第70話

〜〜 5月 27日 荒神中学校  放課後 〜〜


「…」


俺は今日の授業が全て終わり周りの皆が帰り支度をしている中、周りの視線を気にせず俺は机に伏せていた。


「普通に狩りがしたい…」


「何を悩んでるんだ?『異常(イレギュラー)』さんw?」


俺がそう呟きながら悩んでいると、俺の前の席に叶が座って話しかけきた。


「叶か…いや、誰が『異常』だよ。その名で呼ぶな」


「いや、だってそうだろ。

何処の国にジョブとスキルを増やした人がいるんだよ?

それに武器や防具、バイクや変身道具だって誰もあんな物を作れないって。

妥当な二つ名だと思うぜ、俺はw」


「草をはやすな。後、俺の装備やバイクの事は口にするなよ?警察が飛んでくるぞ?」


「おっと、そうだった」


わざとらしく口に手を当てて黙ろうとする叶に俺はため息をついて目線を合わせた。

『異常(イレギュラー)』は今の俺の通り名である。

理由として、あの神社のダンジョンの後にギルドの人達に後から来た大吾さんと一緒に近くの支部に移動した。

その際に血液などを取られ、精密検査するとまさかの事実が発覚した。

それは新しいスキルとジョブが増えた事。

そこからもはやアリの巣を突っついたみたいに上から下まで大騒ぎ、わずか3日で世界中にこの事が拡散。更に大騒ぎになった。

そして『人類最初のダンジョン攻略者+人類初特殊ダンジョン攻略者』で、『人類で初めてスキルやジョブを増やした人』で、『歴史上初めてダンジョンで動く機械の開発者+変身道具の製作者』の三冠を得た事実、故に俺に誰か言い始めたか分からないが『異常(イレギュラー)』と言われ始めて、現在それが全世界に浸透して今の俺の通称になり、全世界の人が理解できる俺の通り名になってしまったのだ。


「本当に気を付けろよな…」


俺は取り敢えず叶の行動に呆れてしまった。

実は国連が開催した会議にてある事が決定して、そして国連で決まった事を参考に日本が新たに特殊な法律を作り、現在その法律が俺に適応されている。

それは簡単に言うと『俺の製作した物全般の製作要求や情報開示、及び血液などの遺伝子やスキル等の情報請求を禁ずる』と言う物だ。

つまり、俺に対して物を製作するようにお願いすることも、設計図を公開するように言うのも禁止。並びに俺のスキルやジョブに対する情報や遺伝子の情報の公開も禁止するという事だ。

