第73話

異母兄弟、確か父親が同じで母親だけが違う兄弟の意味だった筈だ。


「あ、因みにオレの父さんは離婚とかしてないよ。ずっと母さん一筋だから」


「いや、余計にわからなくなったんだが!?」


更なる問題に頭が痛くなる。そもそも…


「異母兄弟なら父親とは血が繋がってんだろ?何で血が繋がってないんだよ?」


そう、異母兄弟なら父親とは血が繋がっている筈だ。そして母親一筋なら尚更異母兄弟になる可能性はない。


「はは、ごもっとも。…でもね、そういう事になる方法で真司兄さんは生まれたんだ」


「意味がわからない…」


もはや、頭が混乱してきた。


「『代理母』って聞いたことはない?」


「『代理母』?」


そして俺は代理母の事を教えてもらった。


「真司兄さんは確かにオレの両親の愛で生まれたし血を引いているのかも知れない、でも兄さんは生まれた腹が違うんだ」


「腹が…違う?」


詳しく聞くと、真司さんを妊娠した際に母親が病気で倒れて危うくそのまま死産の危機だったらしい。

そんな時に代わりに受精卵を受け取って妊娠する人を代理母というらしい。


「法律上、代理母を使った子はオレ達の両親とは血のつながりは無いと定められていてね、しかも実際に血液型も違うんだ。オレと母さんはA型で長男と父がB型、しかし次兄の真司兄さんは代理母と同じO型なんだ」


代理母は死産を避ける両親がとる最後の手段として使われることが多いらしい。

しかし妊娠の際に代理母のDNAが入る可能性が高く、それが原因で血液型やDNA情報が違う可能性が高いらしい。


「だけど、オレ達家族には血なんて関係なかった…家族だったんだ…!」


そういう彼女の顔が暗くなっていった。


「でも、そのせいで兄さんは…兄さんは…!」


そんな彼女がぼそぼそと言った。

次兄は高校卒業後、


「自分は代理母の子だから会社を継ぐのは長男でいい、だから会社の新薬の為のダンジョンの素材調達を俺に任してくれ」


と家族に言い、そのまま家族はしぶしぶ了承した。

しかし、それは会社内の長男の社長就任を反対していた他の人達にチャンスを与えてしまった。

数年がたったある日、次兄は遠出して秋田の某ダンジョンに素材調達に出かけた。しかし…


「真司兄さんはそこでトレイン行為にあったんだ」


トレイン行為、オンラインゲームでもあるが要は自分に殺意を向けたモンスターを全く別の人に押し付ける行為だ。そしてその行為はこの世界では重罪レベルの犯罪にあたる行為だ。


「トレイン行為を指示したのは長男の次に社長候補と言われていた重役だったんだ。そいつが半グレの下っ端に金を握らして指示したんだよ、動機は長男に対する嫌がらせだったらしいよ」


偶然その場面をたくさんの配信カメラや配信用ドローンがとらえていて事件が発覚したが、次兄は助けが間に合わずモンスターに殺されたらしい。

そして事件は配信の映像が決め手となり犯人逮捕、その後の調査によって指示した重役以下今回関わった人物全てが捕まり、全員死刑で幕を閉じたらしい。


「でもね、オレは兄さんの葬式の後に知ったんだ。真司兄さんが本当にやりたかった事を」


しかし葬式などが全て終わり、彼女が次兄の事を何とか割り切ろうとしていた時。

ふと次兄の部屋に入って掃除をしていたら、本棚の下に2冊のノートが隠すように底の方にマジックテープで張り付いていたのを見つけた。

そしてそのノートには…


「そのうちの1冊には、あるダンジョンの地図と出てくるモンスターの詳細が書かれていた。浅層から深層までの全てモンスターの情報やのポータルの位置だけではなく、深層から禁層に行く為のポータルまでの帰還用ポータルの位置もね」


