第75話

「…君は馬鹿なの?」


そして何故か桜に馬鹿と言われてしまった。


「…かもな、これは俺の秘蔵している物の中でもヤバい品物だからな」


しかし、俺はそれを否定しない。

前にも言ったがこれはマジで今のポーション市場に喧嘩を売る品物だ、しかし今それを解決案として提示しているのだ。


「なら、なおさ…


「だが、これのダウングレード版があるとしたら?」


…え?」


俺の言葉に彼女は言おうとした言葉をひっこめる。

そしてダウングレードとはつまり今の性能から性能を下げた状態、悪く言うなら格下げや悪化を意味する言葉だ。


「ああ、勘違いするなよ?ダウングレードした奴でも傷の回復能力だけは変わらない。変わるのは骨が治るのが無くなるのと味が変わるだけだ。しかも味は炭酸飲料とお酒以外は再現可能だから味のバリエーションの幅が広いよ。

そしてダウングレード版は材料も少なくて済むし1度に大量に作れる。正に大量生産に向いた薬なのさ」


ダウングレード版の回復薬αは味が麦茶以外に変更可能だ。しかしどうやってもアルコールと炭酸水とは相性が悪いらしくそれらだけは再現できなかった。

しかもダウングレード版は何とか傷の回復は元の薬と同じ回復量にしたが、代わりに骨の回復が無くなってしまった。

故に人体総変異には使えない失敗作として俺はレシピを死蔵するつもりだった。

しかし、今回そのレシピが必要になる時が来たのだ。そしてこれを大量生産する必要があるのだがこれは元の薬より生産しやすく量もできる。例えるなら普通の回復薬αならモンスターの血に数種類の漢方を使い4時間作り続けたらで約20ℓの量を作れるのに対して、ダウングレード版は3種類の漢方+好きな味の元となる物を入れて同じく4時間作り続けたら約55ℓの量が作れる。

同じ製作時間に対して作れる量の差は約2.5倍、更に材料も約半分くらいで作れる。これなら市場にも品切れが起きにくいと思うし材料費も抑えられる。味も変え放題だから色んな味で作れるため飽きがない。

正に最適解だと思う。


「…」


そして俺はそれを彼女に詳しく説明した。そして彼女は黙ってしまった。

しかし、俺はまだ言いたいことはある。


「確かに、これは画期的な薬だがギルド以外に卸すとヤバい事になる。だからギルドを問屋代わりに使う必要があるからその辺はそちらの交渉次第だな」


この薬はギルド以外に卸すのはギルドが作った市場を破壊しかねない行為だ。だからギルドと交渉して販売するしかない。そこら辺の取り決めとかの交渉はぶっちゃけ俺はできない、会社とギルドで決めてくれってくらいしか言えない。


「…ねえ、一つ確認させて。売り上げの際に君の取り分はどの位になるのかな?」


そして俺の話を全部聞いた桜はこう言ってきた。


「…取り分はいらない。代わりに、俺に月神製薬から高級な物を含めた全ての漢方を買う権利が欲しい。」


「それは新しい薬を作るため?」


「…ああ、間違いない」


しかし、俺は取り分に付いて話すと桜はまた俯いてしまった。確かにオレは今回復薬βを作るために冬虫夏草が必要だ。故にこの件で安全な入手経路の構築をしたいのも事実、何も間違ってはいない。


「…教えて?」


「何が?」


そして俯いていた彼女がぼそぼそとそう言い、俺が反応する。


「その条件だと、君にあまりにもメリットが無い。なのに何故そんな見返りを求めないの?」


そして彼女の言葉に俺は疑問に思ってしまった。


「いや、これでいいんだよ。

だって俺は桜の夢を手伝いたい、そして立ちはだかる問題に対して最適解を偶然持っていた。ならそれを使って俺は桜の夢を阻む問題をぶち壊すだけだ。だって…」


そして俺はそう言いながら俯いた桜の頬に両手を合わせて、俺の顔の正面を見えるように動かした。そして彼女の顔は今にも泣きそうな顔になっていたが、俺はハッキリと言う。


「知ってるか、夢は叶えるためにあるんだぜ?」


「!」


俺がそう言うと桜は俺に抱き着いて声を押し殺して泣き始めた。そして俺は、


(おおおおおぱぱぱぱぱぱああああああああああ!!!!!!!!!!??????????)


抱き着いているため上半身にあたっている柔らかい2つの物に頭がショートしかけていた。


~~~~~~


「…ありがとう……って、大丈夫?」


「気にするでない、現在余の中で般若心経を三回ほどループ再生していただけで候」


「うん、大丈夫ではないね」


しばらく時間が経った。そして泣き止んで離れた桜にめちゃくちゃ失礼な事を言われた気がするが、気にしない方向でいこう。俺の理性が持たない。


「…とりあえず、俺の案で行くのでOK?」


取り敢えず、俺は自分の案で行くのかを聞かねばならない。これ次第では他の案を考えなければならないからだ。


「OKも何も、実際に決めるのは父さんと兄さんだからオレからは何とも言えないよ」


桜の言葉に俺は『確かに』と思ってしまった。


「…でもね、4日後に報告会があるからそこでこの薬について話し合う機会は確実に作れるよ。だから薬のレシピとかの必要な準備をそれまでに出来るかい?」


そういう彼女の顔にはもう迷いは無い、覚悟を決めた顔になっていた。


「OK、準備しよう」


俺がそう言うと彼女は笑顔になり立ち上がる。そして自分のスマホを取り出して電源をいれた。

そして電源が入ったのを確認すると何処かに電話をかけ始める。


「…あ、もしもし父さん?…うん、だいじ…」


恐らく桜の電話先は自分の父親なのだろう、ならば彼女の迎えが来るのは明白。


(さて、薬の成分とかの書類の作成は初めてだからどうすればいいか分からん。今のうちにスマホで調べておくか…)


そして俺は彼女が電話している中で、調べ物を開始したのだった。





~~ 5月 31日 月神製薬 会議室B ~~




「この、愛おしいバカ息子が!!」


「いや、愛しているのか馬鹿にしているのかどっイダダダダダダダダダ!?」


俺はギルドの職員を含めた人達の前で、白衣を着た目にくまがある父さんに俺の頭へアイアンクローをかまされていた。









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