第62話

~しばらくして~


「…つまり、今は1月15日であれから2週間たったって事ですか大吾さん?」


「ああ、間違いない」


あれから医者や看護婦が部屋に入ってきて俺の診断をしだした。そしてその間に優香さんが看護婦達になだめられて何とかいつもの優香さんに戻った…いや、マジであれは怖かった。

そして父さんを連れて医者達が出て行ったので俺は優香さんにある頼み事をして今、大吾さんと話していた。


「…ていうかよ。優香から話は聞いていたが…」


そう言いながら大吾さんが後ろを向く。そこには…


「実際に目にしてしみじみ思うよ。お前さん、とっんでもないもん隠してたな」


太陽に湖、そして教会みいな建物から優香さんが何かを両手に持ってこちらにくる光景があった。


「何だっけ、『古い湖畔の拠点』だったか?このスキル?」


「いや『湖岸の古びた狩人の拠点』ですよ」


「いや、意味は一緒だろうが」


そう言いながら頭をガシガシと書く大吾さん。そして優香さんが拠点から出ると霞のように消えてまた部屋の壁が現れた。


「渉さん、コレ頼まれた物です」


優香さんはそう言うと俺に空の小瓶とスキットルをさしだ…いや、違うな、


「いや、優香さん。何でスキットルの蓋が開いてるの?そして何故俺の口元にそれを持ってくるの?」


「ささ、グイッとどうぞ」


「いや、さす…



「どうぞ」


…いただきます」


俺に何故か優香さん自ら飲ませようとしてきたので断ろうとしたが、圧に負けて結局飲む羽目になってしまった。

そして俺はスキットルに口をつけて飲み始める。


グビッグビッ…


バキバキバキバキ…


飲み始めると同時に俺の体からはありえないほどの軽い音が響く。

大吾さんもめちゃくちゃ怖い顔…と言うか呆れた顔でこちらを見ていた。

そして音が鳴り止むと同時に俺の腕に繋がれていた点滴の針が押し上げられるように抜ける。

そして俺は繋がっていた機器を外すとベッドから立ち上がった。


「…うし、体は問題なし」


「自作ポーションまで…やりすぎだろお前さん」


俺は体を少し動かして問題はないか確認していて、大吾さんはまた頭をかきながらボソボソと言った。

そう、俺は優香さんに拠点の回復薬α入りのスキットルを取ってきてもらったのだ。ついでに治った理由付けに小瓶も持ってきてもらった。


「大吾さん、呆れている所申し訳ないのですが…」


「大丈夫だ、俺が黄色いポーションを持参して使ったって事にするわ。それくらいなら俺の顔でどうにでもなるからな」


「すみません、感謝します」


俺がそう言うと大吾さんは頭をかくのを止めて、こちらに笑顔になった。


「なーに、俺たち歌舞伎界を救ってくれた大恩人を守るためだ。コレくらいやらせてくれや」


そう言いながら大吾さんは持参してきたであろう荷物に向かい歩き、その中から何部かの新聞を取り出し、


「ほらよ」


俺に投げてきた。


「うぉ!?」


俺は急いで投げてきた新聞を受け止める。


「そいつはお前さんが寝てた間の新聞だ。読んどいた方がいいぞ?」


そう言うと大吾さんは壁に寄りかかり、優香さんは大吾さんの所に小瓶を渡しに近づいて行った。

取り敢えず俺は急いで新聞をベッドに広げ、記事を見る…何故か優香さんが俺に人工呼吸をしている写真があったが気にしない方向でいこう。

そして、俺が新聞をガン見しだすと後ろから大吾さんが話しかけてきた。


「おう優香、ありがとな。…取り敢えず新聞を見ながらでいい。俺の話を聞きな」


そう大吾さんが言うとその場で今の状況を話し始めた。


「あの日、お前さんがダンジョンを攻略してスグに旧歌舞伎座ダンジョンのポータルに異変が起きた。

舞台にあったポータルは15メートルの光の柱となり2分後くらいに消えたのさ。

そして、次に旧歌舞伎座の隣に光る満開の桜の木とお前さんが光と共に出現した。

そして一番大事なのはここからだ。

その後、お前さんを緊急搬送された後にその桜の木を調べた。そしたらな…」


大吾さんが息を吐き、俺は丁度その部分の記事が目に入る。


「これって…」


「ああ、今話そうとしたのは丁度そこだ。

つまりな、そこに書いてある通りあの桜の木はポータルなのさ。

しかし、誰も触っても反応なし。転送もされないし、桜自体も何をしても元通りになっちまう。

故に日本政府もお手上げの状態なのさ」


大吾さんの言っている事は間違いない。何故ならそれと同じ事が新聞に書かれているからだ。

しかし、俺には何故かこの記事の写真にものすごく惹かれてしまう。

まるで俺を呼んでいるような感覚だった。


(…直感だけと、この感覚は間違いなく呼ばれているな…なら、やる事は決まったな)


「…どうした?」


俺の後ろ姿が止まっていたのを大吾さんが気になったのか、話しかけてきた。

しかし、次の俺の言葉に俺と大吾さんの空気は重くなった。


「…大吾さん、唐突にすみません。今回の報酬の話をしてもいいですか?」


「…おう、いいぞ」


俺が低い声を出して報酬の話をすると大吾さんも低い声になった。

そして大吾さんの方に振り返ると覚悟を決めた時の顔になり隣で優香さんがこちらを見ていた。

依頼では調査だったが、俺はあのダンジョンを攻略して旧歌舞伎座の舞台からポータルを消した。

だからこそかなりの無茶を要求されると思ったんだろう。

しかし、今の俺にはお金は必要ない。必要なのは…


「俺の要求する報酬は二つ。

一つは旧歌舞…いや、歌舞伎座が無事に復活したら初日の舞台の席のチケットをください」


「…は?」


俺が一つ目に提示した報酬に大吾さんは口開けて情けない声を上げた。






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