第52話

『闘技放送』がまさか旧歌舞伎座で起こるとは…つまり、


「生きていたのか…!?」


俺は驚愕した。あの子…いや、彼は生きていたのだ。つまりこのドックタグと手帳は今日、禁層に挑むから俺たちに少しでもダンジョンの情報を渡す為にワザとダンジョンに捨てて排出させたという事だ。


「私、貴方なら生きているって信じていました」


優香が隣でそう呟いていた。そして映像はどんどん建物に入っていき、そして舞台の上のポータルの前で止まる。

そして画面が暗転、次に映し出されたのは…


「滅びた都市…なのか?」


月明かりに照らされた古びた都市、そう言うしかない。そこら辺に瓦礫と化した建物がありそして町の中心部は何故か無駄に円形状に綺麗に整備されている。

そして画面がどんどん引いていく、そして都市の外壁、出入り口、石橋の順に映り、最後に都市の全体が見える丘が映る。

そしてその丘に彼は居た。


『…』


「渉!?」


「おいおい、なんだその装備!最初とは全然違うじゃねえか!?しかも何だ、近くにある『布がかぶっている物は』!?」


雄二さんは息子が生きていた事に驚き、俺は着ている装備や彼の周りに置いてある物に驚愕する。

最初に見た装備は正しくアメリカとかの軍人さんって感じの装備だった。

しかし今の彼の装備は一言で言うなら和風軍服、ベルトが改造され大小様々なポーチが付いているズボンに黒い軍用ブーツ、上着は細部まで作りこまれた和服要素を入れた軍服に両手に黒の指ぬきグローブに右腕の手首にボロボロで千切れかけている見覚えあるミサンガ、そして頭に此方も細部まで作りこまれた制帽。

ハッキリ言おう、ここまで作りこまれた服はなかなかお目にかかれない。しかし防御力が皆無なように見える。

そして後ろの物は布が掛っているため中身が確認できないが彼の下半身ぐらいまでの大きさでどこかで見覚えがあるシルエットをしていた。


「渉さん…本気、なんですね」


優香は言ったその言葉に俺は引っ掛かりを覚えた。


「優香、何を知っていた!教えろ!!」


俺はテレビ画面から目を離さずに大声で叫ぶ。優香は何か途轍もない事を知っている、そう直感したのだ。


『…うし、到着したな。んじゃ』


そう言いながら彼は後ろを向いて物にかかっている布に手をかける。


「お父さん、黙っていてごめんなさい。でも私、彼を私みたいな不幸な目には合わせたくはなかったの。だって彼…」


優香の言葉に耳を傾けながら俺は彼の行動を見落とさないようにする。そして彼が勢いよく布を剥がすと同時に、


「私と同じ、『Errorスキル』を持っていたんだから」


優香からとんでもない言葉が飛び出した。


『いっちょ派手にいきますか!』


バサッ















「な……バ…『バイク』だと!?」


布の中身は見慣れない小型のスポーツバイク、色は明るい黄緑色に黒の恐竜のような絵がプリントされていて、後ろに横長のアタッシュケースがベルトで取り付けられている。


「渉、血迷ったのか!?ダンジョンでは乗り物は動かないんだぞ!?」


雄二さんが俺の言いたかった事を口にした。

そう、ダンジョンでは乗り物が動かない、自転車すら動かない。何故なら殺傷能力があるとダンジョンに判断されているからだ。それゆえに日々世界中の技術者がダンジョンの移動用の乗り物に関して色々と頑張っているのが現状。

そして『闘技放送』で放送されて生き残っていられた時間は最大で5分くらい。下手したら1分で死ぬ。だが、彼は小型バイクを持ちこんだ、絶対に動くことはないのにだ。つまりこの状況は自殺行為に他ならない。


『さて、確かここを…』


「大丈夫だよお父さん」


優香が俺の腕を握ってくる。だが俺は画面に釘付けだった。そしてあの子はバイクにまたがりブレーキを握る、そして右のハンドルの所にある赤いボタンを親指で、


『こうだったかな?』


押した。




ドルンッ、ドルンッ、ドルンッ、ドドドドドドドドド・・・




『お、よし。動いた』


「…はは、マジかよ…」


エンジンが、動いた。バイクのライトが光り、後ろのマフラーからは『赤く光る粒子を含む白煙』が出ている。

つまり彼は人類が求めていた移動手段…いや、ダンジョンで動く殺傷能力のある機械を生み出したという事だ。


『…あ、なるほど。そこにいるのか。んじゃ』


俺が驚愕の顔をしていたが画面の彼は何かを見つけたような顔をして目を細める。そしてゆっくりとハンドルを回していく。


『狩りに行きますか!』


ガリガリガリ…ブロロロロロ…


彼はその後、一気にハンドルを回して急発進して丘を降りだした。そしてその数秒後、


ドカーンッ


彼の居た位置に砲弾のような何かが降ってきた。

そしてその一撃を避けた彼を見た瞬間、俺は動いた。


「…優香、如月に車のエンジンをかけろと電話を入れろ!後、さっきの話は車で聞くからな!」


「うん!」


俺がそう言うと優香は俺の腕から手を放し、スマホを取り出して電話をかけ始める。そして俺は雄二さんの両肩を掴み、力ずくで正面を向かせる。


「雄二さん、行くぞ!」


俺が無理やり目線を合わせて叫ぶように言う。しかし雄二さんは困惑顔だ。


「え…どっ何処にですか!?」


「そんなの決まってんだろ?」


無理やりひねり出した言葉に俺は口角を上げて答える。


「あんたの息子が帰ってくる所、旧歌舞伎座だよ!」



~~~~~~~~


その日、全人類は驚愕した。

ある者はテレビに映る自分の友人がしている行動に興奮しながら他の友人と連絡を取り。

ある者は隣に自分の嫁と生まれた子供がいる状態で某デパート内のデジタルサイネージに映る映像にモストマスキュラーのポーズを取りながら興奮して服をはじけ飛ばし。

ある者はパソコンで驚愕した顔を浮かべながら視聴者から送られて来た大量のビーフジャーキーの食べかけを床に落とした。

そしてのちに人々はこの日の事をこう言った。

「我々の常識が、壊された日」だと。

そして人々は誰も示し合わせていないのに、配信された場所を目指し行動しだしたのだった。




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