第65話
浮遊感が消え、足が何かの上に立っている事を自覚させてくれる。
(マジか…ポータル以外に転移させられる事もあるのかよ…)
だが、俺は内心ソレどころではなかった。一体誰が俺を呼び、何でポータル以外で転移したのかがまるで分からなかったからだ。
(ヤバい,頭が混乱してまともな思考を出せない…)
考えれば考えるだけ頭が痛くなる。
こんな事、前代未聞すぎる。どう対処すればいいのかわからないのだ。
(…考えるだけ時間の無駄だな。取り敢えず目を開けて周りの状況を確認しよう)
俺はそう思い、ゆっくりと目を開ける。
そして目に入って来た光景に絶句した、そして急いで周りを見渡して更に絶句した。
「…マジかよ」
目の前には満開の桜の木が一本、そして周り15m位をまるで薄いシャボン玉のような球体のに包まれていて、俺の後ろには旧歌舞伎座の建物があった。しかも…
「周りに人だらけ…空にはドローンの大群…か…」
球体の周りを色んな人達が囲んでいる、中には配信用カメラで配信している人もたくさんいる。
そして何より空中にドローンが大群で俺を撮影している、こんな所で動物園の動物の気分を味わうとは思わなかった。
「取り敢えずマントを外すか。もはや怪しさ全開だからな」
俺はそう言うとマントを放り投げるように外す。すると周りの人の雰囲気が変わり、更にスマホやらカメラで写真を撮っていたり、撮影したりしている光景が広がった。
そして俺はある違和感を覚えて、取り敢えず近くにいた金髪ツインドリルの女性に近づく。
すると女性は何故か感極まった感じのリアクションをとるが、俺には何も聞こえなかった。
「…この空間、外の人の声とか入らないんだな。外側の声だけ完全防音とは恐れ入った」
俺は試しにその女性に言った数字の指を出してと言って数回試させてもらったが、全部行った数字の指を出してくれた。
つまり、俺の声は外には聞こえているが逆は聞こえない状況という事だ。
それを確認した俺は次に桜の木に近づいてみた。
「…あ、やば!?」
俺が桜の木に片手で触ると、触った手から何かに吸われる感覚を感じた。
俺は急いで手を離し、桜の木から数歩離れた位置にバックステップで下がる。
(何をされた?…体温を吸われた?それとも…)
そして触っていた手を見る、手は俺の意思とは関係なく、ただダランと下がっている。しかし反対の手で触ると、体温はあった。しかし、動かしづらい。
そんな事を思っていたら直ぐに手の感覚が戻り、動くようになった。
(…試してみるか)
それを確認した俺はポーチからスマホ用予備バッテリーを手に取り、電池残量を確認する。
「残り6割か、コレを…」
俺は残量を確認すると、木に近づき充電する部位を桜の木に数秒当てた。
そしてまたバックステップで離れてバッテリーの残量を見る、すると…
「…なるほど。吸われたのは電気、もしくはそれに類するエネルギーか」
バッテリーの残量を確認する、すると残りの残量は2割。つまりバッテリー内の電気が吸われたのだ。
まだ仮定の段階だが、つまり木に触れた俺の腕の神経に流れていた電気を吸われ、少しの間だけ腕が動かなくなってしまったという事だろう。
「そうか、つまり腹減ってるからエネルギーを寄越せって事なのかな?…なら、試してみる」
俺はその仮定を信じ、とりあえず15mの球体の壁ををククリナイフで確認するように叩きながら一周回ってみた。
「…若干不安は残るが、多分耐えられるな」
そして俺は壁を叩くのをやめると、武器を腰にマウントしてから大体円の中心部と思われる場所に移動する。そして右手でポーチの中を漁りながら目的の物を手に取った。
「ス〜ッ…ここにいる全員に警告する!」
