第87話

「…納得いかねー」


「どうした叶?味付けが好みじゃなかったか?」


「いや、多分そうじゃないと思うよ…うん、美味しい!」


中庭でキャンプ用のプラスチック製の折りたたみテーブルセットを出して紙皿に盛られた昼飯を食べる俺達3人、しかし何故か叶が不満顔だった。


「いや普通さ、ダンジョンの飯って言ったら携帯食料とか干し肉とかじゃん」


「うん、そうだな」


「何で『バター醤油の香りがするたらこパスタ』が出てくるんだよ。しかも普通に店に出せる位にうまいし…」


そう言いながらたらこパスタを食べる叶。

別にパスタ自身は作るのは難しくない。普通にたらこの薄皮を剥がして身をほぐして、次にパスタを規定の時間どおりに茹でて、その間にバターと醤油と塩と黒胡椒とマヨネーズを準備して、茹でたパスタの湯切りがしっかりと出来た事を確認したらフライパンを取り出してバターを入れて火にかけて、バターが解けたらそこにほぐしたタラコを投入。その後ある程度タラコに火が通ったら醤油とマヨネーズを入れて更に炒めてマヨネーズが解けたらパスタを投入、後は黒こ胡椒と塩で味付けしながら全体が馴染むように炒めて、全体的にいい感じだと思ったら紙皿に盛り付けして小口切りした葱と刻んだ海苔を上に散らせば完成する。

結構お手軽な料理だ。


「別に俺が料理できるのを叶は知っているだろ?」


「そうだけどさ…男として負けた気分なんだよな…」


そう言いながらも食べる手は止まらない叶と味わって食べている桜。

俺は別に料理はできる方だ、親が片親だから家事も手伝うし料理も俺が代わりに作ることがある。しかも田中さんにレシピを教わっている分料理には自信がある方だ。


(…ま、『料理人』のジョブの影響で料理が上手くなり効率よく料理ができるようになったのは事実だけどな…)


『料理人』のジョブは料理全般の作業に補正がかかるジョブだ。これには料理だけでは無くその後の洗い物などの料理に関する全ての作業が補正の対象だから意外と使いやすいジョブだ。


「ま、これが俺が必要最低限の持ち物だけ持ってくるように言った理由だよ。食べ物は俺が準備できるし拠点もあるから月単位で食料を保存していられるしな」


「…ま、いいか。考えても仕方がない。今はこの飯に集中するとしますかね」


俺はそう思いながらまた叶がパスタを食べ始め、俺もソレをみてまた食べ始める。これから俺はかなり繊細な運転をしなければならない、だから今は活力を得る事に集中するべきだと考えたからだ。

そしてその光景をドローンは撮影していて、コメントもかなり『飯テロだ!?』みたいな感じのコメントで埋め尽くされていた。



~~ しばらくして ~~



ジャー…



「…おう、洗い物を任してすまないな叶」


「おう、別にいい……お、何それ?」


「刀と…短弓?」


ご飯を食べ終わった後に洗い物をしようとしたら叶と桜が代わりにしてくれると言ってくれたのでその言葉に甘えて俺は(装備管理 車庫 整備場)の部屋からある物を持ってくることにした。

そして持ってきたタイミングで叶達も洗い物が終了したようでそちらを見た二人は俺の持ち物を見てそう言ってこちらに近づいてきた。

そしてドローンも二人の後についてきて、その武器を移したのかコメントも反応している。


「叶の武器だ。確か弓も使えたよな?」


「おう、俺のジョブの補正の対象内だから使えるよ」


叶に俺は持ってきた武器を渡す、それは少し大きめの鞘に入った刀に見た目は木でできている短弓と矢筒だ。そして叶は受け取った二つの内の弓はその場に置いて刀を抜いた。


「…いや、何これ?」


「すげーだろ、作るの大変だったんだぜ?因みに名前は『狂骨刀 浅打ち』だよ。大切に使えよ」


叶は刀を見て狼狽する。

無理もない、その刀は重ねと呼ばれる部分が背骨でできていたのだから。

あれは『Monster Hand Live』で初期に作れる刀の武器、『狂骨刀 浅打ち』だ。材料にヴェロルの背骨を使って作った武器で見た目以上にかなりの耐久度がある武器だ。

