第81話
「…んで、アレの使い心地はどうだった?」
俺がそう言うと鞄に渡した物をしまっている手が止まった。
「…正直怖かったね、でも慣れれば何とかなるから大丈夫だよ」
そして此方を向いて笑顔でそう言った。しかし、鞄に入れていた手が震えている。
確かにアレは怖い、だがあれは今の桜に必要な物だし仕様だから仕方がないがやはり怖かったのだろう。
俺がそう思い、桜の頭に手を乗せる。
「え?」
俺の行動に桜はポカンとした顔になった。
「すまん、確かにアレは怖かったな。俺が慣れ過ぎて忘れていた、だから…」
俺はそう言いながら頭を撫で始める。
「変に意地を張るな。俺に何か言いたい事があるなら言ってくれ」
そして笑顔でそう言うと桜は顔を赤くしながら少し笑顔になった。
「……ズルイヨ……」
「何が?」
「ずるいよ、こんなの甘えちゃうじゃん」
彼女はそう言いながら気持ちよさそうに目をつむり、撫でられ始めた。
(…いや、犬かよ)
俺はその姿を見てそう思いながら撫で続けた。
~~ しばらくして ~~
「…それじゃ、頼んだ物は作れそう?」
「問題ない、それくらいなら明日には作れる。また明日にダンジョンに入る申請を出しに行く際に最終確認をしてくれればいいよ」
「うん、頼もしいね」
俺達はあの後必要な話をし終わり、お互いカラオケ店から出た。すると店の前にハザードを付けた車があり、中には運転手と桜の兄さんである正さんがいたので迎えが来たのだと分かった。
「それじゃ、また明日」
「おう、期待してまってな」
俺がそう言うと彼女は笑顔になり車に乗った。そして俺は車が発信したのを見届けるとそのまま駅に向かって歩きだす。
(桜のお願いは『執事っぽく動きやすい防具』に『使いやすい短槍2本』、まあ防具はスリーサイズを紙に書いてもらったから『people's redemption』にある物を作ればいい。武器は当然『Monster Hand Live』でつく…いや、待てよ…)
俺はそう思いながら考えをまとめる。そしていい事を思いついた。
「どうせ桜と叶は今回の攻略を配信するんだ。ならただ堅いだけでは面白くないよな…」
俺はそう言いながら口角を上げる。そして俺は頭である武器を思い浮かべた。
「楽しく行こう。攻略する俺らも、配信を見ている視聴者もな」
そう言いながら俺は駅に着き、荒川には向かわずにかっぱ橋道具街に向かって進み始める。
「さて、材料と道具を調達しに行きますか」
その日、一人で何店舗も回り合計2800万くらい使った。これは必要な事なので別にいいが何故か店側の人に爆買いを怪しんた目で見られた。何故だ?
~~ 次の日 銀座駅内ダンジョン ~~
「ねえ?」
「何だ、何か調整ミスったか?」
「やり過ぎ」
俺は桜に装備を渡して、ダンジョンで試してもらったら何故か怒られた、誠に遺憾である。
~~ 8月 3日 朝 AM 5時30分 佐藤家 リビング ~~
「…おはよう、父さん」
「ああ、おはよう」
俺が自室から出ると先に起きていた父さんが朝食を作っていてくれた。
目玉焼きにトースト、サラダにジャム入りヨーグルトが机の上に置いてあるのを見て俺は笑顔になる。
「旨そうだね、いただきます」
俺は急いで机に座り机の食パンに齧り付きながら父さんを見る。
「…ズズッ…」
父さんは今、新設された量産型回復薬αや回復薬βなどを専門に研究する部署の部長をやっている。毎日忙しそうだか以前みたいに遅く帰ってくることは無く、目にクマもない。
故に今もこうしてコーヒを飲みながら何かの資料を見ていた。
「…渉、これを」
俺がそう思っていたら父さんがいきなり資料を机に置くと俺にアルミ製で迷彩色の箱を差し出した。
俺はトーストを口に咥えながらそれを受け取り、蓋を開ける。すると中には針無し注射器が開けた蓋に6本、中身に6本で間に緩衝材代わりなのか仕様用途が書かれた紙が折りたたまれて入っていた。
「それが先行生産された自衛隊員用の正規品だ。現在軍医と衛生兵が使う仕様を開発する為に我が社とギルド、自衛隊で協力して使い捨てからカートリッジ式に変える方向で動いているが、取り敢えず販売するのは今はその使い捨ての方を採用している。
因みに今回の価格は一本100万円だ、お前の口座から引いといたから後で確認しろよ」
「…」
1本が100万なら12本で1200万か…うん、この前の買い物より安いからいい買い物だと思おう。
俺はそれを受け取ると急いでトーストを食べて、他の奴も素早く食べ始める。その姿を見て父さんは微笑んだ顔を見せてきた。
「ハハ…この姿を見たら普通の中学3年生なんだがな…」
父さんはそう言いながら俺を見る、そのまなざしはとても優しかった。
「もう俺はお前を止めはしない、やりたいようにやってみなさい。そして…」
そう言うと父さんは立ち上がり、俺の隣に来た。
「キチンと帰ってきなさい。俺にできる事はお前を治す薬を作る事くらいなんだ、絶対にダンジョンで慢心したらダメだぞ?」
そう言いながら肩を叩く父さん。多分、これが父さんなりの激励なのだろうと俺は思った。
(…大丈夫だよ、父さん。俺はもう慢心はしない、必ず帰って来るさ)
俺はそう思いながら最後のヨーグルトを食べる。
これで俺は死ねない理由がもう一つ増えた事になる。ならば、絶対に生きて帰ってくるしかない。俺は心にそう言い聞かせつつヨーグルトが気管支に入ってむせてしまった。
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