第77話

〜〜 6月21日 秋葉原 裏通り 喫茶店『月の兎』 〜〜


「…はい、こちらが注文のレモネード二つと特製パンケーキ、アイスクリーム乗せワッフルだよ♪」


「やった。オレ、パンケーキ大好きなんだ!」


「まあ、ここのはパンケーキ以外のメニューも全部美味いからな。色々と食べてみるといいよ。…ありがとうございます、アンジーさん」


「いえいえ、ごゆっくり〜♪」


空中に浮かせた商品を机に置くと、スイーッとエレベーターみたいに上に上がって天井に潜っていったアンジーさん。

あれから3週間、世界は未だ混乱している。


「あ、そう言えば見たかい、今日の朝のニュース?」


「ああ、『新薬発表から僅か10日足らずで国連の緊急会議で回復薬αの輸入に対しての規約が制定。今秋にでも日本から国連参加国に輸出をする事に』って奴だろ?

全く、発表してから規約を作るするのに10日とはビックリしたよ」


「それほど安定供給できるポーションの代用品を手に入れたいって事だね。

こっちも予想を遥かに上回る需要に嬉しい悲鳴がとまらないって兄さん達は喜んでたよ」


そう言うとハムッと切り分けたパンケーキを食べて幸せそうな顔になる桜を見て俺はワッフルを食べ始める。

あの日、一応警察に不法投棄の回収の件で頭を下げてから色々と話し合い、契約書にサインをした。

警察に関してはギルドが話をつけてくれた為、その場で1時間くらいの説教&今まで回収した場所を全て教える事で手打ちにしてもらった。

マジで捕まる一歩手前までいったのにはビックリした、やっぱり不法投棄されているとはいえモンスターの血を勝手に回収したのはヤバかったらしい。その点に関してはギルドには感謝している。

その後、警察の件が終わって直ぐに月神製薬にて緊急会議が開かれた。

会議は日を跨ぐほど綿密に行う事数日、何日も続いたが無事にオレを含めた全ての人の署名にて終了し、少し休憩してから薬の生産体制を整えた。

そして全てが整い11日前に無事、記者会見にて量産型回復薬αの販売を宣言した。

案の定その会見でこの薬の開発経緯を聞かれたので、

『俺が最初に薬のレシピを見つけて』、

『月神製薬がそのレシピを俺から条件付き教えてもらい』、

『ギルドが全面協力で生産を支える形で量産に成功した』と言う感じに会議で話し合っていたのでそれをそのまま話した。

そして今回販売する味は、麦茶味とブラックコーヒー味、リンゴジュース味の三種類で3回分の量が入った1瓶を一律35万で全国のギルド系の建物や施設にて販売される。

最初は全員半信半疑だったが、量産型回復薬αをネタにしようとした動画や実際にこの薬で助かった話が続々と上がり、今では購入制限を設けてるため何とか全国的に品薄状態で収まっているらしい。

そして、この薬が本物である事は瞬く間に広がり、わずか10日でこんな感じになってしまったと言う事だ。


(まあ、今回の件で俺が一番大変な事になったんだがな…)


現在、国とギルドが量産型回復薬αの新しい製造工場を作る際の土地の問題でかなり慎重になっている。

まあ、それは雇用の問題とか色々な事が重なっているから仕方がないが、問題は俺の周りの変化だ。

現状、量産型回復薬αのレシピを知っているのはギルドと月神製薬と俺だけ。

故にまた迷惑系配信者や今度は色んな企業の人達から共同開発という体での技術提供の申し出がくるようになってしまったのだ。

今回の会見で俺の名前を出した際に薬のレシピは国連が決めた俺に対する法律に則り、俺が死んだらレシピを時間をかけて公開すると同時に月神製薬が契約に従いそのレシピの特許を申請する旨が発言されている。

だからこそ今回の件の様に俺に設計図やレシピを提供してもらい、自社で製作して販売したいと思う企業が出てきてしまった。

一応、ギルド等にこの件は話しているので何かしら対処が入ると思うが後何日かかるかわからない。

しかし、そんな中で俺は桜と喫茶店に軽食を食べにきているのは何故か?それは簡単、


『む!?貴様、懐に録音中のボイスレコーダーとカバンに録画している隠しカメラがあるな!

貴様の筋肉が叫んでいる、貴様は盗撮で稼ぐつもりだと!』ビシッ


『何だこの筋肉ダルマ!?そして何でばれたんだよ!?』


『無断で店内を撮影するのは私達の店に対する迷惑行為、ましてや今いるお客様を盗撮して迷惑をかけようとするのは許せん!、マイワイフ!!』バシッ


『はーい、今回はお金はいらないので強制浮遊で退店&出禁のダブルコンボだね♪』


『ちょっま!?』


この店がどの場所よりも安全だからだ。

田中さん夫婦にかかればどんな迷惑行為もする前に直ぐに対応してくれる。

田中さんの筋肉の会話による読心術とアンジーさんの超能力の前ではどんな相手も考えがよまれ、無傷で無力化してしまうのだ。

故にここで食事や話し合いをするのに適している、俺の憩いの場なのだ。


「パンケーキもレモネードも美味しいし店員さんの対応もすごい、ここは良い所だね」


アンディさんに強制的に浮かされている男性を見ながら笑顔で言う桜。

しかし、今日俺達がここに来たのはおやつを食べに来た訳ではない。キチンとした理由があるのだ。


「そうだな、相変わらずすごい対応の仕方だな」


俺は男がゆっくりと運ばれて行くのを見つつワッフルを食べる。

別に話し合い話し合いは食べてからでも大丈夫だ、だから今はこのワッフルの味を堪能する事にしたのだった。




〜〜 しばらくして 〜〜




「うん。美味しかった…あ、食後のコーヒーは冷たい奴で良いよね?」


「ああ、それでいいよ。ありがとう」


「OK、すみませーん」


「はーい♪」


天井から逆さに出てきたアンジーさんに黙々と食後のコーヒーを注文する桜、そして注文し終わりアンディさんが今度はそのまま床に潜っていったのを確認すると、持ってきていたカバンから『ノート』と『アルミ製の筆箱の様なもの』を取り出した。


「はい、このノートが例の兄さんの奴でこっちが…」


彼女はノートを右手に持ち、左手でアルミ製の箱を渡してくる。

そして俺はそれを受け取り、箱を開けた。


「ほんと、残念だったね。コレを作れなくって」


「仕方がないだろ?注射器の製造をギルドに止められたんだから」


その中には透明な液体が入ったボールペンみたいな物があり、開けた蓋の内側には『回復薬β(試作品)』と書かれていた。

そう、実はギルドの命令で今後回復薬βを月神製薬に有料で作ってもらう事になってしまったのだ。



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