第50話
〜〜12月 29日〜〜
「なるほど、確定した。拠点はポータルと帰還用ポータルだけで展開できるわ」
取り敢えずあの後、掛け軸の文字を確かめるべく俺は神社の外に向かい、そして出入り口である鳥居の真ん中に帰還用ポータルを確認した。
その後、そのポータルの近くで拠点を展開。次の日まで寝てから今いる階層の調査をして、調査の休憩がてら今まで検証できなかった事を確かめて今に至るわけである。
「これはかなり助かるな」
幾何学模様のある部屋の壁の一角で展開されている拠点を見ながら俺は笑顔になった。
元々俺は前から帰還用ポータルでしか拠点を展開していなかった為、もう一つのポータルで展開できるか知らなかったのである。そしてこの神社はポータル同士の距離が近いのを利用して今回の実験をしたのだ。
結果は成功、無事両方のポータルで拠点の展開ができるのを確認した。これで今回みたいな長期のダンジョン調査の依頼とかに必要な『衣食住』の確保がポータルの位置を把握することで確定で出来る、これは本当にすごい事だ。
故に、この問題はこれで大満足な結果で終わった。しかし、俺は今直近の問題を解決しなければならない。
「この階層は神社だけ…ま、中層よりはマシだが…」
調査した結果、この深層の陸地は今いる神社だけ。鳥居の外は断崖絶壁で下が見えない位の深さだ。
そして境内の中には見た光景以外にも水が枯れていない井戸や古いがトイレも確認した。だが、相変わらず食べ物や服になりそうな物は確認できなかった。そして境内の鳥居以外から落ちないように石垣があった。
そして一番の問題は、
「これだよな…」
俺はそう言いながら近くにある掛け軸に目線を移す。
「【年の終わり、亥の刻 夜四つの時のみ道は開く。覚悟なき者、境内から立ち去るが吉】とか、ここまで酷い拒絶は初めて見た」
確か学校の歴史の教師が授業中に雑学として話していたが、昔の日本は時間を干支と鐘の音の数で表現していたらしい。
そして『亥の刻』は確か午後21~23時、『夜四つ 』は確か22時頃の意味のはずだ。
そして最後の『年の終わり』、多分これはそのままの意味だと思う。つまりこの分の意味はこうだ。
「『大晦日の22時ごろしか禁層に行けないよ。それが待てない人は帰ってね』とかヤバすぎだろ」
つまりこのダンジョンの構成はこうだ。
最初にあの喧嘩祭りで装備の軽量化を強要させて荷物を減らさせる。
次に中層で荷物を更に減らさせ、肉体的にも精神的にも疲弊させる。
そして最後に深層でまさかの『大晦日の夜まで待ってね♡、待てないなら帰れ』と言う心を折りにくる仕様。
シンプルに言って最悪な仕様だ、これ以上無いほどに。
俺みたいなスキルで『衣食住』を自前で用意できる奴しかこのダンジョンは攻略できない。しかも俺だって中層でもっと時間をかけてしまい、もし1月にでも深層に到達しようモノなら最大364日間を深層で待たないといけなくなる。
「こんなの完全に運じゃん、理不尽すぎる」
俺はその場で頭を抱える。
俺でもかなり運が必要なこのダンジョンの事実、故にこの事実を持って帰って報告するべきだとも考えた。
今回の依頼はあくまで『調査』、『攻略』ではない。既に拠点で昨日までの情報を事前に買っておいた手帳に書き込んでいる。『地図』のスキルもあるのでキチンとした地図も書いたもはや攻略本みたいな物をだ。だから報酬も言い値だからかなりの無茶でも貰えるはずだ。
…しかし、俺は帰りたくなかった。何故なら、
「大吾さんの夢、叶えてあげたいよな。例えダンジョンの消失の情報が確定じゃなかったとしても、夢を叶えるのに一生懸命な人を俺は応援したいからな」
あの人は言った、自分の夢は『愚かな夢』だと言っていた。
だけど俺にとっては別に愚かでもないと思う。
