第64話
〜1月15日 旧歌舞伎座付近〜
「…車の進みが遅くてすみません、旦那様」
「またかよ…もう二週間だぞ…」
俺達はあの後、きちんと準備をして戻ってきた父さんと医師に大吾さんがキチンと話してくれた。
確か医師がギルドがどうのこうの言っていた気がするが、最終的に父さんの「行ってこい」の言葉でその場で退院が決定。
今俺は大吾さん達の車で旧歌舞伎座に向かっていた…のだが、
「旦那様、どうやらまた旧歌舞伎座周辺が通行制限をしているみたいです」
「そうみたいだな」
運転席に座っていた如月さんの言葉に助手席に座っていた大吾さんが言葉を返した。
「…つまり、この渋滞の原因は俺って事?」
「はい、間違いないです」
俺は後部座席に座っていて、隣には優香さんが座っている。そして今、俺は優香さんにこの渋滞の原因を教えてもらった。
現在、俺の装備は『帽子なし』の日本支部殲滅部隊正式武装にダブルボーンククリを装備して、その上にフード付きのマントで体と顔を隠していた。
そしてこの帽子なしの状態がこの渋滞の主な原因だ。
ギルドは確かに俺の道具を回収した。しかし、武器やバイク、燃料が入っていたケースに俺の被っていた制帽や人体総変異装置を回収できなかった。
そして誰かがその事実をに気がつき、ネットにその事を流した。
だから今、ギルドを含めた国内外問わず様々な勢力がここ銀座で宝探しみたいな事をしているらしい。
ただでさえ禁層のモンスターに攻撃されても壊れなかった防具の一部に加え、そのモンスターを倒した武器に移動に使っていたダンジョンで動く機械、その2つの燃料と思われる液体が入ったシールドケース。
そして、モンスターに致命的なダメージを与えるだけではなく傷の回復や特殊能力まで付与した変身ができる謎のライターが行方不明、もしどれか一つでも回収できればソレに使われている技術の入手や俺個人の脅しや最悪の場合は日本の無茶な交渉の材料として使えるかもしれない。
まさに爆弾みたいな危険すぎるお宝だ。
故に、ギルドもソレがわかっているから俺や国を守る為に通行制限や検問などをして対策しつつ、銀座中を血眼になって探しているのである。
そして、そんな中でもギルド以外の国内外含めた様々な人もソレを探している、故にこの渋滞ができているそうだ。
他にも攻略後に出た桜を見にくる人や、旧歌舞伎座の舞台の天井に穴が開いた為に建物の修理業者や資材運搬用トラック、桜の木の調査員による大掛かりな実験なども渋滞の原因になっているらしい。
「ほんと、大変な事になってしまったな」
俺はそう言いながら窓から外を見る、するとあちらこちらに配信用のカメラを付けた人や、ドローンで撮影している人もたくさんいる。
そして視線をスマホに移し、D&Vを開く。
「おいおい、俺一色かよ…」
サイトを開いたそばからおすすめで流れてくる動画はほぼあの時の闘技放送の切り抜きばかり、中には「あの武器、再現してみた!」とか「例のバイク、再現してみた!」とかもあったが、全て失敗の動画だった。
「そらそうだ、燃料から手作りしてるんだからそう簡単に作れてたまるかってんだ」
「渉さん、コレも見てください」
俺が動画を見ながら呟いていたらいたら、隣に座っている優香さんが自分のスマホを差し出してきた。
「…コレは予想外」
俺はその画面を見て面食らってしまった。
そこには掲示板が映し出されているが、内容がすごい。
例えば『ホームセンターからスコップとシャベルが消えた』とか、
『ネット販売の軍用スコップの注文は一年待ちの状態だ』とか、
『あのバイクの原型機の売れ行きが凄まじい』
とか。
そして俺の装備を再現したコスプレの画像をあげたりする人もいたりする。しかも男女問わず完成度が高すぎる、中には俺の人体総変異時の姿も再現する猛者もいる状態だ。
でも、1番目立っていたのはやはり俺の個人情報を求める文だ。
やれ『俺とパーティを組んで欲しいから情報プリーズ!』とか、
『ファンになったのであの人の情報ください!』とか、
『一目であの人が運命の人だって魂と遺伝子で理解しましたの。私のアダムの情報を知っている方、どうか私に教えてくださいまし!』とか。
「…怖すぎる。特に最後の文」
流石にここまで盛り上がっているとは思わなかった。
「一応、お父さんがギルドにお願いをしてもらってるのでそこら辺は安心してもいいと思いますよ。ただ…」
「ただ?」
「…名前と通っている中学校はバレてますからそこは気をつけた方がいいですね」
「ま、マジか…」
優香さんの言葉に頭を抱えてしまった。
流石にギルドが監視をしているとはいえ名前と通っている中学校が割れているなら出待ちができる。しかもストーカー行為をすれば自宅まで割り出されしまうかもしれない。
(ヤバいな…本格的に防犯対策を考えるべきだな…)
頭を抱えてながら考えを巡らしていた…その時、
《… ……… …》
「!?」
俺の脳内に直接何かが呼ぶような感覚を感じた。
「渉さん!?ど、どうし…
「呼んでる」
え?」
俺が勢いよく顔を上げた事で優香さんが驚いていたが、今度は俺の発言にびっくりしていた。
だが、確かに俺は呼ばれた。コレはハッキリとした事実だ。
「渉さん、どうしたんですか!?誰に呼ばれたんですか!?」
「どうした優香!?」
俺は優香さんに肩を掴まれて揺らされながらそう言われ、助手席の大吾さんも異変に気がついたみたいだった。
そして俺が何かを言おうとした直後、あの謎の浮遊感が俺の足元から感じ始めた。
「…やべ!?優香さん、すまん!」
「きゃ!?」
俺は最大限の悪寒を感じて、優香さんの体を少し押した。
「渉さん!」
「おい、大じ…」
優香さんが俺の名を呼び大吾さんが安心を確認しようとしたが、俺はその言葉を聞く前に全身に浮遊感を感じた。
そう、この感じは…
(ダンジョンに入った時と同じ浮遊感!?)
俺はソレを理解すると同時に、車から消えた。
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