第88話
~~side 無 ~~
『ギャ…』
「ふう、終わったか…」
「くそ、個体数が多い群れに目をつけられたのがヤバかったな」
周りあるに6体のヴェロルの死体を見ながらそう呟く30代と思しき二人組、2人の装備はショートソードとラウンドシールド、そしてモンスターの皮でできているであろう同じデザインの全身皮装備で、息を切らしながら背中合わせで死角をつぶしながら周囲を警戒していた。
「く…こんな目に遭うんだったら、あの依頼を受けるべきじゃなかったな…」
「いや、あの依頼は報酬がかなりいいだろ?お前もそれに釣られたタイプだろうが」
「『お前も』と言う事はお前もか」
「ああ、そうだよ」
2人はそう呟きながらも安全を確認していく、彼らはギルドの依頼でとある会社で今期発売予定の新デザインで作られた革鎧の耐久性のテストの依頼を受けた2人だ。
この依頼は今日の午後18時まで支給された装備でモンスターを狩り、その後に返却された装備の損耗具合を見て改善点を洗い出すという感じの依頼だ。
この依頼の報酬は3つ、一つ目は一人あたり30万の報酬金、二つ目は倒したモンスターの素材をギルドが提示した金額の1.5割り増しで買い取ってくれる事、三つ目は今着ている防具を後日補修してからそれぞれにプレゼントする。
これがこの依頼の報酬内容であり、この依頼自体結構人気がある種類の依頼だ。
そしてこの2人は同じ依頼を受けて同じ日に同じタイミングで装備を受け取った為にお互いせっかくだからと初対面同士でパーティを組んだのだが運悪くこの群れに襲われ、ギリギリの状態だがなんとか倒したというわけである。
そして2人は安全を確認すると死体の中から状態のいい2匹を選別して解体を始める。
「…なあ、知ってるか?」
「何をだ?」
2匹を同時に解体している男に周囲を警戒していた男が話し出す。
「今、このダンジョンに『
「マジか!?」
周囲を警戒していた男がそう言うと、2匹を同時に解体していた方の男が解体の手を止めて反応する。
それほど彼は『
「その話がマジなら、そしてもし『
「いや、その前に早く解体しろよ。それからこの話をしようぜ」
「…スマン」
この男、重度のバイクオタクだからだ。
この男はバイクを限りなく愛しており、写真や模型だけではなく実際に原付から大型バイクまで複数台所持しており、彼の夢は40代までに個人経営の中古バイク店を経営する事なのだ。
そして現在、その夢の為と複数台のバイクの維持費を稼ぐために今このダンジョンで企業の依頼を受けたのだ。
故に彼は『
(少なくとも写真を…いや、一目だけでも見たいな…)
そう思いながら彼は2匹の死体に向き直った。
そしてバイクの話をしたいが為に更に彼が素早く解体をしようと動き出した…そんな時だ、
ギュラギュラギュラ…
「…ん、何だこの音は?」
「キャタピラの動く音?でもここはダンジョンだし殺傷能力のある履帯付きの機械は動かないはず…」
何処からかキャタピラの音が響きだしたのだ。
そして彼らは何故ダンジョンから動くはずのない機械でしかならないキャタピラ音が響くのか分からなかった。
「…もしかして、これって」
「お…おい、アレを見ろ!」
男が何かを思いつくと同時に見張りをしていた男が何かを指さして叫ぶ。
そして解体していた男がその指を刺した方向を見ると…
「な…なんだありゃ!?」
「…」
そこには自分たちより若い3人が不思議な乗り物に乗っている光景だった。
「あれ、運転しているのは『
「…」
見張りをしていた男が運転している人物がさっきまで話していた人物であるのに気がつくが、解体していた男は運転手よりも運転していた乗り物に目が奪われていた。
「…?どうした?」
「…『ケッテンクラート』だ」
「…は?何て?」
「車体が本来よりデカいし速度も桁違いだが間違いない、アレは第二次世界大戦期にドイツで開発された半装軌車のケッテンクラートをフルカスタムした奴に違いない!すごい、あんなのは見たことないぞ!?」
「お…おう…そうか」
解体していた男が興奮しながら目の前からすごい速度で移動している半装軌車を見ながら興奮している。
そして見張りを見ていた男はそんな男に若干引き気味になったのだった。
「くそ、解体なんてしてる暇はない!今すぐ写真…いや、動画撮影だ!!」
「おい、すこしおちつ…て、聞いてないし」
解体していた男がその場から離れてスマホを取り出していたのを見張りをしていた男が制止したが、解体していた男はそんな声は聞こえていないのか問答無用で撮影を開始した。
そしてそんな行動をしている男に見張りをしていた男は呆れて制止するのをやめたのだった。
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