これは俺の人権を守るのが表向きの理由で、裏では俺の存在と作った物で国同士のパワーバランスが大幅に変わるのを防ぐのが目的だ。

そしてこの法律を破った際は、最低25年の実刑で最悪終身刑か死刑が課される。

その代わりに俺には死ぬまでに俺が公開してもいいと思う情報及び設計図を本にまとめて俺の死後、それを日本から世界に徐々に公開していく契約が結ばれている。

故に俺は今も誰にも邪魔されずに中学生をやっているし、こうやって一部を除いて普通の生活を送っているのである。

しかし、この契約や法律にも穴はある。それは…


「いやな、前に日本橋のダンジョンに行ったらな、また迷惑系の奴らに捕まりかけたんだよ」


「またかよ、そういう奴らはマジで減らないよなー」


俺の言葉に叶は首を横に振りながら若干のオーバーリアクションで答えた。

そう、この迷惑系が穴だ。

この法律には確かに『俺に情報を吐かせる』のは禁止されている。しかし、『俺から情報を教える』のは禁止されていない。

故に俺はそっち系の配信者に標的になっているのである、しかし今の社会ではそんな事をしようもんなら警察のお世話になってしまう。

なら、どうするか?答えは簡単。警察が来れない場所、つまりダンジョンで凸して吐かせればいい。

それのおかげで俺は今、ダンジョンでモンスターよりもそちらの方に警戒してしまう状況になってしまったのだ。


「まあ、それはお前がダンジョンに行くのがいけないんじゃね?」


「俺に息をするなと?」


「お前にとってダンジョンはそこまでの事だったんかい!」


叶の言葉に俺が反論すると叶は真顔でツッコんできた。


「当たり前だ、俺にとってダンジョンで作った物を使い狩りをするのは生命活動に匹敵する行為なんだぞ、それを止めたら普通に腐るか死ぬわ」


「いや、ダンジョンに依存しすぎて逆に面白いわ」


笑顔で笑い始める叶、俺はそれに不貞腐れた顔で叶を睨んだ。

この世界には狩りゲーが無い、それは俺にとって死活問題だった。

しかし、その代わりにこの世界にはダンジョンという狩りゲーの代わりになるものがあった。だから俺がそれに依存するのは当然の事だ。

故にどんなに迷惑系に凸られてもコレだけはやめられない。もはや俺にとって生命活動みたいなものだからだ。


「それに何故か父さんが忙しくて家にあまりいない今が、夜遅くまでダンジョンに潜れるチャンスなんだよ」


「なるほどね~」


今、俺は中学3年生だ。本来は受験生であり親もダンジョンより勉強をしろとか言ってくるはずだ。

しかし、ここ最近父さんが家に帰ってこない。帰ってくる日は大体1週間に2日くらいだ。

一応、俺の父親であることは世間ではバレていないのでその件で絡まれてはいないはずだ。つまり今父さんは仕事で忙しいだけだと思う、故に今のうちにダンジョンに潜り、狩りたいと思ってしまうのは自然な考えだと思う。


(それにもっと『テラフォーマー』の『ワイヤーガン』や『ギミック武器』も試したいからな)


実は俺の拠点にて新たな本が出現した。それは『テラフォーマー 《美しくも残酷なこの惑星で》』、惑星開拓をテーマにした狩りゲーだ。

このゲームはワイヤーアクションによる三次元戦闘とエネルギーを使わないギミック武器が売りで子供人気が高い作品だ。

そして実際に作って思ったが、各作品に色んな違いがあった。

『Monster Hand Live』はシンプルなのが多いため製作が容易で耐久度があるが、全体的に重い物が多く移動時に邪魔になる。

そして『people's redemption 〜罪を狩る者達〜』は癖はあるが火力特化だ。しかし複雑な作りの為、耐久性に難がある。

最後に『テラフォーマー 《美しくも残酷なこの惑星で》』は上の二つの中間的な立ち位置で扱いやすさと移動手段が魅力だが作るのに結構材料がいる。

故に色々試してみたいのも俺が狩りを続ける理由でもある。


「…ま、今はどうこう言っても仕方ないだろ?」


「そうだな…んで、時間はいいのか?」


叶の言葉にそっけなく時計を指さして言った。


「時間~?…やべ!?もうこんな時間!?『雑談配信』に遅れる!!」


「おう、はよ行け」


「おう!またな渉!!」


叶は時計を見てそう言うと急いで席を立ち、教室から走って出て行った。


「…新人配信者も大変だな…」


叶は今、ダンジョン配信者として頑張っている。2月に配信を始めて、確かこの前登録人数が700人を突破したとか嬉しがっていたはずだ。


「…腹減った。月の兎で何か食べてからジャンク品を物色して帰るか…」


俺はそう言うと座っていた椅子から立ち、帰り支度を始めた。


(…今日は…ハンバーグにレモネードと黒餡蜜…いやハンバーグはやめて鉄板ナポリタンにするべきか?)


そんな事を考えて荷物をまとめて教室からでた。

そして、今日俺は秋葉原で新たな出会いがある事をまだ知らなかった…




「ハァ…ハァ…オレは…オレは…ッ!」


「…!、こっちにいたぞ!!」


「チィ!?オレは絶対にこんな…!!」








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