あの人の夢は自分の為じゃない、『今の歌舞伎座の土地を返して今までの恩返しをしたい』なんて誰でも考えれる事じゃない。
しかも手に入れた確定していない情報の事を信じ、その為に自分の持てる全てを使って行動しているなんてそんな事は俺でもできない。
しかし、あの人はそれをしている。その『愚かな夢』の為に一生懸命なのだ、なら夢は違えど俺も夢を追いかける一人としてその夢を叶えたい。
…なら、やることは1つしかない。
「大晦日…いいだろう。行ってやるよ、そしてそこで狩ってやる」
十中八九、『闘技放送』で俺の行動は世界中で筒抜けだ。
もし回復薬αや『people's redemption 』の『稼働機構』の武器や装備などの道具がバレたら今まで厄介ごとを避ける為に隠していた事が無駄になる。
だが俺は、
「…いいね、折角だ。バレるならいっそ派手に行こう」
俺はそう言うとその場で立ち上がる。
残り2日で全ての準備を終わらして、必ず禁層を攻略する。その過程でバレるならいっそ派手にやらかしてしまおうと思った、今の俺の全力をそんな理由で出さないで死ぬのは俺的にも流石に嫌だからだ。
故に俺は建物の外に向かって歩く、その足に迷いはない。
「保険として『禁層専用の武器と防具』を作っておいて正解だった。『アレ』もきちんと整備しよう…んで」
そして、俺はそう言いながらポーチから『四角い小さな物』を取り出した。
「『最終兵器』…これは試運転はしていない、だから試さなといけないよな」
そう言いながら俺は外に出る。そしてなるべく被害が少なそうな所に移動した。
『最終兵器』はこのダンジョンの中層、つまりあの11日の間に制作した文字道りの切り札だ。
俺が12月17日までにどうしてもできなかった事があのスライムが解決してくれた為、がんばって時間を作って製作したのだ。
しかし急造品の為、試運転もしていない。故に今からしようと考えたのだ。
そして来たのは境内の外れ、桜の木と石垣しかないこの位置なら全ての建造物に被害が出ないと調査の段階で判断したからだ。
「んじゃ、さっそくやりますか!」
そして俺は『最終兵器』を起動する、そして俺は…
~~数分後~~
グビッグビッグビッ…
バキバキバキバキバキバキ…
「やらかした」
俺は懐に入れていたスキットルの中の回復薬αを飲み干す。
「試運転は成功、効果も十分。しかし反動が大きいな」
俺はそう言うと足元を見る、そこにはまだ乾いていない血痕があった。
「まさか血を吐くとは…でもいいか。そこら辺は今後の課題としよう。今はこれに外装を付けて耐久性の強化を…」
俺はそう言いながらその場から立ち、歩き出す。そして俺が立ち去った後の光景は『何もなかった』。
俺の居た場所を中心にサクラの木も、石垣も無い。そして境内には至る所に大小様々な桜の木と石垣の残骸が散らばっている。
「さて忙しくなるぞ~!」
そんな惨状を背に、俺は拠点を展開して中に入っていった。
―――――――――――――――――――
どうも、作者です。ここまで読んでいだだき、誠にありがとうございます。
ようやくこの章も佳境に入りました、実の所ここまで長くするつもりはなかったんですが何故が書いているうちに長くなってしましました。
そして、皆様に謝罪させてもらいます。本当に準備期間の話が長くなってしまい申し訳ありません。
そして様々な人からの誤字や脱字などの報告や応援コメントをいただき大変感謝しております。
もしよろしければ今後も誤字や脱字などがありましたら是非教えて下さると本当に助かります。
その場合は確認次第、スグに直していきますのでよろしくお願いします。
では、こんな作品ではありますが今後ともよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます