第40話 修正版

「…え?」


心臓を鷲掴みにされた気分だ。俺は自分の拠点はあの時に父さんと職員に聞いてみたが何もないと困らせて終わったため、拠点の事は誰にも話してない。話しても信じてもらえないと考えたからだ。


「突拍子の無い話をしてすみません。でも、『自分にしか見えないスキル』は実在するんです。何故なら…」


彼女はそう言うと自分のオッドアイの両目を片手で隠した。


「私のこの目が、そのスキル自体なんです」


彼女はそう言うとゆっくりと手を顔から離した。そしてそこから彼女は語りだした…


「『心境写しの双魔眼』、それがそのスキルの名前です。

私の右目は相手の心の内の考えを光景として映します、そして左目は右目で見た光景を私に確実に理解させる力があります。

相手に目線を合わせないか、去年に発見した伊達メガネなどで直接自分の目にフィルターをかけるかしないと発動を抑えることはできませんが、それ以外なら常時発動してしまうんです。

このスキルで私は生まれた時から今まで色んな人を見てきました…」


彼女はそう言うと顔を下にして俯く。…というかあの時鼻メガネをかけてた理由はこれか…


「本当に色んな人がいました、私を手籠めにしようとする人やお父さんを殺そうとする人、色んな心の中の闇を見たくもないのに見せてくる、もはや呪いみたいなスキルなんですよ。

正直、この目のせいで何回も信じた人に裏切られましたよ。

そして…」


彼女は震える、多分相当ヤバい光景を今まで見てきたんだろうと思う。


「この目のスキルの事を誰かに言っても信じてもらえませんでした、実際に検査してもらえるスキルが彫られているプレートにも私は見えているのに他の人には見えていなかったんです。

正直、精神が病んで何回も自殺を図りました…でも、それをいつも止めてくれたのが家族なんです」


彼女は顔を上げる、その眼には涙を浮かべていた。


「家族だけが私を信じてくれて、そして受け入れてくれました。

私の見た光景でどんな悲惨な光景を見たとしても家族が私を支えてくれました。そんな家族の光景はいつも美しく、綺麗で安心する光景で本当に愛してくれているんだなって理解できました。

故に私は家族の為、この呪いのような力を使おうと決めたんです。ですが…」


そう言いながら彼女は自分の胸に手を当てる。


「あの日、いつもの様に請負人の人を見ていました。私たちを騙そうとする人、危害を加える目的の人なのかを判断するために。

でもあの日、鼻メガネを外した時にあなたを見た、見たんです…」


彼女はそう言うとしっかりと俺に顔を向ける、そしてその顔はなぜか困惑したような顔だった。


「しっかり見た、でもあなたからは何も見えなかった。

こんな事初めてでした。何も分からない、見えないのは1番恐ろしかった!

もしかしたら家族に危害を与える人なのかもしれない、そう思いました」


彼女はそう言うとその場で絞り出すように声を出す。


「だから…教えてください。あなたの考えていることを全部。

私だって本当はこんなことしたく無いんです。でも、もし私が見えなかったばっかりに大切な家族を危険に晒してしまったらと考えるだけで私は…私は…」


そして彼女は今度は両腕で胸に手を当てて震え出す、まるで何かに怯えるようにも見えた。


「私は家族を守りたい、それだけなんです。先程のレイピアを貴方に向けて脅迫した事はもちろん悪い事だとは理解しています。

でも、私にはそれしか思いつかなかったんです。勿論貴方を少しでも傷つけてしまった場合は謝罪はもちろんキチンと自首もするつもりでした。

でも、私はそれほどまでして貴方の考えている事を知りたかった。貴方の事をハッキリと理解したかったんです」


そう言うと、優香さんは震えが止まったのかゆっくりとこちらに向かって歩き出した。

そして、俺の目の前で止まる。


「だから…教えて下さい。

貴方の気持ちを、貴方の考えを、貴方は…何を考えているの?」


そう言う彼女は真剣な眼差しで俺を見てくる。


(家族の為…か…)


その行動に、俺はこう思っていた。

正直、話を信じるのであれば俺なら精神が壊れてそのまま死んでもおかしく無い、そう思える。

そして家族がそんな状況で支えてくれたのであればもはや心の拠り所は家族しかいないのも頷ける。

だから彼女は自分が犯罪者になっても家族の為に動いているのだ。

…彼女は俺とは違い、自分にしか見えないスキルのせいで人生を狂わされたのだろう。ならば、そんな彼女にはこう言うしかない、俺はそう思った。


「…さっきの話の答えだけど俺は信じるよ、君の自分しか見えないスキルの話を」


「根拠もないのに信じる?馬鹿にしているのですか?」


彼女は俺を睨む、そして更に少しずつ俺との距離を詰めてくる。


「ああ、信じる…だって、」


彼女と俺との距離がほぼ無いに等しいくらいの距離まで詰め寄ってくる。そして動く彼女の目には光が無いのがよく分かった。しかし彼女は…


「俺も、そんな見えないスキルを持っているから」


「…え?」


俺の言葉で動きを止める。そして目に光が戻り、顔をきょとんとして俺を見る。


「…」


「…」


ドドドドドドド…


お互い無言だ、そして洞窟内は滝の音が響きわたる。そして最初に沈黙を破ったのは彼女の方だった。彼女は俺から一気に距離を取る、大体2メートルくらいだろうか?凄まじい脚力だ。


「な…何をバカなこと言っているんですか!?あなたにも私みたいなスキルが、こんな呪いみたいなスキルがあるというんですか!?」


彼女はさすがに動揺している。まあ、無理もない。確かに俺のスキルやジョブは彼女は大吾さんの隣にいたから知っている。なのにそんな俺が話を聞いた後に自分もそんなスキルを持っているなんて言ったら流石に信じないだろう。


「まあ、まだ未開の部分があるから父さんにもキチンと説明していないし、ぶっちゃけ俺のは呪いとか言われたら、多分そんなもんじゃないと思うが…」


「なら、やはり今のは嘘ですか!?」


そう言うと彼女は今度は2本のレイピアを抜く、顔は怒りの表情が張り付きその眼には完全に殺意がある。おそらく揶揄われたと思ったんだろう、怒りに身を任せて暴力的になっているように見えた。しかし、俺は焦らなかった。


「…ここは滝の音がうるさいな」


「私の質問にこた…」


彼女の声を遮るように俺は地面を軽く足踏みする。


「…え?」


「ここで話しても俺が怪我をして君が捕まる未来しかなさそうだし…それに君にはキチンと見て判断して欲しいから特別に見せるよ。だから…」


彼女の怒りの顔が徐々に驚愕の顔に変わる。俺にはわかる、彼女は今…


「ちょっと俺のスキルの中で話そうか?」


俺の背後に展開した空間に面くらっているんだから。


「…」


カランッと両手のレイピアが落ちる、そして驚愕の顔を張り付けながら固まっている。


「ああ、目の前にある光景はきちんと実体があるから安心しな」


「湖?それに二つの月に…教会?」


彼女の言葉に俺は口角を上げる。


「ああ、これが俺の自分にしか見えないスキル。『湖岸の古びた狩人の拠点』だよ」


俺はこの日、初めて俺の謎のスキルを他人に公開したのだった。


「…あ、そう言えば俺以外を拠点に入れた事なかったや。キチンと中に入れるのかな?」


「…今それを考えますか?」


しかし、何故か若干残念な感じになってしまった。

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