第48話
ジュワジュワジュワ
「…」
両腕を包み込んでいたスライムの粘液が炭酸水みたいに大量に泡を出して揺れ動く。しかし俺は焦らない。
何故なら痛くも、暑くも無い。そして俺はこのスライムの粘液を採取して拠点で調べたから何をしているのか知っているからだ。
そもそもポータルの中に入れるのは人と友好的なモンスターだけ、つまりこのスライムは別に危険生もなく故意に俺を攻撃しているわけでは無い。
なら、何をしているのか?それは…
プチュン
「うわぁ、分かっていた事だけどスゲェな。回復薬並じゃん」
独特な音を立ててスライムが粘液を腕から引き抜く、そして腕はキズがまるで最初から無かったかのように綺麗に治っていた。
このスライムには名前が無い、完全に新種のモンスターで主食が生き物の血だ。
しかしこのモンスターの最大の特徴は特殊な粘液、この粘液は血を採取するとその生き物のDNAを元に、粘液自体がその細胞に変化し傷口を細胞レベルで再構築しまうのだ。つまり生きている回復薬なのだ。
そしてこの粘液は少しでも電気を流せば無限に増えるし、逆に電気のエネルギーを使い切れば元の質量に戻る特性がある。
伸縮自在どころか質量変化も思い通りだ、欠点として傷口から血が垂れていないとスライム自体が傷に反応しない。
現にスライムは俺の腕だけを治して離れていってしまった。
「サービス悪いな…」
しかし、治してもらえたので文句は言えない。それにあのスライムの粘液は『俺が17日までに作りきれなかった最終兵器』の最後のピース、出会えただけでも感謝に尽きる。
そして俺は残りの傷を治す為に急いで拠点を出して回復薬αの所に急いだ。
〜〜PM 8時頃〜〜
「はあ、家の飯が恋しい」
俺はそう言いながらカップ麺にキャンプ用のガスコンロで沸かしたお湯をいれる。
取り敢えず体は何とかなったが装備がボロボロになってしまった、作った俺の見立てだと治すのに半日はいる。疲労の回復も兼ねて明日は完全に休憩が確定した。
「は〜、あの時あのハリセンボンが自爆する前に走り抜けてたら、装備が穴だらけにならないのに…そもそも、俺の身体能力はこの世界でも平均より上くらいなんだよな」
俺はカップ麺を箸と一緒にソファーの所まで運びながら皮肉っぽく呟く。
この世界の人間はダンジョンがあるせいか全体的に身体能力が高い、今の俺がやっている約30kmの休憩ありの海渡りも全員とは言わないがかなりの人ができるはずだ。だってこの世界のフルマラソンを普通に小学生の運動会の目玉競技として入れている位だ。しかも道が舗装されているとはいえ、ほんの7時間で参加した全員帰って来る辺り本当におかしい。一体どれだけ運動神経とスタミナがあるんだと思う。
「しかも、身体能力はジョブやスキルでいくらでも強化できる。それが無い俺なんて筋トレで頑張ってつけたものだから正直、成長の限界が見えてきたんだよね」
ジョブやスキルの構成次第で限界以上の身体能力だって簡単に手に入る。田中さんや暴食龍姫がまさにそれだ。
「…ま、それでもこの中層は攻略不可能だよな」
俺はそう言いながらソファーに座り、机にご飯一式を置く。
この中層、ただ身体能力が高い事や激レアなスキルやジョブがあるとかの前にかなり重要な問題があるのだ。それは…
「だって、ここ食料どころか飲み水すら無いもんな。あと休もうとしても風を防ぐ所も無いし」
そう、中層は『衣食住』の確保ができない。
この階層の全ての島が同じ構造だから最初の島の景色が全てなのだ。川が無いから飲み水の確保が難しいし、海水を沸かして飲み水を確保しようと火を起こそうにも芝生しかない。当然芝生しかないから次の朝まで寝ようとしても風や日差しを遮る物も無い。
そして食料は確かにモンスターを狩ればいいが戦える場所があの道以外ない、つまりあの迫りくるモンスターや海水から逃げつつ食料確保は絶望的だ、食料の分重くなったらモンスターの攻撃を避けにくいし海水に追いつかれる。
そしてそんな事をしようもんなら装備が摩耗する事は想像に難くない。
つまりこの階層は運が無いと大体3日くらいで帰還するであろう構造をしているのだ。
「俺は事前に食料と飲料水とか様々な日用品を30日分用意してきたからまだ耐えている感じだもんな。装備の修理や暖かい寝床やドラム缶風呂もあるから本当にこのスキルが無いとこの階層はマジで浅層より地獄だよホント」
もし大量に物を持参して持ってこようとしたら恐らくあの祭りでほとんど壊れるか身動きが取れなくて死亡してしまう。
仮に無事に中層まで持ってこられたとしてもポータルは中央に来た道の島にはポータルを転移しない事を考えればただの荷物とかす、持っていこうもんならモンスターか海水の餌食だ。つまり置いてくかそのまま帰るかの2択しかない。
こう考えるとかなり計算されている、故にここは浅層よりも地獄だと思う。
しかし、そう俺は言うが俺も俺で田中さんがもしあの時にお金を受け取っていたらお金が無いのでこんなにも用意ができなかっただろう。
本当にあの人には頭が上がらない。
「…あ。ヤバい、ご飯を忘れてた!?」
考えすぎてて時間を計り忘れていた俺は、そう言うと急いでカップ麺に手を伸ばし蓋を開ける。
「Oh…フライ麵だから汁をめちゃくちゃ吸ってら…」
蓋を開けた俺の目に映るのは容器の中が完全に麺しか見えない光景。俺は知っている、前の世界でこれと同じ事を何回もした。因みに原因は狩りゲーだ。
「最後の醤油味だったんだがな…」
袋麺ではまだ醬油味はあるがカップ麺ではこれが最後の1個、本当にやってしまった。
「風呂も入りたいし、仕方がない。いただきます」
俺はそう言うと勢いよく麺を啜る。『俺はこの中層に後何日いるのだろうか?』と思いながら。
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