、それを『後部座席』に座っていた桜が笑いながら反応していた。
俺が今回用意した乗り物は第二次世界大戦時にドイツで開発された半装軌車のケッテンクラートを『テラフォーマー』が完全リスペクトして生まれた全陸地対応型半装軌車『エイセン・KB』だ。
この乗り物は運転席と後部座席、それと2人分の広さがある椅子付き荷台を合わせて最大四人乗れる仕様になっていて、平均速度は80kmで最大速度110km出せるかなりヤバい半装軌車だ。
しかも乗り心地を優先して速度を落とさずに履帯による振動を約80%吸収するゲームに出てきた特殊な防振装置と駆動音をなるべく抑える為の特殊装甲を取り付けた為に車体が大型化したという設定だが、大型化をした為に運転席の後ろに後部座席を追加され、さらに状況に応じて色々と細かいカスタムをする事ができるようになったと設定資料集に書かれている『テラフォーマー』の中でも人気の乗り物である。
(ま、コイツは叶からあのモンスターを聞かなかったら作れなかったんだが)
俺はそう思いながら運転する。
コイツの材料は不法投棄された大型バイクに壊れて海岸に捨てられていた錆びた小型の履帯付きブルドーザー、そしてモンスターであるハイエナコックローチに叶から教えてもらったモンスターである『鋼鉄百足』を使って製作したのだ。
鋼鉄百足は文字通り甲殻が鋼鉄でできている原付サイズの百足だ。
コイツは基本群を作り、最低オス4匹とメス1匹で行動する。そして狩りをする場合は、まずオスは顎に神経毒を持ち相手に噛みついてその毒を注入、動けなくしてから最後にメスが顎に神経毒の代わりに持っている強酸を相手に噛みついて注入、そしてトドメを刺してから皆で獲物を食べる、これが鋼鉄百足の基本的な狩猟スタイルだ。
そしてこのモンスターを狩る際に絶対に覚えておきたい弱点がある。それは寒さに弱いという事だ。
大体百足が出現するエリアの平均気温から-3度くらい下がるだけで、体が動けなくなってしまい棒立ち状態になってしまうのだ。
つまりその隙に心臓か頭を潰せば確実に勝てるのだ、無論甲殻の隙間に刃物を入れて体を切り分けてバラバラにして殺してもいい。
それだけで簡単に勝てるが体がデカすぎるのと見た目が気持ち悪すぎるのでハイエナコックローチ並みに嫌われている虫型モンスターなのだ。
まあ、つまり俺はこの鋼鉄百足の触覚以外を使い履帯を含む車体全体の98%を強化したのだ。
しかし、この百足だけを使ったエンジンの場合は平均30km、最大速度65kmしか出ない。故にエンジンだけは鋼鉄百足とハイエナコックローチの2匹で強化した。そうしたら平均速度も最高速度も最初に言った速度になりかなり良くなった。
しかし、今回もバイクと同じ問題が起きてしまった、それは製作時に使ったモンスターの数だ。
材料に使ったモンスターの数だが、ハイエナコックローチはエンジンのみだったので約15匹で済んだが鋼鉄百足は全体的に使ったので約65匹も使った。原付サイズの百足を約65匹もだ、バイクの時と比べてかなり製作時の必要素材が多い。
これでは修理部品も安易には作れない、早急に何かしら考えないとマジで永遠と原付サイズの百足を狩らなければならない。
(…ま、そこはおいおい考えればいいか)
俺はそう思いながら運転を続ける。そして二人は並走しているドローンに何かしらアピールしていて意外と楽しそうだ。
因みに、これの燃費は1L辺り50km前後だ。理由としてはどうやら鋼鉄百足を使った場合は燃費が滅茶苦茶よくなるみたいだ。その代わりに百足だけだと速度が出ないからそこは他の素材で補うか技術で補うしかない。
まあ、そこの点はこれからの課題だ。俺もまだまだ『テラフォーマー』で作りたい乗り物もある、もっと研究してもっと色んな乗り物を作り、もっと狩りをやりやすくしたいのだ。
そして俺がそう思っていると…
ドドドドドドド…
「…ん、何だあれ?」
叶が荷台でドローンを通して視聴者と会話をしていたが、土埃を上げながら何かが音を立ててこちらの後ろ方面からこちらに向かってきているのに気が付いた。
「…!?叶さん、弓を構えて!」
どうやら後ろの席の桜もその光景に気が付いたのが短槍を1本抜いて構えたのをバックミラー越しに確認した。
「え、何何?何が向かってきてるの??」
しかし、叶が慌てながら弓の準備をしつつ狼狽えていた。
「桜、これって…」
「うん、間違いない。渉はしっかり速度を保って運転してね」
「了解」
俺が桜に今後ろから来ているであろうモンスターの事を聞いたら桜はそれを肯定した。
肯定したという事は今後ろにいるモンスターは真司さんのノートに書かれていたモンスターだという事だ。
つまり、今俺達…いや、『素早く動いている乗り物』を目標にして向かってきているのは…
ドドドドドドド…
『ココココココココ!』
「ウェ⁉何だあの『鶏とダチョウが合体したみたいないモンスター』の群れは!?」
「やっぱり、『ラン・マッド・チキン』だ!しかも見た感じ20匹くらいの大群だ!」
俺達に向かってきているのは、ダチョウと鶏を合体したみたいな容姿をしているこのダンジョンの浅層で生態系の頂点に君臨しているスピード狂のモンスター、『ラン・マッド・チキン』の大群だった。
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