第43話
~12月 17日~
「渉様、もうすぐ到着いたします。ご用意ください」
「…ありがとうございます。如月さん」
今、俺は大神さんの家の使用人である如月さんに車に乗せてもらって目的地に向かっている。
如月さん曰く「旦那様が、貴方様に無駄な体力を使わせるな」と言う計らいらしい。
(…中学校にギルドから特例休暇の申請を出してもらって良かった。下手したら高校受験に響くからな…)
俺はそう言いながら手荷物を確認していた。
この世界の中・高の学校はダンジョンに長期滞在する際に申請を出せば最大10日の内申に響かない特別な休暇が貰える制度がある。しかしそれにはかなり厳しい審査が必要なのだが、今回はギルドにその申請を代わりにしてもらったので何とか審査が通った。
そのため俺は冬休みが始まる12月24日に被さるように7日間を休みにしてもらった…ま、先生には先渡しで冬休みの課題を渡されたので2日前まで結構大変だったけどね…俺、よく頑張ったよマジで…
後、昨日美容院に行って髪を切ってもらった、今の髪型はツーブロックだ。理由は今までの陰キャスタイルだと視界が狭いから死ぬリスクが高いためである。
「渉様、目的地に到着しました」
運転士の如月さんの声に俺は現実に引き戻された。
「すみません、ありがとうございました」
「いえ、ご武運を」
俺は如月さんにお礼を言うと手荷物を持って車から降りた。そして降りてから周りを見渡す。
「これって…」
「ひでー光景だろ?」
俺がこの世界の歌舞伎座の光景に絶句しているといつからいたのか大神さんが歌舞伎座の入り口に立っていた。
「大神さん…」
「この前、仮の方に来た時以来だな。…しっかり見ておきな、これが今の封鎖された歌舞伎座の光景さ」
この世界の歌舞伎座の周りは何もない、東京だというのに草が生えゴミや不法投棄された家電が目立つ。故に誰も手入れをしていない事が見てとれる。
そして歌舞伎座を中心にビル2棟分離れて高層ビルが建っていて、まるで歌舞伎座が孤立しているような感じだ。そして歌舞伎座自体も前の世界と同じく日本を感じる綺麗な白の建物なのが余計に目立つ、しかし歌舞伎座の周りにはゴミは一切ない。
「一応、大掃除は毎年しているから歌舞伎座自体は綺麗なもんさ。だが、ダンジョンのせいで封鎖されると発表されると歌舞伎座の周りの土地も危険だからと自主的に土地を売る奴が出てきて、最終的にはこうなった。ここは言うなれば銀座に出来た隔離区域、誰も近づかず車も素通り、かつての栄光もないただの悲しい建物さ」
そう言いながら大神さんは後ろの扉を指さした。
「とっとと中に入りな、ギルドの職員さんが待ってんぜ。後、着替えは奥に行くと多目的トイレを改修した簡易更衣室があるからそこでしな」
「…」
俺は無言で大神さんに頭を下げて、建物の中に足を進める、
(…やっぱり、こんなの見せられたら頑張るしかないじゃん)
改めて覚悟を決めながら。
~歌舞伎座 花道~
「へぇ、良いじゃねえか。動きやすそうだ」
「ありがとうございます。大神さん」
俺はあの後、各種装備を装備を付け最終確認をしてから舞台の花道に呼ばれた。
俺の今の服装は『Monster Hand Live』で統一されている。今回の装備は体にぴっちり張り付く感じになっている薄い長そでTシャツに黒一色のミリタリーパンツ、腰には解体用ナイフからサバイバルナイフ型の蛇腹剣を装備できるように改良した改修版の特製のベルトポーチを装備して頭に黒いマリーンキャップに軍用ブーツ。これは『Monster Hand Live』が実写映画化決定を記念して配布されたコラボ装備である「アーノルド軍曹装備パターンγ」である。
そして装備は刃が青く、そして持ち手が骨でできている2本のククリナイフ、「ダブルボーンククリ改二式」がチョッパーのあった場所にマウントされている。
正直、探索者シリーズパターンαでもよかったが今回は機動性と動きやすさ重視なのでコラボ装備だがこっちにした。因みに防御力は何故かこちらの方が高い、モンスターの皮と魔石の粉の強化がなせる技である。
因みに実写映画の内容は海軍の軍艦が『Monster Hand Live』の世界に迷い込み、アーノルド軍曹が仲間達と生き残りをかけた狩りに興じる設定だ。見た感想を言うと完全にB級感が半端なかった。
「それでは渉さん、こちらを」
俺が大神さんと話していると職員さんが何かを渡してきた。それは…
「ドックタグ?」
そう、軍人がよく首から下げているドックタグだ。
「そちらは我々が用意したダンジョンにゴミとして認識される素材で作ったドックタグです。それをダンジョンから出るまでしっかりと持っていてください。そのドックタグがゴミとして排出したのを確認次第、死亡判定になりますので無くさないようにお願いします」
なるほど、理にかなっている死亡確認方法だ。
「後、コイツだ。優香から預かってきた、ギルドには確認済みだから腕にでも着けな」
今度は大吾さんが俺に何かを渡してきた。
「これは…ミサンガ?」
それは青色と茶色の2色のミサンガ、優香さんのオッドアイと同じ色だった。
「お守りなんだとよ」
そう言いながら大吾さんは少し口角を上げる。
「まさか人嫌いのあいつがお前さんにコレを渡せって言ってくるなんて思わなかったぜ」
そう言う大吾さんの顔は嬉しそうだった。
「だが…これを渡す前に、お前さんに一言だけ言いたい」
しかし今度は真剣な顔になり、そして…
「優香はお前にはやらん!あの子にはまだ早い!!」
大声で爆弾発言を言い出した。
「いや!そんな関係じゃないっすよ俺達!!」
流石に否定しよう、後が怖い。
「いや、俺には分かる!だからもしあの子に手を出したら…」
そう言うと大吾さんは鋭い目で俺を睨み、
「来年の庭の桜は綺麗に咲くだろうな…」
「いや、それ死刑宣告!?」
まさかの死刑宣告を受けてしまった。優香さんの家族愛が半端なかったがまさかこの人も優香さん愛が半端なかったとは…
~しばらくして~
「いい加減にしてください二人とも、帰りますよ?」
「「すみませんでした!」」
俺達はさすがにふざけ過ぎたのか花道で二人、職員に正座させられた。出鼻くじかれた感が半端ない。
「…それでは、渉さん。時間が迫っていますので早く渡した物を装備して下さい。後そのミサンガも」
「ついであつか…
「何か?」
何もありません!!」
大吾さんが職員の圧力に負けたのか大声を出して謝った。
(やば、怒らしたらいけないタイプの人だ。早く着けよ!)
俺はそう思いながら急いで首にドックタグを、右手の手首にミサンガを装備した。
「準備できました」
俺がそう言うと職員さんが後ろを向く、目線には舞台の真ん中に見慣れたダンジョンの入り口があった。
(行けって事か…)
俺は無言で立ち上がろうとする…が、
「…渉さんよ」
正座している大吾さんに呼び止められる。しかし俺は振り向かない、多分言いたい事は分かっているからだ。
「…死ぬなよ?」
「当然」
俺はすぐにそう返すと立ち止まらずに歩き続ける、そして見慣れた黒い板の前に立ち止まる。
(さて、行きますか!)
そう思いながら俺は板に触れる、そして謎の浮遊感が俺を包んだ。
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