第49話

〜〜12月 28日 Pm 6時頃〜〜



ザザーン



「ようやく当たりを引けた…、11日もかかるとは予想外だった」


あれから5日、俺は死に物狂いで頑張ってようやく今日、当たりの島に着いた。

今の俺は体はもちろん傷だらけ、装備もボロボロで、もはや完全に防御力が皆無だ。そして左手には謎の白い布が握られている


「はっきり言おう、今日は一番精神的にきた」


オジサンと言われる魚がいる。今日、主に俺を襲撃してきたのはその魚みたいなモンスターだ。

ただ、このモンスターは他のモンスターみたいにその姿のまま大きくなった姿じゃない、このモンスターはまさかの顔面サイズの大きさで体の下にムキムキの成人男性の体を生やしているのだ。しかも何故か白色の褌のみ着用、正に変態だった。


「…」


思い出しただけでも寒気がする。まさか海底を全力疾走で走ってきて海の壁をガラスを破るかの如くジャンプして貫通、そのまま道に出てきて俺を追いかけてきたのだ。

更に逃げていると事態は悪化、海から次々とオジサンみたいな変態モンスターが出るわ出るわ。もはや軍隊並に足並みを揃えて俺を追いかけてくる。しかもあいつらご丁寧に他に集まったモンスターをいちいち海に戻って殴り倒してから戻ってくるので更に怖かった。


「…取り敢えず風呂だ。あと夕飯と代わりの防具を装備しよう」


俺はそう言いながら白い布を握りしめる。コレはここにくる約200メートル地点で飛びかかってきたオジサンみたいなモンスターを避けた時に、偶然左腕で引っ張ってしまったらしく褌が外れてしまった。

その個体は外れた瞬間に内股になり、両腕で隠さなくちゃいけない所を隠した。そして着地してスグに海に戻り海底を逃げるように全力疾走していった。どうやらコレがあの魚?モンスターの撃退法らしい。


「この褌、どうしよう…?」


俺は当たりの島に来た達成感よりも褌の処理に困ってしまっていた。

そしてそう思いながら俺は夕日を見る、多分俺の顔は今めちゃくちゃ渋い顔をしているのだけは理解できた。



〜〜PM 10時頃〜〜


「よし、準備完了」


俺は取り敢えず褌を拠点に持ち帰って検査がてら保管する事にした。

そして今は諸々の用事を済まして、拠点に置いていた探索者シリーズパターンαとククリナイフを装備して再度拠点の前に来た。

アーノルド軍曹装備一式は流石にもう廃棄しないとダメなくらいダメージが酷かった為の緊急処置だ。


「ま、あの装備は守る物は守り抜いたから役目は果たしたと言えるな」


俺はそう言うと首のボロボロのドックタグと腕の千切れそうなミサンガを見る。

主にハリセンボンのせいだが、二つともかなりのダメージを受けてしまっていた。しかし何とかアーノルド軍曹装備が守ってくれたらしく今もキチンと装備できている。

あの装備は今後、再利用して別のものにするつもりだ。


「装備も武器もキチンと確認して…問題なし。んじゃ…」


俺は自身の装備と武器を隅々まで確認した。次はいよいよ深層、もしかしたらアメリカの特殊ダンジョンみたいに硫酸湖に落とされる可能性もある。気を引き締めていかねばならない。


「行きますか」


俺は警戒を怠らすにポータルに乗る。そしてまた、俺を浮遊感が襲った。



~~12月 28日 深層~~



「………意識はあるな」


俺はまた目を閉じていた、おそらくダンジョンはポータルで階層を移動した時、無意識に目を閉じてしまうのかもしれない。

俺はそう理解するとゆっくりと目を開ける。そして目の前に見えた光景は…


「…え、ここは建物の中か?」


そう、建物の中だ。そして俺の目の前には障子がある。


「…」


俺は更に警戒しながら障子を開ける。


「…神社?」


そう、目の前には賽銭箱に狐の石像。そして見える限り季節外れの桜が咲いていて何故か薄く光っている。月は普段よりも大きく、周りを明るく照らしている。

そして俺は今いる部屋の中を確認すべく振り向く。


「…え?」


そして俺は絶句した。何故なら、


「ポータル?」


そう、ポータルがあったのだ。しかも帰還用ポータルではない、階層を降りる幾何学的模様の方のポータルだ。しかし、俺は違和感に気が付く。


「あれ?何でポータルの上にいたのに俺は禁層に行ってないんだ?」


そう、基本ポータルの真ん中に居れば自動で転移される、目算だが俺が目を開けた地点は丁度幾何学的模様の真ん中あたり、ならこの階層に来てスグに禁層に飛ばされるのが普通だ。なのに俺は転移していない。


「…!?」


俺はしっかりと部屋の中を見た、そして部屋の掛け軸に気が付き絶句する。その掛け軸に書いてあったのは…



【年の終わり、亥の刻 夜四つの時のみ道は開く。覚悟なき者、境内から立ち去るが吉】


まさかのシンプルな拒絶だった。





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