第60話

モンスターの腕に刺さっているダーツは実は保険で使っていた罠みたいな物だった。

あのダーツは普通に市販されている物を改造して中に空洞を作り、そこに昔採取した『静電気キノコ』を細かくして中に仕込んだ品物だ。

静電気キノコは雷のエネルギーで繁殖するキノコで小さい避雷針みたいなものだ。そしてこいつは自分が処理できない電気は『他の植物の根っこに流す』性質がある。

そして生き物には体を動かす際、神経という脳と直結していて微弱な電気を流して筋肉を動かす根っこみたいなものが張り巡らされていてそれで体を動かしている。

もし、そこに大量の電気が流れたら?

正解は勝手に筋肉が動く、もしくは脳に多大な負荷がかかり失神する。

つまり、このモンスターは腕のダーツを抜かなかった為に、俺の赤い稲妻をダーツが受け、仕込んだキノコが処理できない電気を刺さっている部分からモンスターの神経に流した。故にこいつは今、体が思うように動かなくなってしまったのだ。

だからこそ首を狙えた、故に俺はスコップの『稼働機構』を使ったのだ。


『G…u…』


ブシュ―


モンスターの首に深々と刺さったスコップ、そして刺さった所からは血が吹き出る。

『まずは』一段階目は成功、これは本当にうれしかった。

何故ならこれで、


「『ようやくこれで…』」


この狩りは、


「『あの人の願いが叶うな』」


俺の勝ちが確定したからだ。そして俺は更に『取っ手をまた90度回した』。
















ズドガーンッ!










『炭鉱夫の鎮魂歌』という武器は『people's redemption』のサブクエストでチェーンクエストの最終的な報酬品である。

このクエストはプレイヤーがいる地域に炭鉱夫として生活しているNPC達と関係を発展させると進行していくタイプのクエストで、クエストが進行するとその炭鉱夫達が働いている炭坑にミュータントが出現、炭鉱夫のリーダーが犠牲になりそれ以外の炭鉱夫達を逃がすイベントが発生する。

そして炭鉱夫達はプレイヤーにリーダーの形見の品のスコップを渡してそのミュータントを討伐してくれと依頼してくる、その際にそのスコップを武器化したのが『炭鉱夫の鎮魂歌』なのだ。

最終的にそのミュータントを武器化したスコップで討伐することでこのチェーンクエストは終了、無事に武器を手に入るのだ。

そしてこの武器の稼働機構には持ち主がよく言っていたセリフを完全に再現している。そのセリフとは…


「『厚い岩盤は穴開けて爆発すれば一発よ…か…』」


俺は目の前の光景を見ながらそう言う。

そこにはスコップが刺さっていた首が無い。頭と胴体が離れ離れになっているモンスターの死骸が転がっていた。


「『やっぱり、あんたは正しかったよ…』」


燃料型稼働機構武器『炭鉱夫の鎮魂歌』、その特徴は2段階の強力な攻撃。一段階目で相手に深く刺すためのパイルバンカー、二段目でスコップのさじ部全体がスライドして噴射口が出現、そこに一気に燃料での爆発を発生させる。

つまりこのスコップはパイルバンカー&近距離砲撃で確実に刺さった部分に大ダメージを与える、かなりのロマン詰め合わせの最高にイカれた武器なのだ。

しかし、ゲームでは一段階目の攻撃範囲が掴みにくいのと2段階のロマン機構がめんどくさい人が大半だったから多くのプレイヤーから『ある意味玄人向け』と言われる不遇武器でもある。


(⦅…この機構を使っても問題ない位の強度…⦆)


俺はそう思いながら武器を元の形に戻しながら武器を見た。


(⦅やはりお前は最高の素材だよ、『爆裂粉龍』。そしてありがとう『片目のヴェロル』⦆)


そして俺はこの武器の素材になってくれた爆裂粉龍の左腕の化石とあのヴェロルに感謝をしながら空を見上げた。

この武器の作る際に実験に使った爆裂粉龍の左腕の化石に耐えられる素材として真っ先に思いついたのがあのヴェロルだった。故にバイクを作る際の技術を応用して武器を製作する時に化石の一部とそのヴェロルの素材を余すところなく全て使って作ったのがこのスコップだ。

そしてその選択は正解だった、故に今回の狩りは俺が勝ったのだ。

そして空を見上げていると不意に地面が光を放ち始める。


「『な…!?』」


俺が驚いて下を向いた次の瞬間、俺は謎の浮遊感に襲われた。


~~~~~~~~


最初に感じたのは寒気と何かにさすられている感覚だった。


「…ッ…ッ…」


(何だ…?)


俺がそう思うとゆっくりと目を開ける。すると目の前には…


「…ッ…ッ…」


(優香…さん?それに…父さん?)


着物を着た優香さんが涙目で俺を揺すりながら何かを言っており、隣でも父さんが何か叫んでいた。


(一体どうなって…)


俺がそう思い、体を動かそうとした。しかし、


「…グハッ!」


「…!…」


俺は思いっきり血を吐き、優香さんの着物が血だらけになってしまった。


(…あ、耳が聞こえずらいのと吐血…副作用…か…)


それを理解したら、次に来たのが全身の痛みだった。


(…さ…くら…?)


そしてその痛みに気が失う瞬間、俺が見たのは季節外れの桜の花びらだった。





~~~~~~~~



調査報告書




2×××年12月31日11時58分 特殊ダンジョン【旧歌舞伎座ダンジョン】が佐藤渉氏により攻略される。





同年12月31日11時59分 旧歌舞伎座ダンジョンのポータルから謎の光が発生、その後天井を貫くほどの光の柱が出現。およそ2分後に光が収まる。そして舞台を確認するがそこにはポータルが無く、あった位置の天井には空が確認できる直径15mほどの穴ができていた。




新年2×××年1月1日0時01分 突如として旧歌舞伎座の右隣りの空き地、約ビル1棟半の距離に謎の光が出現、周りにいた全ての人が急いで避難する事態がおきる。





同年1月1日0時09分 光が収まると、そこには季節外れの光る桜の木が出現。そして桜の木にもたれ掛かるように佐藤渉氏が倒れていた。





同年1月1日0時49分 0時12分に生存確認の為父親の佐藤雄二氏と彼の依頼人の娘である大神優香氏が渉氏の安否を確認。しかし意識を確認後その場で吐血からの気絶。その場ですぐに優香氏による人工呼吸などの救命蘇生法で何とか一命をとりとめたのち、ドクターヘリにて○○病院に緊急搬送。





同年1月1日1時09分 警察及びダンジョンギルド職員による鎮静化ののち桜の木の調査を開始、すると…



 








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