第39話

薄暗い洞窟の中、灯りは彼女が床に置いていた大型のLEDランタンで意外と明るい。

滝の音が洞窟の中に響く、そして俺たちお互い距離が人二人分でお互い動かない。


「…」


「…」


しかし俺は今それどころではない、


「…教えてください」


何故なら…


「何故アナタは…何も見えないの?」


彼女の武器のレイピアが右目の眼球スレスレで止まっていて動けないのだから。


(どうしてこうなった!?)


俺は今日の昼を思い出した。


~~~~~


《あの、聞こえてますか?》


正直に言おう、すごく緊張する。

前の世界を合わせて今まで生きて48年、彼女がいない&女友達がいない歴=今までの人生の俺には年下女性からの電話はヤバい。


(落ち着け俺!COOLだ俺!もしかしたら大吾さんが運転中で代わりに電話を頼まれただけかも知れない!!)


《あの、父のスマホを勝手に使っているので簡潔に用件を言いたいんですが?》


「…グハッ!?」


《だっ大丈夫ですか!?今何を吐き出したんですか!?》


やばい、予想を軽く吹き飛ばしてきたよこの子、ヤバくない!?

…よし、落ち着け俺。叶との電話と同じだ、いつもの感じで行くんだ俺!


「大じょっ!?」


《今、噛みました!?》


すまん、舌噛んだ。

しかし舌を噛んだおかげで落ち着いてきた、今なら普通に話せそうだ。


「…すまん、初めての女性からの電話だったから混乱しただけだ、もう落ち着いた」


《は…はぁ…》


うむ、どうやら少し呆れられたかもしれん、しかし今はどうでもいい。また緊張してしまう前に要件を聞かねば。


「すまない、要件を言ってくれ」


《わかりました、では…》


まあ、優香さんとはあの日以降会っていなかったので大した用事でも…


《今日の夜、どこかで会えませんか?》


訂正する、大事件が発生した。


「あの…会うって会うですよね?meetの方ですよね?」


《英語…はい、あってます。出来れば誰もいない見えない所で…》


落ち着け俺!落ち着け!!彼女は何と言った、会う?俺と!?


(考えろ俺!彼女が言った会える場所の条件は誰もいない、見えない場所だ。考えろ!)


俺は頭が混乱しながら今まで行った事のある場所を振り返る。


(自宅…初手で自宅は論外、学校…夜は開いていない、月の兎…だめだ、アンディさんが茶化してくる!)


頭がもはや異次元で回転する。そして…


「銀座駅内ダンジョンの滝の裏の帰還用ポータルがある洞窟はどうでしょうか!?」


最悪の一手を選んでしまった。


《…》


(やっちまったー!!)


やばい。夜のダンジョンは光源が月だけだから暗いし、別の光源を持っていればモンスターに狙われる。危険度が一段と上がるのだ。

そんな危険地域で会うとか俺はバカか!


「ごめん。いま…


《…いいですね、そこで会いましょう》


…マジで!?」


俺死んだわ。彼女を危険地域に放り込んだ件で大吾さんに殺されるわ。


《では、今夜に洞窟で、お時間頂きありがとうございました》


「ちょっま…」


そのまま会話が終了する。そして俺はもはや冷や汗しか出なくなる。


(ヤバい、彼女の安全を確保しなければ!)


俺はそう思い、急いで目的地を変更してギルド系のビルに向かうべく道を確認する。


(あ、そういえば暴食龍姫には緊張しなかったな…まあ、あいつは女性と見る前に肉焼けって言ってくるから例外なのかもな…)


そう思いながら俺はそのまま駅に向かった。


~~~~~


それでヴェロルの死体を回収した後に体を洗い、洞窟に到着したんだが大型のLEDランタンが洞窟を照らしていているのが入り口で確認したので、洞窟の中に入った瞬間、目の前に彼女が表れてこうなった訳である。


「あの…話を聞いていますか?」


彼女は俺にそう聞いてくるが、流石に俺は今、右目をレイピアで寸止めされて動ける自信が無い。

そもそも彼女の装備はいかにも女騎士っぽい軽装で全身を隠せそうな黒いフード付きマント、武器はナックルガード付きのレイピアが抜いている物を含め左右に1本ずつだ。

いかにも速度重視の装備だと言える。


「いや…何が見えないとか…分からないん…ですが…」


何とか声を出しながら彼女に応える、そんな声に彼女はそのままレイピアを構えながら後ろに軽く下がってからレイピアを納刀して俺に向き合う、滑らかな動きに相当な訓練と実戦を重ねたと分かる動きだ。


「すみません、少し興奮してしまいました」


彼女はそう言いながらそのオッドアイの瞳を俺の目線に合わせる。


「いや、さすがに興奮したら目をレイピアで刺そうとするとかヤバくない?たとえダンジョン内でも犯罪だよ?」


ダンジョン内でも人を殺してしまえば犯罪だ。分かり次第、死刑と決まっている。


「本当にすみません。あなたが何も見えなかったので悪意があるのか知りたくて、つい…」


そう言いながら彼女は頭を下げる。


「いや、そもそも『何も見えなかった』って何?」


しかし、俺は彼女の「何も見えなかった」という言葉が気になった。


「…わかりました。ではその質問に質問で返す形になりますがあなたに質問します」


しかし、俺はこの日の夜の事を一生忘れないだろう…


「あなたは…『自分しか見えないスキル』があるのを信じますか?」


俺の謎のスキル、『湖岸の古びた狩人の拠点』の謎の一部が分かったのだから。





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