第66話

「『…やべ、もうすぐ四分たつじゃん。負けそうなんだが?』」


あれから同じ体勢のまま桜に雷を与え続けるが、浮遊感と発光が強まるばかりでまだ転移できていない。流石に焦っできて不満を漏らしてしまった。


(⦅やば、雷だけでは五分以内でのエネルギー供給は無理だったか?⦆)


俺がそう思い、諦めてポーチからスキットルを出そうとした。その時、


バキバキ…


「『は、白い石板?』」


桜の木の一部が割れ、中から白く細長い石板が現れた。

そして、感じるいつもの浮遊感、つまり…


(⦅ぎ、ギリギリ間に合ったー!!⦆)


俺の雷が制限時間内でエネルギー供給に間に合ったと言う事だった。

そしたら

そして、俺の意識は浮遊感と共に消えた。


〜〜???〜〜


意識がはっきりしてくる。

そして最初に感じるのは鉄臭い匂いと吐き気、そして激痛だった。


「ヴ…ヴゥボァ!」


ビチャビチャと目も開けずにそのまま俺は吐血、そしてその場で膝をついた。


(やばい、副作用だ!)


俺は急いで目を開けてポーチからスキットルを取り出して、回復薬を飲む。


グビッ…グビッ…


バキバキバキバキ…


少しずつ飲み、全身の痛みと吐き気がおさまってきたのを感じる。

しばらくそのままの姿勢で飲み続け、体の調子が良くなったのを感じるとスキットルから口を離した。


「…やばいな、もし口で回復薬を飲めなかったら洒落にならん。やはり無痛針型の注射器で回復薬を注入させる方がいいのかな?」


3回目の変身でようやく今の回復方法では危険だと理解した。

もし吐血が酷くて口が使えなかった場合、回復薬を飲む事はできない。それは副作用の緩和ができない事を指す。

ならば無痛針による注射型の方が確実だと考えた。


「…いや、無理だ。現段階では回復薬βは量産できない。」


回復薬αの上位互換で回復薬βがある。

コレはポーションと同じく密閉で保存しないとダメな薬だが、αよりも少ない量で回復できる上に回復力もαの倍だ。

つまりコレを注射器に入れて使うのがベストだと思った。

しかし、コレには課題が2つある。

一つは俺は無痛針の注射器の製作をした事がない事。コレは製作し続けて練習すれば問題ない。

問題は二つ目だ。


「流石に冬虫夏草と麻黄は無理だ、入手が難しい」


材料に冬虫夏草と麻黄がいる。この2つの内麻黄はまだいい、問題は冬虫夏草だ。

昔、父さんの仕事道具を了承をえて少し分けてもらって以降、入手していない。

あれはネットでも買えるらしいが作るにしてもそれなりの量がいる、確実で安定した入手経路の開拓が必須だ。


「取り敢えず今は考えてもどうしようもない。取り敢えず周りをみ…」


今はこの事を考えるべきではないと強制的に片付けて周りを見るべく意識を向けた。しかし、俺は周りの光景を見て絶句した。


「ここは…深層?」


周りの光景は桜の木に賽銭箱、見慣れた帽子を被った狐の石像に神社。

そう、この光景はまさしく旧歌舞伎座ダンジョンの深層の光景だった。


「…いや、若干違うな、この神社はこんなに広かったか?」


しかし、俺は違和感を感じた。まず神社の広さが違う。

見ただけだが俺の地図スキルで記憶している広さよりもかなり広くなっている。神社も前よりも大きく、立派な作りになっていた。


「…あれ?そう言えばあの狐が被っている帽子、俺のじゃね?」


更に周りを見渡すと、狐の像の被っている帽子が気になった。

そして、俺は立ち上がりその像に向かって歩き出した。


「…いや、ここにあったんかい!」


俺は狐の像に近づくと、像の後ろに俺のバイクがあり、武器の炭坑夫の鎮魂歌も像の横に桜の花びらまみれで落ちていた。


「しかもこの帽子もやっぱり俺のだし…」


そして狐の石像が被っていた帽子も俺の装備の制帽だった。


「…マジで見つかってよかった」


俺は心底安心して落ちていた武器を手に取る。

もし無くした場合は制帽以外はそう簡単には作れない、だから本当に安心した。


「もしかしたら、この石像が預かってくれていたのかもな…」


俺は狐の石像から帽子を外して俺に装備する。そしてバイクに近づく。


「…よし、見た感じ傷以外は故障箇所はないな」


バイクはあの時の横転で傷こそ付いていたがミラーもハンドルも無事だ。


「確か、後ろの鳥居に帰還用ポータルがあったはず。そこなら拠点を出せるな」


俺はそう言いながらバイクに武器を固定してから離れた位置にある鳥居に向かって押し始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…うし、バイクも回収したし装備も変更完了」


俺はそう言いながら拠点から出る。

今の俺の装備は武器を炭坑夫の鎮魂歌に変更した程度だが、かなりしっくりくる。


「さて、後はあの立派になった神社だけだな…」


俺はそう言いながら神社に向かって歩きだす。

そして、神社の賽銭箱の後ろの障子の前まで行き、障子にに手をかける。


「前はここにポータルがあったんだよな…」


俺はそう言いながら障子を開けた。


「…は?」


そして中を見て唖然とする。何故なら…


「…いや、マジでなにコレ?」


そこにはポータルがなくなっていて、掛け軸が4本あり、更に奥には扉が一つあった。しかし、俺が驚いている所はそこではない。


「何で俺やねん」


その掛け軸全てに俺が浮世絵風にが描かれていたからだ。

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