第72話

「はは。中々いいリアクションをとるね、君は♪」


彼女はそう言う時片目でウィンクして少し笑った。

ぶっちゃけマジで様になっている、宝塚の役者みたいにかっこいいの中に女性らしさもあってマジで一瞬ドキッとした。


(…あれ、そういえば月神製薬って何処かで聞いた事があるような…)


そして彼女の話に出てきた会社名に引っかかりを覚えた。


「ごめん、言葉だけだと少し説明が難しいからスマホを貸してもらえると助かるんだけどいいかい?」


しかし、俺が考えだそうとしたら彼女は自分の電源を切ったスマホをこちらに向けて話しかけきた。

確かに、今彼女のスマホの電源を入れるのは色々とヤバい。なら、貸すのが一番だろう。


「ほい、どうぞ」


「ありがとう」


彼女にロックを外したスマホを渡す。そして彼女

はお礼を言いながらスマホを操作してネットで何かを検索し始めた。


「…あった。コレが今回の縁談騒動の発端だ」


そう言う彼女の顔は真顔だ。そして彼女はスマホの画面を俺に向けてくる。


「…『月神ch』?」


それはD&Vのチャンネル画面で上に月神chと書かれている。

そしてその画面にあるアイコンは今目の前にいる彼女であり、動画も彼女がホストみたいなスーツ姿で剣を持っている姿が映し出されていた。


「うん、オレはダンジョン配信を去年の夏にはじめてね。嬉しい事に上手く視聴者の心を掴んだみたいで登録者数も1500万人くらいの人気が出ていたんだ…」


確かに、登録者の数字は1554万人になっている。しかし、肝心の動画は丁度四ヶ月前で更新されていない。


「最後の動画、四ヶ月前だろ?その月から縁談相手に付き纏われてそれどころじゃなかったんだ。

実は、今回の縁談相手が配信を始めた頃から運悪く俺の視聴者にいたんだ。

そして一目惚れされてしまってね、親に頼んで今回の騒動に紛れて私の会社の幹部や有力者を何人かを買収して、私たち家族が頑張って対処している間に無理矢理、縁談を組まされてしまったのさ。

そして今日、オレは騙されて車に乗せられその縁談相手の元に連れて行かれる予定だった。

まあ、オレは隙を見つけて逃げたけどね。ほら、さっきオレを追っていた人物がいたろ?、あれがその幹部の1人だよ」


「マジかよ…俺、思いっきり顔面にペットボトル投げちゃったよ…」


「大丈夫、アイツはオレに手を出した。父さんにいえばアイツはもう終わりだから気にしなくて大丈夫だ。

そして、そこから芋ずる式に裏切り者を粛清するはずだよ」


「怖!?」


俺が事の深刻さに絶望していたら更に怖い事を言われて絶句してしまった。


「はは、君には絶対に手を出させない。安心するといいよ」


彼女はそう言うと俺の手を取り、俺のスマホを手の平に乗せて両手でその手を包み込みながら目線を合わせてそう言われた。

多分、このイケメン行動は素でやっているのだろう。計算してやっているのであればマジで怖い所だが、


(マジで優香さんで慣れててよかった!)


しかし、俺はあの暴走系世話焼き年下の優香さんとあの後も結構な頻度で交流してきた。だからこれは素でやっているのは理解できる。


「でも、それだけでは根本的に解決しないんだ」


そして彼女はまた顔を歪ませる。


「父さんは違約金を払い、手打ちにするつもりだ。

しかし額が高い、提示された額はうちの3年分の売り上げに匹敵する。下手に払ったら会社が傾きかねない。

だから今、会社の研究員達が血眼になって新薬を開発して、その為のお金を稼ごうとしている。

オレもそのお手伝いをしたい、だから逃げてでもダンジョンに行って新薬の材料になりそうな物を集めたいんだ。

そうしないと…」


彼女の顔は更に険しくなりまた下を向いた。そして、次の言葉に俺はこの件に本格的に関わる事になる。


「そうしないと、死んだ真司兄さんの夢を叶えてあげらないんだ!」


「!?」


顔をばっとあげてハッキリと俺に向かってそう言う。そして彼女はハッと我に帰ったように悲しそうな顔を浮かべた。


「すまない、強く言いすぎた。この話はこ…



「続けて」



…え?」


「話を、続けて」


彼女が話を強制的に終わらせようとするが、俺はそんなつもりは無い。だからまだ話を聞きたいと思ったのだ。


「…わかった。でも、これはただの愚痴だと思って聞いてね」


「ああ…立ち話も辛くなってきたからそこの椅子に座れよ」


「…」


俺が真顔で彼女をみていたら、彼女が折れた。そして椅子に座ってと言うと大人しく従ってくれた。俺も話を聞くべく冷蔵庫から500mlの麦茶を出して彼女の前に置き、俺は彼女の向かい側に座った。


「飲んでいいよ。未開封の奴だから安心して」


俺がそう言うと彼女は無言でお茶を手に取り、あけて飲み出した。


「ングッ…ングッ…ッ、ありがとう」


彼女はお茶を3分の一程飲むとお礼を言い、また渋い顔になった。


「今から話すことは家族しか知らない事なんだ。だから他人には絶対に言わないで欲しい」


「ああ、了解した」


俺はそう言う。すると彼女の顔が緩まり、今度は懐かしむような表情になった。


「あのね、オレには兄が2人いるんだ。そして死んだのはその2人の兄の中の次兄の方なんだ」


「うん」


「それでね



















実は長男とオレはその次兄とは血が繋がっていないんだよ。真司兄さんとだけ異母兄弟だったんだ」


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