第83話

~~  side 佐藤 渉 ~~




「嘘…何で?…あり得ない!?」


東京スカイツリー下のゲートにいたギルド職員に書類を渡して、最後の確認をとってもらっていたら遅れてしまった。

まあ書類が書類だけに最終確認は仕方がない事だが、流石に叶や桜に申し訳なくなってしまったのは事実…なんだが…


(いや、遅刻したのは悪いと思うが何だこの状況は?)


俺の斜め前には二年前に銀座駅前ダンジョンで見たことがあるモーニングスターを持っていてムンクの叫びの様な形になっている女性にその女性の周りを全身フルプレートの2人がオロオロしている。

後ろには自慢げな表情の桜に声を殺して笑っている叶、そして俺達のやり取りをすこし離れた位置で見ている人だかり。

そして目の前にある両方のドローンに付けられているスマホには早く流れる川みたいにコメントが流れている。

何だこのカオスは?


「…っやば、マジで最高。やっぱお前は面白いわ」


俺が周りの状況に困惑していると叶が笑い終わったのか笑顔で背中を叩いてきた。


「痛いよ叶、流石に鎧を着て叩くのは痛いって」


俺が苦笑いで叶にそう言うと、ムンク状態から動き出した女性がこちらを指さしてきた。


「あ…あの、そちらのお二人とは…どういうご関係で?」


彼女はなんか絞り出すように俺たちの関係を問いただしてきた。


「いや、叶は数少ない友達で桜は俺の方が今回の協力を申し出たんだけど?」


俺がそう言うと彼女は今度は土下座みたいに四つん這いになり何かぶつぶつ言っている。


「ありえない…私の…憧れの…そんな…」


「…あ、そうゆう」


彼女が何かを呟いているのを聞いた叶が俺の耳元で小さく何かを言ってきた。


「…おい、彼女になんか言ってやれ。それが最適解だから…」


いや、何が最適解なのか分からなかったが叶がそう言うのであれば恐らくそうなのだろう。ならばどう話せばいいのか…あ。


「すまん、そのモーニングスターを見せてもらってもいいか?」


俺がそう言うと彼女はほんの一瞬で正座になり両手でモーニングスターを差し出してきた…いや、『鷹の目』で強化された動体視力で追えなかったってどんなスピードだよ。

しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。俺はその武器を見るために膝立ちになり気になっていた所を見た。


「…いい武器だな、手入れもしっかりしているし武器自体もかなり使い込まれている」


「あ、ありがとうございましゅぅ」


俺が武器をほめると彼女は笑顔で変な返しをしてきた。

事実、このモーニングスターはかなり使い込まれている、それは鎖の摩耗具合やモーニングスター全体のトゲを見てハッキリと分かる。

しかもかなり丁寧に手入れされているし、よく見れば補修の跡もかなりある。


「こんなにもこの武器に愛着を持って使いもんでいるんだ、この武器も本望だろうよ」


「はっはい!」


俺のセリフに今だ正座ではっきりと答える彼女、俺もこんなにも使い込まれている武器を見るのが久しぶりなので少し興奮している。だからだろうか…


「だが、鎖の一部にヒビが入っている。これでは振り回している時に壊れるぞ?」


「ええ!?…ほ、本当だ…」


俺の指摘に急いで鎖の全体を見た彼女、そしてその鎖にあるヒビを見つけ結構落ち込んでしまっている。


「まあ、早めに直しておくのをお勧めするよ…あと」


俺はそう言うと立ち上がり彼女に背を向けて、


「俺は武器を大切に取り扱う人は尊敬するんだ。だから君の事は心から尊敬するよ、だからこれからも武器を大切にして無理せず頑張ってね」


「…」


そう言った。

その後、ドサッと何かが落ちる音が聞こえたが俺は何も考えずに叶達の元に戻る。するとまた叶はにやにやしているし、桜は若干不満顔だしでこちらもこちらでカオスな展開だった。


「…取り敢えず叶、説明プリーズ」


「いや、世の中には変なファンがいるって事だよ」


にやにやしている叶の言葉に何か引っかかるが、今はそれどころではない。


「桜、すまないが時間が無い。直ぐに行かないと中層に行く頃には夜になるぞ?」


「…わかった。この事は今度追及するね」


桜はそう言うと、顔を普通の時の顔に戻した。

何かヤバい事がのちに起こりそうな予感がするが、今はマジで時間が無い。できれば今日中に中層に行きたいのだから。


「んじゃ、そうと決まれば行きますか!」


「いや、何で叶が仕切ってるの?」


「ふふ…」


何故か叶が仕切りだしたので俺がツッコむと、今度は桜が声を殺して笑い出した。そして俺達はそのまま撮影用ドローンを引き連れてダンジョンの入り口に向かって歩いていった。





~~ 同時刻 東京スカイツリー展望デッキ内ダンジョン 浅層 ~~




何時もの浮遊感にまた目を閉じた状態の俺はゆっくりと目を開ける。そして広がるのは広大で岩や何かの遺跡の破片が刺さっていてかなり荒れている草原が目に入った。


「…うし、情報通りだな」


「皆、見てくれ。これが東京スカイツリーのダンジョンの浅層だ」


「うお、かなり荒れてんな。みんなもそう思うだろ?」


俺がそう言うと残りの二人はダンジョン配信者のスイッチが入ったのかキチンと配信をし始めた。

そしてこの階層の情報はあのノートに書かれている事に全て一致している、つまりこれから向かうのは…


(ここから14㎞くらい先のちょっとした洞窟にある帰還用ポータルだな…)


俺が記憶している地図によると、アレを使うためにはここから14㎞くらい先にある帰還用ポータルを目指すしかない。


「二人とも、行くぞ」


「うん、分かったよ」


「こちらも準備万端!」


俺が炭鉱夫の鎮魂歌を構えると叶は刀を抜き、桜は背中にマウントしていた短槍を片手に1本ずつ持つ。

そしてお互い準備ができているのを確認すると、俺達はその場から動き出したのだった。













~~~~~~~~~~~~~~


こんにちは、作者です。この作品をここまで見ていただきありがとうございます。

ようやく前半を全て書き終わり中盤であるダンジョン編に突入することができました。お持たせしてしまい申し訳ありません。

取り敢えずようやくメインヒロインであるオレっ子の桜が登場し、パーティでのダンジョン攻略が始まりますので頑張って話を書きますので応援よろしくお願いします。

そしてここまで大量の応援や作品に対する★のレビュー、そして数多くのコメントや作品に対するおすすめレビューコメントをいただき誠に感謝しています!

これからもこの作品を頑張って書いていくので気長に待っていてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る