俺は目的の物を右手に掴みながら大声を出して全体に叫ぶように言う、すると周りの人の顔も緊張した顔になり始めた。
「今からある賭けをする!おそらくそちらまで被害はいかないと思うが、危険な事には変わりない!だから!!」
カチャン
俺はそう言いながら右手で掴んでいた人体総変異装置を前に突き出して蓋を開ける、すると周りをの人たちは驚愕の顔が目立ち始めた。
「離れていろ!」
ジュッとヤスリを回しながらボタンを押して針を出す。
そして改めて周りを見ると人々は壁の周りから若干離れた位置まで下がっていた。
そして近くにあるのは撮影している大量のドローンのみ。
「…ありがとう!!」
俺はまだ不安はあるが、取り敢えずの配慮に感謝しつつそのまま左手首の素肌を出して構える。
「人…体!」
そのまま俺は左手の手首目掛けて針を、
「総変異!!」
突き刺さした。
刺した痛みと同時に中に体の中に何かが入ってくる感覚が俺を襲う。
そして刺した傷口から赤黒いゼリー状の液体が溢れて俺を包み込む。
そして炭酸水の中にいるような細かい泡に包み込まれながら俺は右手から熱くなっていくを感じていた。
そして…
「『オラッ!!』」
チュドーーン!!
バリバリバリ…
熱が全身から感じたその時、俺を包み込んでいたゼリー状の液体が爆発。
周りに赤い雷を撒き散らすはずだったが、その雷は桜の木に吸収されていった。
「『取り敢えず周りに被害がなくてよかった』」
俺を中心としたクレーターはできているが壁の外まで被害は出ていない。
爆風も向こうには届いていないらしく、爆発音にびっくしして腰を抜かす者はいるが、多くの人達は目を輝かせてまた壁際まで迫り、それぞれ撮影や配信を再開し始めた。
「『ま、その壁が爆発に耐えれるのであればヨシ!』」
俺は取り敢えず今からする事によって周りに被害が出るかを確認して、大丈夫だと確信すると桜の木の前まで歩き始めた。
「『爆発で花びらを吹き飛ばされるどころか雷を吸収して、あまつさえ薄く光るとは…』」
桜の木に被害はない。爆発があったにも関わらず花びら一枚も散ってはいない。
そして爆発の時に発生した雷を全て吸収して薄く光る。
そして、俺は桜の木に今度は両手で触る、するとあの浮遊感が少しだけ足元にあるのに気がついた。
俺はこの現象に確信を持って言う。
「『確定した、ポータルが使えない理由はただのエネルギー切れだな」
俺の言葉に周りの人達がざわめく様子が見て取れる。
この桜はポータルだ、しかし何故か転移しない。
だが、この桜は爆発で壊れないどころか発生した電気を吸収した。
つまりこの桜は先ほどまで転移する為のエネルギーがない状態でいたんだと思う。だから俺の手から微弱な電気を吸い取ったり、予備バッテリーの電気を吸っていたのだろう。
そして俺の雷を吸収して少しだけエネルギーを蓄えた状態の今は本来のポータルの力である転移させる時に発生している浮遊感を感じる。
しかし、浮遊感が弱い。つまりまだエネルギーが足らない。
なら、するべき事は一つだ。
「『なら、俺の雷を腹一杯になるまでご馳走してやるよ!』」
俺はそう言うと両手を木から離してに赤い雷を発生させる。
「『たらふく食いやがれ!』」
そのまま両手で叩きつけるように木に当ててから全身で雷を発生させた。
しかし、雷は周囲に散る事はなく、全て桜の木に吸収されていき、浮遊感も徐々にだが増して来ている。
(⦅後は俺が先に制限時間を迎えるのが先か、ポータルのエネルギーが貯まるのが先かだな。マジでコレに負けたら大恥ってレベルじゃないよな…⦆)
そう思いながら、俺は人達の強烈な視線に晒されてながら桜の木に雷をぶつけ続けた。
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