第51話

~~12月 31日 21時50分 佐藤家 リビング side 大神 大吾~~


「…落ち着いたかい?」


俺は今、優香と一緒にあの子の自宅マンションにお邪魔させてもらっている。

俺達は毎年の用事のために今の格好はお互い着物を着てはいるが今は少し後悔している、何故なら今はそんな事をやっている場合ではないからだ。

理由は今日の夕方に『ある事情』が起こってしまい、無理やり予定を変更してこの家に来なくていけなかったからである。

その理由と言うが、


「…はい、落ち着きました。ありがとうございます」


今、目の前にいる人物『佐藤 雄二』さんに息子さんの訃報を告げなくちゃいけなくなったからだ。そして俺たちが座っている椅子の前ある机には『ボロボロのドックタグ』と『最重要の情報が手書きで書かれていた手帳』が置いてあった。

事の発端は今日の夕方、旧歌舞伎座ダンジョンから『ある物』が転移されたのをギルドの職員が確認した所から始まった。

その物体は、何故かコンビニのビニール袋にまとめていれられていて、中身を確認した職員が、それは職員がその場で悲鳴を上げるほどの品物だった。

中には持ち物確認する際に職員が確認していない手帳と生存確認用のドックタグ。

ドックタグは問題なかったが手帳とビニール袋が問題だった。本来ギルド職員が確認していない物を持ち込むのは禁止されている。

何故なら昔、ダンジョン内で麻薬取引などの犯罪行為が横行したからだ。故に国が法整備をして今のルールが生まれた。

しかも、ただの確認不足ならまだ彼が帰ってきたら厳重注意で終わる話だが、手帳が一番ヤバかった。なぜなら特殊ダンジョンの浅層~深層までの詳細な地図と情報が滅茶苦茶詰まっていたとんでもない物だった。

故に俺に一報が届くころには旧歌舞伎座に大量のギルド職員が入って、阿鼻叫喚と言う感じだったからだ。


(ま、無理もないか…さすがに一人息子を失えばな…)


混乱がおさまった後、俺と職員が話し合ってあの子は深層で死亡したと判定をだした。理由としてドックタグがダンジョンから排出された時点で死亡と判定されるからだ。しかし大晦日ともあり、正式な死亡手続きは来年に持ち越しする事をお互いの話し合いにて決定し、あの子の実家に訃報を伝えに来て今の状況になったと言う事だ。


「すまねぇな…大晦日なのにこんなつらい事を…」


「大丈夫です、あの子が決めた事なので…」


あの子の父親である雄二さんは最初こそ号泣していたが、今は落ち着いた感じだ。あの子の父親らしい、強い父親だ。


「すみません…少しだけ愚痴らせてください…」


そう言うと雄二さんはぽつぽつと話し出す。

どうやら雄二さんはシングルファーザーで家族はあの子だけだったようだ。そしてあの子の母親はあの子を産んで2週間後に亡くなったらしい。


「死因は人身売買しようと赤ん坊の誘拐していた犯人からあの子を守るために抵抗したのが原因です」


本来、5歳になるまで正確なジョブやスキルは分からない、故に赤ん坊の状態からまるでガチャを引く感覚で闇で人身売買されている。

あの子を誘拐しようとしたのはそんな人身売買をしようとする借金まみれの看護婦長だったらしい、自分の立場を利用してすでに20人くらい闇に赤ん坊を流していたそうだ。


「私が警察から連絡があり、急いで現場に駆け付けた時にはもう渉と犯人以外は生きていませんでした…」


そう言うと雄二さんは顔を下に向ける。

当時、あの子を誘拐しようと個室に侵入した犯人と子を守る母親で取っ組み合いが発生。その際に看護婦長が隠し持っていたメスで母親を何回も刺していたらしい、しかし母親も負けじと枕元にあった本と目覚まし時計で応戦。結果は犯人は気絶、母親は最後に赤ん坊を抱きながら冷たくなっていたそうだ。


「私はあの後の事は余り覚えていません、気が付いたら5日も経過していました」


そう言うと彼が顔を上げる、その眼には光が無かった。


「今もそうですが、ひどい日々でした。自分の家族や親族には慰められましたが、母親の方の家族や親族が私を責めましてね。本当につらい日々ですよ」


どうやら母親の方の家族や親族は今も雄二さんをこの事で責めているらしく、理由として『もう少しあの子の傍にいてあげられたらあの子は助かった』が大体の言い分らしい。


「でも…あの子が…渉がいたから私は頑張れました」


そう言う雄二さんの目線は持ってきた品物に向けられる。


「あの子の為に慣れない家事や仕事も苦じゃありませんでした」


雄二さんはそう言いながら手帳に手を伸ばす。


「そして数年前に本社に転勤になり、今日まであの子の為に頑張ってきました。そして中学に入学する時にあの子がダンジョンに行きたいって言いだした時には初めて本気で怒ったんです」


そう言いながら手帳をその場で開き、ページをめくっていく。そしてその時の顔はまた泣きそうな顔だった。


「でも、多分あの時に私があの子の意見を認めたからこれがあるんですよね?あの子が2週間も頑張って戦ったからこれがあるんですよね?」


そして雄二さんは俺に泣きそうな顔を向けて聞いてきた。


「ああ、間違いない。あの子はやってくれたさ…すごい息子さんだよ、あんたの子は」


俺の言葉に目から涙を流し始めた雄二さん。

事実この情報はもはや国家ですら喉から手が出るほど欲しい物だ。

浅層の喧嘩祭りから始まり、中層の理不尽な海での運試しと約30キロの危険な海渡り、そして最後の深層の理不尽な仕様。深層に関しては職員が深層で364日過ごさないと禁層に行けないと判断した位に酷い情報で、このすべての詳細な情報に加え精巧な地図付きでこの手帳に全てがまとめられているのだ。

恐らく日本だけではなく、他国でも欲しいと言うだろう。


「だから、今回の依頼報酬はあんたが決めてくれ。受けたのはあの子だがコレだけの情報だ。それくらいしか出来ないがうけと…


「…お父さん。やっぱり変だよ」


…どうした優香?」


俺は今回この依頼の報酬を受け取るのは父親だと思い、俺がその話をしようとした時に、優香が俺の声を遮った。


「お父さん、多分私たちは勘違いしているんだと思う。だって…」


そのセリフを雄二さんも聞いていたのか俺と同じく優香の行動をしっかりと捉える。そして優香が開いていた手帳の一文を指さす。


「【年の終わり、亥の刻 夜四つの時のみ道は開く。】って、確か職員さんは深層で364日まで待たないとダメだって事だと言っていたよね?それって本当はダンジョンの深層で大晦日まで過ごしながら待てって意味じゃないのかな?」


俺と雄二さんはハッとお互い驚愕した表情で向き合う。

そして視界の端にあったテレビが…


……ジジッ…


電源を入れていないのに勝手に電源が入り、砂嵐を映し出す。

そして次に映ったのは…


「そんな、まさか!?」


「おいおい、嘘だろ!?」


「…やっぱり…そうなんですね。渉さん」


旧歌舞伎座だった。











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