第57話

〜12月 31日 23時45分 禁層 side 佐藤 渉〜


月夜の廃墟の都市、その広場で俺は…


「グハッ!?」


土埃を巻き込みながら吹き飛んでいた。


「くっそが!」


吹き飛ばされた衝撃で一瞬だけ意識を飛ばされたが、何とか立ち上がり武器を構える。


(おいおい、さすがに冗談だろ!?)


しかし、俺の中ではかなりの衝撃的事実に冷静さを失いかけていた。

そしてもちろん、俺の前には吹き飛ばしたモンスターがいる。そして吹き飛ばしたのは無論、狐型の龍だ。しかし…


「イメチェンしすぎだろ…」


『Gro!』


その姿は一言で言うなら『骨と白い炎でできたケンタウロス』だった。

今から2分くらい前にこのモンスターは俺との戦いの最中にも関わらすにまさかの後ろ脚で二足歩行で立ち上がった。

その姿に俺は嫌な予感がしたのでその場から全力で距離を取った、そしてある程度距離を取った時、奴の尻尾の何かの背骨が白い炎を纏いながら外れた。

そしてその炎に導かれるように周りからありとあらゆる骨が集まり、モンスターの立っている後ろ脚を馬の前足みたいな形に骨が集まり、そこからどんどん白い炎を纏った骨だけの馬の胴体が作られていく。

そしてモンスターの背中に新たな外付けの背骨が付き、両腕に鉤爪のような骨の塊が付いた。

そしてモンスターが咆哮を上げると、一気に全ての骨から白い炎が噴き出し、そのまま俺目掛けて突撃してきたのだ。

おれは急いで避けようと動いたが、あまりの速さで来たから風圧で体が吹き飛ばされてしまったのだ。

そして俺は奴のこの変化を見てこう思った。


(この世界のモンスターにも『怒り状態』があるのかよ…!)


怒り状態、それは狩りゲーにおいてモンスターが興奮している状態であり、自身の生命を脅かすと断定した外敵を全力で排除しようとしている状態とも言う。

この状態になると攻撃力や防御力が上昇したり、行動パターンや攻撃モーションも変化する。

そして大抵のモンスターは怒り状態の時に姿を変える場合が多い。故にコレを見るのも狩りゲーの醍醐味だとも言える。

しかし、それはゲームでの話だ。現実で起こったらたまったものじゃない。


『Gruru!』


俺がそう考えていたらモンスターはまた俺に攻撃を仕掛けてきた。


「クッ!?」


ビュンビュンと両腕の鉤爪ですくうように細かく攻撃を繰り出してくる。

そして…


ガキンッ


「…マジかよ」


俺が何とか隙を見て右腕に攻撃をするが骨が硬くて肉まで届かなかったのだ。


「こいつは…ヤバいな」


俺は必死に避けながら考えを巡らせる。この鉤爪から出ている白い炎、この炎は先ほどから攻撃されているのも関わらず炎からの熱を感じない。しかし、この骨が間違いなくこのモンスターの特徴でこの炎は、これ自体には攻撃力は無いと判断する。


「厄介すぎだろうが!」


しかし、この炎で先ほどまでの頭蓋骨の迫撃砲を発射していたのは事実。ゆえに、この炎は骨を操ったり骨同士をくっつけたり硬くしたりできると思う。

しかし、まさか怒り状態ので骨の武器を使うのはまだわかるがまさかケンタウロスみたいに形状変化するのはやり過ぎだと思う。


「く…どうす、


『Ga!』


え…」


パキッ


俺がどうすればいいか考えてながら避けた瞬間、左半身に強烈な衝撃が俺を襲った。そして、脇腹から軽い嫌な音も聞こえた。

俺はそのまま武器を手放して吹き飛び、転がり続けて武器とはかなり離れた所で体が止まる。

そしてそのまま、


「…グフッ!」


ビチャっと口から血を吐いた。


『Grurururu…』


意識が朦朧とする中、視界には右前足を前に振りぬいた形でこちらに唸っているモンスターが見えた。


(まさか…攻撃しながら誘導して、蹴ったのか!?)


どうやら俺は奴の誘導にはまって奴の攻撃をもろに受けてしまったらしい。

そしてその次に感じるのは胸の激痛と鉄の香り。


(嘘だろ…肋骨が折れただけではなくソレがどれかの内臓に刺さったのか…?)


多分、心臓は無事だ。だが相当ヤバい臓器に刺さっていると痛みが教えてくる。


『…』


俺はモンスターがこのまま来て俺を殺すものかと思った。

しかし、モンスターは俺を視界にとらえながら後ろに下がり始めたのだ。


『Gu!』


そしてある程度距離を取ると足を闘牛のように地面を削りながら力をため始めた。


(おいおい、突っ込んでくる気かよ…)


モンスターはどうやら俺に突撃で止めを刺す気なのだろう。そして標的になっている俺はかろうじて右腕を動かせる位で、もはやここから立つ事もできない。


(はは…視界内には俺の武器の影はない。相手は突っ込む気マンマンで俺は満身創痍…)


服のおかげで外傷はなかった。しかし体の内部でのダメージだからもはやそんな事は関係なかった。

そして俺はその場で頑張って体を仰向けの状態にし、そして俺はダンジョンの空を見た。


「し…んだ…」


月が出ている夜空を見て、かろうじて俺の口から出たのは諦めの言葉だった。

正直、今の状況は回復薬を飲んでもダメだと思った。

骨は治っても傷がついた内臓は治らないかも知れない、そんな気がしたのだ。

故に俺は諦めの言葉を言ってしまったんだと思う。


「…」


そして俺は無意識に右腕を夜空の月に向かって伸ばした。

しかし、その行動が俺にある衝撃を与えたのだ。


「き…れ…て…!?」


そう、優香さんからもらったお守りのミサンガが切れていたのだ。

そして俺の頭によぎったのはミサンガが切れる意味だった。


「!!」


俺は思いっきり歯に力を入れて急いで右腕で腰のポーチから『ある物』を取り出した。

それは『一回り大きい彼岸花が掘られたメタリックなジッポライター』。


(コレはマジで俺の最後の手段だ、間違いなくこれなら今の状況を覆せる!だが…)


俺はそう思いながらライターの蓋を開ける。


(もし、相手の手札がまだあった場合は間違いなく死ぬだろう。しかし、俺には選択肢が無い!)


そして俺は火を付ける動作でヤスリを回転させながらボタンを押す。

しかし、本来火が出る所からは火は出なかった。代わりに『赤黒い氷柱のような針』が飛び出してきたのだ。


(もうコレしか無いんだ!なら、やるしかないだろ!?)


そして俺は…



















「『人……体……総……変異』!!」


今の俺が言える限界の声でそう力強く叫ぶと


グサッ


それを首に刺した。

そして、俺は冷たくなる感覚と共に意識を失った。

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