第59話

〜side 佐藤 渉〜


俺は弱い、コレは事実だ。

いくら筋トレで筋肉をつけようが、それは変わらなかった。

確かに俺は同期の中でも身体能力では頭一つ分は抜き出ていたし、足りない部分は道具で補っていた。

しかし、やはりジョブやスキルで身体能力の限界がない奴、スキルやジョブで人体能力が補正されている奴、スキルやジョブの能力だけで戦える奴などが多いこの世界にて俺はやはり弱いと言える。

例えるなら普通に家電量販店で売られている普通のPCとパーツごとに買い揃えて組み立てられた高性能ゲーミングPCくらいの差がある。

どうしても性能面で負けてしまう。

なら、諦めるのか?答えは否である。

ならどうするのか?答えは簡単だ、


「『すまんな、スピードを上げるぞ!』」


『GAaaa!?』


自分を改造して、その差を埋めればいい。

元々、狩りゲーには攻撃力や防御力を一時的に上げるアイテムは存在する。しかし今回俺が再現したのはそういうアイテムではない、そういうシステムの方だ。

『people's redemption 〜罪を狩る者達〜』はゲーム中盤にて解放されるプレイヤーを一時的に爆発的な力を付与するシステムがある。

その名は『殲滅部隊員人体総変異強化計画』、これが今回再現した物でありゲーム屈指のかなりの沼システムなのだ。

このシステムは簡単に言うと細胞レベルまで調整されたミュータントの細胞で変異して半ミュータント化させて爆発的な強化をすると言うものだ。

そしてその半ミュータント化というのが何と一部ボスミュータント以外全てのミュータントがその変化できる対象で、超低確率で報酬として貰える、「〇〇の細胞」というアイテムがあればそのミュータントの力が手に入ると言うガチで報酬品沼ガチャシステムなのだ。

そして今回制作する際に使ったのが緋雷神龍の右腕の化石から手に入れた『緋雷神龍の細胞』、変身者である『俺の血液』、そして中層にいた『細胞レベルで回復できるスライムの粘液』だ。

つまり、この変身は俺がこのシステムを使って細胞レベルまで変異して強化した姿なのだ。


(⦅まさか、回復能力まで再現できるとは…嬉しい誤算だな…⦆)


ゲームではこの変身をするとHPが全回復する、理由としては細胞から変異する際に修復されると設定資料集には書いてあったと記憶している。

故に先ほどの胸の痛みも無く、意識をもハッキリとしている。

そして、この状態の特徴は見た目だけ変わるだけではない。最大の特徴は…


『Gaa!!』


ブンッ


「『振りが遅い、だから掴める』」


ガシッ


『G…a?』


俺はモンスターの右前足の横振りを右腕で掴み、止めた。

そう、これが最大の特徴でこの変身をすると、元となった生き物の身体能力と力が使える。だからこそ、


「『おまけだ、食らいな!』」


バリバリバリ…


『GAAAAAAAAAAAAAA!?』


俺の頭から生えている角と前足を持っている右腕から赤い稲妻が放出、そのままモンスターはその2つの稲妻で攻撃されて香ばしい匂いを放ちながら悲鳴を上げた。

緋雷神龍の力は赤い稲妻を『角』『両腕』『両足』『尻尾』から瞬時かつ無制限に出せる。そして何よりも稲妻をどれだけ出しても俺は一切感電しない、故に平気でこれを放出できるのだ。


「『オラ!』」


バキッ


『Gan!』


俺はそのまま掴んでいた右腕を放し、左手に持っていたスコップを両手に持って思いっきりフルスイング、モンスターはそのまま当たった方向に倒れこんだ。


「『…』」


俺は笑顔で奴を見る。

だが、この笑顔は決して慢心して笑顔になっているわけではない。むしろ…


(⦅やべ…後2分で決着をつけないと負けるわ…⦆)


心境は滅茶苦茶焦っているのだ、だからそれを見せないようにワザと笑顔になっているという訳である。

理由は簡単。この変身、制限時間が5分なのだ。しかもゲームでもそうだったが、コレは連続使用が不可で再使用には15分かかる。

しかもゲームではこれを使用した際はそのクエスト中は1回使用するたびにHPの上限値が3分の1減らされる副作用がある。

実際これの試運転の際にもそれはあり、全身の骨が軋むほどの激痛と吐血でしばらく動けなかった。

故にコレを発動したら5分以内に決着を着ける必要がある。そうしないと間違いなくその後の隙で俺は殺されるからだ。


「『さて…ん?』」


『…a…a…』


俺はモンスターが次にどう来るかを判断しようとした、しかしモンスターの様子がおかしいのに気が付いた。

目は充血し、口から泡を吹いている。そして何より体が時々ビクッと跳ねるように動いていて、まるで自分の意志で動かしてしないように見えた。

その光景を見た俺は自分が仕掛けた罠が上手く効いてくれた事に気が付いた。


「『なるほどね…んじゃ、』」


俺はそう理解すると右腕で柄を持ち、左腕でスコップの持ち手を反時計回りに捻りながら引く。すると取っ手が少し伸びてそこには『何かを刺せる穴』が『2つ』出てくる。


「『大詰めだ』」


そういう俺は左腕を放し、腰のポーチから『試験管型の透明なシールドケースに守られた赤い液体』を2本取り出し、その穴に入れる。


コポコポコポ…


そして中の液体が音を立てて全てスコップの中に入ったのを確認すると俺はその2本のケースをポーチに戻し、取っ手を今度は時計周りに捻じりながら戻した。


「『お前の敗因はただ一つ、いたってシンプルだ』」


俺はそう言いながらスコップを構えながら移動、首を確実に狙えるが少し離れた位置で止まり、


「『腕に刺さったダーツを抜き忘れた。それだけの小さな慢心だ』」


俺はそう言いながら右腕にスコップを持ち直し構え、そのまま…


「『オラッ!』」


ドンッ!


俺が取っ手を『時計回りに90度回し』ながら両手で構え突く。そして響く爆発音と共に…


『…!』


ズドンッ!


『本来届かない距離まで伸びたスコップ』が加速しながらモンスターの首に深々と刺さった。






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