弓ももちろん『Monster Hand Live』で初期から作れる武器である『狂骨弓 始』、こちらはしなりの良い木をヴェロルの骨や皮で作った部品を取り付けてモンスターの血で作った特製コーティング剤を塗って武器にした短弓だ。

どちらも俺がキチンと狩りで使ってから修理したのを渡すため武器として使えるのは間違いない。

そして叶のジョブである『侍』は侍が実際に使った武器である『刀』『槍』『薙刀』『弓』などを使う際に補正がかかるジョブだ。

だから俺以上に使いこなせるだろう。


「…いいなこれ。初めて触ったのに、前から持っているみたいに手に馴染むわ」


「へぇ…見た目はアレだけどかなりしっくりきているみたいだね」


叶はそう呟くと刀を鞘に納め、。桜はその行動に優しい表情を浮かべて俺は口角を上げる。一応、武器が壊れた際のギルドが決めたルールがあり、その場合は誰かに借りるのはOKだがダンジョンから出る際に返却する事になっている。もし持ち主が死亡している場合はそのまま持ち帰って一度ギルドに預けるのがルールだ。その後、ギルドからその武器を買取りとかの複雑なルールが存在するがこの場では意味がないので割愛する。

そして叶は次に短弓を持ち、色々確認している。俺はそれを見てから中庭に向かって歩き出す。


「二人とも、叶の武器の確認ができたら外に出てきてくれ。最後の疑問に答えるから」


俺はそういながら振り向かずにそのまま中庭に出て、そこに置いてあった布が被った物の布を外す。

そして頭に装備していたゴーグルを目に着けた。


(…まさか、これに乗る時が来るとはな…)


俺は布を外して現れた物を見てそう思う。

『テラフォーマー 《美しくも残酷なこの惑星で》』は惑星開発がテーマのゲームで、「ワイヤーガン」によるワイヤーアクションでおこなう三次元戦闘とエネルギーを使わないギミック武器が売りで子供人気が高い作品だが他にも人気な要素がある、それが移動手段になる乗り物だ。

ゲーム内の乗り物は自分て作成する事になる為かなりの数があり、今回作った乗り物はその中でもかなりの人気がある乗り物だ。


(…ま、コレを作ったから今回の防具を作ったんだがな…)


そして俺は自分が着ている防具を見る、この防具は『テラフォーマー』の初期装備の『開拓者の作業着』だ。実はかなりのお気に入りの装備でデザインも俺好みの防具だ。ぶっちゃけ今後装備とかの製作の際はこれを着ようと考えているくらいの快適性がある、無論防御力もきちんとある為実に優秀な装備だ。


「…えぇ…俺は今日何度顎を外せばいいんだよ…」


「…そうだね、オレもそうなっているよ…」


俺がそう考えているといつの間にか叶達が建物の入り口で口を開けて唖然としていて、後ろのドローンはもはやお家芸みたいにコメントがまた早く流れている。


「おう、きたか」


俺はそう言いながら乗り物の運転席に置いてあった半帽ヘルメットを取り出して装備して、乗り物の『履帯』にもたれ掛かる。


「とりあえず、出発は15分後を予定しているから装備の最終確認してくれよ?『これで移動中は俺は戦闘できないからな』」


俺がそう言うと、二人はその場から乗り物に向かって歩いてくる。恐らく乗り物を確認たいのだろう。それはそう理解すると後ろの『荷台』に二人を誘導して色々と設備の説明を始めた。


(…さあ、15分後が今日の山場だ。気を引き締めて行こう)


そして、俺は二人が俺の説明を聞いているのを確認しつつそう思った。



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