第56話

「…」


ウィーン


「うむ、話の途中に閉めるのは非常識で無いかな?」ガシッ


俺はガラス窓を開けたのを若干後悔しながら窓を閉めようとしたが、何故かマッチョがガラス窓を掴んで止めてきた。



「健ちゃん、流石に言葉を端折りすぎだよ〜♪」


「きゃっきゃっ♪」


そして何故か後ろの外国人女性は浮きながら赤ちゃんも浮かせて、ゆっくりとした速度で横回転させながらあやしている。

何だこの状況は?


「…お父さん、この人達は大丈夫。別に悪い人じゃないよ」


俺が固まっているといつの間にか伊達メガネを取り、彼らを裸眼で見ていた優香がそう言ってきた。

優香が大丈夫と言うのなら間違いなくこの人達は悪意がないのだろう。


「…如月、車を寄せて止まってくれ」


「わかりました」


俺は優香の言う事を信じて、如月に車を止めるように言った。

そして如月はキチンと車を止めてくれて、俺と優香と雄二さんは車を降りた。


「んで、お前らは誰だ?」


俺は2人の前に出て、この人達に問いを投げた。


「うむ、私は田中健吾。秋葉原で喫茶『月の兎』を経営しているただの一児のファーザーだ!」ビシッ


「私は田中アンジー、健ちゃんのお嫁さんでこの子は私達のベイビーの春ちゃんだよ♪」


「ア〜」


どうやらこの2人は夫婦らしい。


「そして、声をかけた理由はそこの男性が悲しんでいると筋肉が教えてくれたからだ!」バシッ


「…筋肉?」 


いや、流石にぶっ飛びすぎている理由だと思う。


「もう、健ちゃんたら〜♪

…えっとね、健ちゃんは筋肉と対話できるスキルを持っているから筋肉が悲しんでいるとついお節介をかけちゃうんだ。後、もう一つ理由があってね…」


奥さんが何か意味不明なスキルの説明をしだしたと思ったら、いきなり赤ん坊と一緒に雄二さんの前に浮きなら近づき…


「あなた、佐藤渉ちゃんのお父さんだよね♪」


「あぅあ〜」


「え!?」


雄二さんに対してまさかの言葉を言ったのだ。


「その筋肉の反応、やはりな!

ならば常連客兼良き友人としてコレは見過ごせないな、マイワイフ!」ババッ


「うん、間違いないね♪」


「きゃっきゃっ♪」


雄二さんのセリフに旦那さんの方がポーズを決めながら嫁さんに問い、嫁さんもまるで水の中でターンを決めるように空中でターンを決めて赤ん坊と一緒に旦那さんの後ろに戻った。


「あの、すみません。話が見えないんですが…」


俺が唖然としていると雄二さんが代わりに2人に問いを投げてくれた。


「うむ、実は渉少年と私達は友人でしてね、力をお貸ししたいのですよ。そして、私のマイワイフはジョブが『超能力者』でな。人や物を浮かせて運べるのだ!」ガバッ


「だから、車ごとは流石に無理だけど貴方達3人だったら私達と一緒に浮かせられる♪

私達も今、旧歌舞伎座を目指しているから一緒に行かないかって誘いをかけようとしてたんだ♪」


「…ッ、それは本当か!?」


まさかの誘いに俺は声を上げた。

確かに俺は元々、車から降りて徒歩で旧歌舞伎座にむかおうとしていた。

しかし、人混みなどで到着が難しいかもしれないし、雄二さんや優香とはぐれたら一大事だとも考えていた。

だが,浮いていけるのであれば話は違う。人混みを気にせず、はぐれもしない。

ただ、浮いて移動すると非常に目立ってしまうだろう。しかし、この事態を考えるとそんな事は言ってられない。

俺はこの話に乗ると決めた。

なら、まずやる事は決まっている。俺はスグに車の助手席のドアを開けた。


「如月、俺たちはこの人達と旧歌舞伎座に向かう。

お前はこのまま車で雄二さんのマンションに戻れ。個人情報の特定が始まった以上、もしかしたら雄二さんのマンションに突撃をかましてくる馬鹿野郎がいるかも知れないからな!」


個人情報の特定が始まったと気が付いた時からコレだけは心配していた。もし雄二さんのマンションに悪戯や泥棒など、何か最悪な事をやられては最悪雄二さんたちはあの家に住めなくなる。それだけは回避しなければならなかったからだ。


「わかりました。では、ギルドにもこの旨のお話をして応援をもらえるように要請をしながら向かいます。旦那様、ご武運を。」


如月はそう言うと車を操作してまた渋滞に戻っていった。


(頼んだぞ。如月!)


アイツとの付き合いは長い、だからこそ信頼できる。

故にこの件は如月に任せて、俺は田中さん夫婦に向き直る。


「すまねえ、待たせた」


「いえ、大丈夫ですよ」ビシッ


俺が頭を下げて言うと旦那さんの方がポーズを決めながら答えてくれた。


「それじゃ、早速行くよ!

浮いている時は水に入っている感覚に近いけど体を動かすのは私だから、余り暴れないでね♪」


そして奥さんがそう言うと不意に足元から浮き始め、大体周りの人の身長に頭5つ分くらい高く浮くとそこで止まった。

そして案の定、浮いている俺たちに周りの人の視線が刺さる。


「んじゃ、レッツゴー♪」


「あ〜♪」


彼女がそう言うと俺の意思とは別に力が働いているのかのように浮いた体が移動を始めた。


「渉…待っていてくれ…」


雄二さんがそう言いながらまたスマホの準備を始めた。


「…頼む、間に合ってくれよ」


そして俺は中に浮きながら、あの子が帰ってくるであろう旧歌舞伎座に、雄二さんを立ち合わせられりか心配してそう呟いた。






















「…因みに、健吾さん。何であんたは話すたびにポーズを取るんだ?」


「興奮すると出る癖です!」フンッ


俺の素朴な質問に健吾さんがポーズを取りながら答えてくれた。

なるほど、コレは考えたら負けな奴だ。なら、気にしないようにしよう。


「あの、もし良かったらお店で渉さんが何をよく頼むのか教えてもらえれば…」


「え、何何?恋バナ?恋バナ!?大好物です!」


「うぇ!?…べっ別にそう言う話じゃ…」


女性達は女性達で何か話しているが、気にしないようにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る