第63話
「…お前さん、アホか?」
次に大吾さんから出た言葉に少し傷ついた。
「いや、大真面目です」
「…」
大吾さんはその場で俯き、優香さんはそのまま大吾さんの顔を覗きこんでいた。
だが、俺は更に言い続けた。
「俺は今回、あのダンジョンを攻略しようと思ったのはお金が欲しかった訳ではないです。
俺は大吾さんの夢を叶えたかったからです」
「…」
「俺にも叶えたい夢があるんですよ。だからあの時、愚かな夢って言った大吾さんの覚悟がわかったんです。
だから覚悟を決めて命懸けで攻略したんです。
だから…」
俺は大吾さんの前まで歩き、数歩手前で止まる。
「歌舞伎座からポータルが消えた今、貴方の夢は叶う寸前まで来た。
なら、俺はその叶う瞬間をきちんとした形で感じたい。
だから俺にその夢の始まりである最初の舞台のチケットを下さい。
ダメ…ですか?」
俺は自分の気持ちを全て話した。しかし、大吾さんは俯いたまま震えていた。
「…だ」
そしてそのままボソボソと言い始めた。
「大馬鹿野郎だ…こんな…普通は金とか…娘をくれとか…地位をよこせだろ…なのに…俺の…こんな…」
「お父さん…」
震える大吾さんに優香さんが顔を覗き込みながらポケットからハンカチを出し、目元あたりをふいている。おそらく泣いているのだろう。
「…」
俺はその場で大吾さん泣き止むのを待った。
そして大体5分くらいだろうか、泣いていた大吾さんはゆっくりと頭を上げ始めた。
「…うし、ありがとうな優香」
「うん」
お礼を言う大吾さんの目は赤い、しかし優香さんにお礼を言う顔はスッキリとしている。
「お前…いや、渉さんよ」
「はい」
お礼を言い終わった大吾さんは今度はしっかりと俺の顔を見始める。
「あんたは大馬鹿者だ、しかも俺の生きた人生の中でダントツで1番のな」
「…」
俺を見る大吾さんの目は真剣そのものだった。
「だがよ…」
しかし、話すににつれ徐々に顔が笑顔になっていく。
「俺、お前みたいな馬鹿野郎は大好きなんだわ」
そして満面の笑みでそう言った。
「それじゃ…」
「おう、任せろ!誰か何と言おうとも、お前さんの望み通りに初日公演の最高の席を用意してやるよ!」
「ありがとうございます!」
どうやら、俺は大吾さんに完全に気に入られたみたいだった。隣にいる優香さんも大吾さんの顔を見て笑顔になっている。
「たくよ…他の2人はやれ『最低5000万』だの『代わりに優香か上の姉を嫁にくれ』とか言っていたのによ、攻略したお前さんの要求はまさかの歌舞伎のチケット、こりゃ笑うしかないわな」
ガハハッとその場で笑う大吾さん、その顔は付きものが取れた感じに見えた。
多分、俺も他の2人みたいにヤバいお願いを言うと思っていて、心の中で引っかかっていたんだろう。
しかし、俺のお願いはもう一つある。
「すみません、お願いはもう一つありまして…」
俺がそう言うと大吾さんは笑うのをやめるが、笑顔のまま俺に向き直る。
「大丈夫だ、大体予想できるよ」
そう言うと大吾さんは俺がベッドに置いていた新聞を指差して、
「行くんだろ?」
笑顔でそう言った。
「…はい、よろしくお願いします」
「任せろ、如月に電話して雄二さんの為の送迎タクシーを用意させる。
ただし…」
そう言うと、大吾さんは今度は意地悪そうな顔で、
「その格好はいただけねえな、さっさと拠点とやらでコレに着替えてきな」
持ってきた残りの荷物を指差しならがそう言った。
何かと思い、俺は荷物の中身を見る。
「…これは!?」
そこには俺の日本支部殲滅部隊正式武装が折りたたまれて入っていて、その上に空の試験管型の透明なシールドケースが2本置いてあった、この光景に流石にびっくりして心臓が止まりそうになった。
「あの時、ギルドの奴らが検査がどうとかってお前さんの荷物を回収しはじめてな。武器とバイクは見つからなかったがそれ以外のポーチの中の道具は全部持っていきやがった。
だが…」
大吾さんは更に意地悪そうな顔を強め、優香さんに何か合図を出している。
「病院に来た時に着ていたその服と、優香がお前さんに救命蘇生法をやっている最中に懐に隠したソレとアレは回収を免れたんだよ」
「渉さん、こちらをどうぞ」
そう言うと優香さんは俺に何かを差し出してきた。ソレは…
「俺のスキットルに人体総変異装置!?」
俺があの時に持参していた回復薬αが入ったスキットルに彼岸花が掘られたジッポライターだった。
「あの、勝手な事をしましたか?」
優香さんが首を傾げて聞いてくる。
「…いや、完璧です。ありがとうございます、優香さん」
俺は笑顔でソレを受け取った。
優香さんの行動は本当な有り難い事だ。何故ならあの時の俺の装備は、この三つ以外は閃光玉以外は既製品。閃光玉もギルドに確認してもらっている奴なので問題はなかった。
しかし、この三つは見つかったら本気でヤバい奴だから心配していた。特に人体総変異装置は危険な品物だから手元にある安心感が半端じゃない。
(…と言う事は、武器やバイクはまだあのダンジョンにあるって事なのかな?)
普通なら武器やバイクもダンジョンにとってゴミ判定になりそうだ。排出されてもおかしくない。しかし、新聞や大吾さんの話にも排出されたと書いたり聞いてないので、まだダンジョンにあると仮定するしかない。
俺がその場で固まって考えていると、大吾さんは背後の壁を軽く数回叩いた。
「は、考えるのもいいが今は他にやる事を決めてんだろ?
だったら早く拠点を出して準備しな」
大吾さんはそう言う。
「…そうですね、その通りです」
俺は大吾さんの言う通りに拠点を目の前の壁に展開、そのまま中に入るように歩いていく。
「あ、私色々とお手伝いします!」
「おう、俺はこの拠点の中で一服したいんだが吸っても大丈夫だよな?」
そして、後ろから何故か2人とも一緒に拠点に入って来た。
「大吾さん。タバコは別にいいですが、吸い殻のポイ捨てはやめてくださいね?」
「おう、大丈夫だ。そこら辺のマナーはある」
俺がそう言うと大吾さんは右手にタバコの箱にライター、左手に携帯灰皿持ち俺に見せてきた。
「あと優香さん、流石にい…
「何カ問題デモ?」
いえ、別に!」
俺は手伝いを断ろうとしたが、何故か真顔で目に光が無い状態で言われてしまい、断りきれなくなってしまった。
いや、ほんとこの子怖すぎるわ。マジで逆らわない方が身の為だと思う。
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