第74話

「…うん、ようやく整理できた」


あれから五分くらい唸っていたが、なんとか整理できたのだろう。まだ顔は渋いが顔を上げこちらを見た。


「ハァ…今日初めて会った人に助けられてたと思ったらそれが会社の重大プロジェクトのチームリーダーの息子さんで、更にその息子さんは世界屈指の偉業持ちってどれだけ偶然が重なってるんだろうね?」


「確かに、あ…


「桜でいいよ」


…わかった。確かに、桜はどれだけ偶然が重なってるんだと俺でも思うわ」


彼女の願いで名前呼びをする俺、マジでこの出会いは最初から仕組まれたと言えば納得できるレベルの偶然だ。

だが、俺はこの出会いに感謝している。


「桜、お前の夢に一枚噛ませてもらってもいいか?」


「…え?」


俺の突然の言葉に彼女は困惑する。


「取り敢えず、夢を叶えるなら今の状況を何とかするのが先だな。なら…


「ちっちょっと待って!?」


…どうした、桜?」


俺が現状の打開策を考え始めた時に、桜が慌てた声を上げて考えるのを止めてきた。


「どうして、君がオレの夢を叶えるために今の現状をどうにかしようとしてるの!?オレ達、今日会ったばかりだよね!?」


桜の言い分はもっともだ。俺達は今日が初対面で、そんな状況なのに夢を叶えるのを手伝うとかホストでも言わない言葉だ。


「…桜、良く聞け」


しかし、今のオレは本気だ。故に今度は俺の本音を言おう。


「俺は自分の夢に全力な奴が好きだ」


俺の言葉に、桜はポカンとした顔になる。そして俺はそんな桜に畳み掛けるように本音を言う。


「俺は今、全力で自分の夢に向かって爆進中だ。

だからこそ夢を叶えたい奴の気持ちも理解できるし叶えるのを手伝いたいとも思っている。

けど、俺にだって踏み込んではいけないラインもあるのはキチンと理解できている、故に最初はこの件は余り手伝えないと思っていたんだ」


「なら、どうし…


「でも、この件に父さんが関わっているなら話は別だ」


…え?」


俺の言葉に桜は更に唖然としている。


「『父さんの危機を助ける』、この大義名分があればその会社の件に関われる。

そして俺はその件に最適解となる物を持っている」


「な!、本当かい!?」


俺がそう言うと桜は俺の肩を掴んで椅子から立ち上がった。


「ああ、間違いなく桜の会社は傾かない。寧ろ今後の売り上げが更に上がるのを確約できる品物をだ」


「…それを、どう信じればいいんだい?」


肩を掴む桜の顔が一瞬で渋くなる。恐らくだがまだ信じてはいないのだろう。


「…わかった、論より証拠だ。スグに見せるよ」


俺はそう言うと学生カバンからもしもの時用に忍ばせていたスキットルを取り出す。


「…未成年なのにお酒でも飲むのかい?それとも唯のカッコつけなの?」


桜は肩を掴んでいた手を放して呆れた表情になり、そう言い出す。『揶揄われている』、そう思ったのだろう。

しかし、俺は無言で台所に行きガラスのコップ準備して包丁も用意した。

そして、俺はガラスのコップにスキットルの中身を半分出す。


「…やっぱり、オレを揶揄ったんだね」


茶色の液体を見て、お茶だと確信したのだろう。彼女は怒りの表情を浮かべる。

しかし俺はそれには答えず…


「えい」


ズシャッ


包丁で手のひらを何の躊躇も無く切った。


「…え?」


血が出てきて、俺の手から垂れてリビングの床に落ちる。


「ちょっ…な、何をやってるんだ!?」


桜はそう言いながら急いで俺の血を止めようと急いで近づいてくる。そして彼女が切った手を掴んだのを確認した俺は、反対の手でコップを持ち中の液体を飲み始めた。


グビッ…グビッ…


バキバキバキバキ…


シュー…


「…」


液体を飲み始めると、初めに体中から骨が動いているような軽い音が聞こえ、次に手の傷が煙を上げながらどんどん治っていく。

桜はその光景をただただ真顔で見ている。


「…ほれ、飲んでみな?」


そして完全に傷が治ったのを確認してから彼女にまだ液体が残っているスキットルを治った手で指を指して俺は言った。


「…まさか」


そして桜はすこし狼狽えながらスキットルを手に取り、飲み始めた。


…ンッ…ンッ…


バキバキバキバキ…


そして飲み始めた彼女の体からオレと同じ軽い音が聞こえ、音が聞こえなくなっれからスキットルから口を放すと桜は体を動かしながら何かを確認していた。


「体が…軽い…!?」


「そら、今までの骨のズレが治って疲れも治ったら体は軽くなるよな」


桜は驚愕した顔にで言い、俺はうんうんと頷きながらそう言った。


「…ねえ、教えて」


彼女はそう言いながら震える手でさっきまで飲んでいたスキットルを指を刺した。


「これは…何?」


そして絞り出すように声を出す。そして俺は笑顔になり、


「ああ、これが俺が言った最適解の品物。自作できるポーション、回復薬αだ」


そう言った。


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