「…マジかよ」


「うん、そしてもう一冊は日記だった」


まさかの内容にオレは驚愕するが、彼女は話を続けた。


「日記には色々書かれていたけど、要約するとね


『俺がダンジョンを攻略すれば最終的には会社全体のイメージアップに繋がる。そして血は繋がらなくても俺を無事にこの世に生まれさせてくれた両親に恩返しができる。だからこの計画は秘密裏にしなければならない。サプライズで桜の中学校入学のお祝いに攻略した事実をプレゼントしたいからな!』


って事だったんだ。だからね…」


そして彼女の瞳から光が消えた。


「オレはダンジョン配信者になって真司兄さんのやりたかった事をしたいと思ったんだ。

配信をすれば視聴者がオレを見ている限りダンジョンではモンスター以外オレを妨害できない。そしてそのまま兄さんがやりたかった事を叶えたい、兄さんの最後の夢を叶えたいって思ったんだ!…思っていたんだ…」


大声でそう言っていたが、次第に声が小さくなっていく


「でも、今回それが裏目に出てしまった。オレの行動で更に会社に迷惑をかけてしまった、真司兄さんが守りたかった会社や家族が更に危険な状態になってしまったんだ…」


彼女はそういうと突然泣き出してしまった。


「オレは……どうすればよかったんだ!?…オレはただ……兄さんの夢の為に……オレは…!?」


そして泣きながら「オレは…オレは…」を連呼し続けてしまった。


(…たぶん、俺との会話で自分の中の悩みを全部吐いたんだろう…ああ、夢…か…)


俺は今、とてつもない事を考えてしまっている。

しかし、別に悪い気はしない。

だか、2つほど確認しなければならない事がある。


「泣いてる所すまん、2つほど質問をいいか?」


「…ッ…ッ…、あ…ああ、いいとも。どうぞ」


泣いている彼女に俺がそう言うと彼女は頑張って気持ちを落ち着けたのか俺の質問に答える姿勢を見せてくれた。


「本当にすまんな、まず一つ目だ。あんたは今もそのダンジョンを、兄さんの夢を叶えたいと思っているか?」


俺がそう言うと彼女は徐々に真顔になり目に光を取り戻していく。


「…ああ、叶えたい。オレはその夢を叶えたいさ!」


そういう彼女は本当にいい顔をしていた。それは間違いなく本心からの言葉であるのを俺は理解できた。

そして、俺は頭に引っかかっていたもう一つの事を聞いてみた。


「なら、二つ目だ。『第三製薬開発部 部長 佐藤雄二』この名前に聞き覚えは?」


俺がそう言うと、今度は彼女が驚愕した顔を浮かべた。


「…な…なんで『今の新薬開発計画のチームリーダー』の名前を知っているの!?しかも、所属している部署の名前まで!?」


俺はハァっと息を吐き、今はいない人に向かって、


「最近帰りが遅いと思ったらそういう事かよ、父さん」


愚痴をこぼした。


「…え?…とう…さん?」


俺の言葉に彼女は更に驚愕の顔を浮かべる。

しかし、俺はその事実が発覚した以上、盛大にやらかす覚悟を決めた。

そして俺は自分のスマホを取り出して操作する。


「なあ、この4か月間ニュースとか見た?」


俺がスマホを操作しながら彼女に俺は聞く。


「え…見てないよ。そんな余裕無かったし」


「なら結構」


彼女の言葉に俺はにやける。そして俺は3か月前のネット記事を表示して彼女の前に見えるように置いた。


「…え…ええ!?」


そして彼女は文面を読み、画面に表示されている写真と俺を見比べて更に面白い顔になっていく。

俺はその表情を見て口角を上げた。


「初めてのダンジョン攻略者で、ダンジョンで動く機械と変身道具を製作した!?、しかも人類初めてスキルとジョブを増やした人物が君!?」


「ああ、ついでに言うとあんたの所の佐藤雄二は俺の父さんだ」


「…ハハ…ちょっと待って、少し時間をくれ…」


俺の爆弾発言に彼女は頭を抱えて唸り始めた。

…衝撃が強すぎたかな?







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